<短い手足>
分解した小惑星を元に新しいスケジュールにしたがって投下用の特殊な外装処理を施したナノマシンの作成を進めていく。
外装をどういった形にするかに関しては、人間の情緒が理解できない船の人工知能の判断の及ばない問題だったので、ぬいぐるみという生物を元にした人類に愛されたとされる姿かたちを使用することとした。
テディベアを筆頭にデータベースにあるものは片っ端から再現した。
一時的に格納庫がぬいぐるみ専門店のようになっていたのはシュールな光景だった。
何故このような姿かたちを取ったか、その理由は2つある。
ひとつには分解用ナノマシンとの識別を容易にする目的、もうひとつは今回の外装はあくまでも装甲としての外装であり、内部のナノマシンが役目を終えて自己崩壊した後も外装は残ってしまうためである。
最優先の目的は惑星の地球化なので、その地表に残留するものの形状にも配慮したすばらしい作戦だと人工知能なりに自負した。
そして、船の人工知能が静止軌道上から地表を光学観測し、分解用ナノマシンを見つけた場合優先的にそれを目標にしてぬいぐるみ降下兵団を投下した。
もし地上から見上げている者がいれば、空から沢山のぬいぐるみがその短い手足をもぞもぞ動かしスカイダイバーのように上手に大気を泳いでいる姿を見ることが出来ただろう。
事前に降下を完了していた降下艇からの連絡によれば少なくとも降下艇の半径1kmは現在制圧が完了したようだ。
それに伴い、予定通り地球種生物の生成も開始した。
分解用ナノマシンは当初想定していた以上の数とバリエーションにとんだ姿かたちを手に入れていた。
大きさも一定ではない。
現時点では分解用ナノマシン達はそれぞれが個体として活動しているのみであり、組織的な行動は一切見受けられない。
個々の能力はまちまちで中には強力な個体もいるようだが数の圧力には抵抗できないだろう。
今回の地球化には時間の制限がないのでこのまま順次ぬいぐるみを追加していけば最終的には排除が完了するものと思われる。
◇ ◆ ◇
資材として利用していた小惑星を使い尽くした頃、分解用ナノマシンの残存数がぬいぐるみ達の投下開始時点より1割をきった。
そのあたりでおかしなことが起こった。
数的には駆除数は一定の成果をあげていたが、分解用ナノマシンの総数はむしろ増加しているのだ。
どうやら複製能力が高い突然変異体が誕生し駆除数よりも勝ってしまったらしい。
突然変異を起こすリスクよりも今回の場合はメリットが大きかったようだ。
船の人工知能はここで新たな小惑星の確保も検討したが、短期的には数的な優位を覆せない可能性が高くなってしまったので地上で活動している降下艇に次のような指示をした。
降下艇は地表の材料を利用して生物を生成するナノマシンプラントを持たされていたので原理的にはほとんど無限の生物を生み出せる。
ただ、大量に生物を生み出してしまうと生物同士のテリトリーの問題や、捕食関係にあるものを同時に作ってしまうと生成した意味が無くなってしまうので、分解用ナノマシンに対して効果が高いと思われる生物種を優先して生成する指示が出された。
降下艇は倫理観等は持ち合わせていなかったので、優先的に高等生物を作成し、その中にはたまたま人類も含まれていた。




