↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【恋愛短編集】大入恋愛二乗(おおいり・れんあい・じじょう)  作者: 槍玉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/23

同じ誕生日である確率

誕生日が同じというカップルはそうそういないだろう。確かにそれは偶然だ。偶然を必然に変えたのは、少しの勇気と厚かましさだ。


「同じ誕生日なんだ」


紗枝がそう言って、飲み会で声をかけてくれた。


星占いサークルという怪しさあふれる団体に足を踏み入れた。これでも伝統ある大学の公認サークルだ。


誕生日・星座はサークル内でも共有されてしまう点が個人情報的に困りものだが、皆パスワードまわりには生年月日は使わないのが入部時のルールでもある。


紗枝が僕と同じ8月4日生まれというのは、驚きかといえば1/365程度だ。だがサークルはちょうど50人。誰かと誰かが同じ誕生日になる確率は約97%もある。逆を言うと、50人全員が違う誕生日になる確率は3%ほどしかないのだ。


というのは、数学的なレトリックであって、実際は1/365で0.274%ほどだ。


星座占いは数学にも通じていて、たとえば十二という数字。これは約数が多い。二、三、四、六で割れる。だから分類するには都合がいい。人間を十二のグループに分けて、それぞれの性質を語る。もちろん科学的根拠はないけど、こういう「分類して傾向を見る」っていう発想自体は、数学とけっこう近い。だから星座占いサークルに入部したのだ。


いや、違う。


紗枝に一目ぼれしてしまい、彼女の入っているサークルを探して、入部した。ストーカーと言われたら、反論の余地はない。


8月4日生まれというのは、嘘だ。僕は9月10日生まれだ。8月4日は栄養の日で、9月10日は牛タンの日だ。栄養と牛タン、こじつければつながりはありそうだ……いや、ないか。


この嘘がバレない程度に、近づければいいと思っていたが、図らずも紗枝から「お付き合いして欲しい」と告白された。


例の飲み会で、誕生日が同じで盛り上がり、SNSの鍵付きアカウントを連絡先として交換した。ためらいはしたが、その日にDMを送り他愛のない話を積み重ねていった。好きな俳優が同じだったこともあって、映画を観に行き、好きなバンドが同じだったこともあって、フェスにも行った。フェスはなかなかハードルが高いお出掛けだったが、その帰りに告白されたのだ。


好きなモノが同じ、それが多いということは、価値観も同じということだ。


いや、同じというのは違う、価値観が近いということだ。他にも無数にある価値観が一致しているわけではない。だから、「近似」でしかない。どこまでいっても「同一」ではない。「同質」という方が合ってる。


大学を卒業して五年付き合って、僕たちは婚約した。もともと結婚を前提にしたいというのが、紗枝からの条件だったが、思いのほか引き延ばしてしまったのだ。


初めての女性と結婚はやめておけと、星座占いサークル部長の高須は何度も忠告してきたのが、五年間喉に刺さった魚の小骨のようにひっかかっていたのだ。


「占いによると、二人の相性は最悪なんだよ」

「同じ誕生日だと最悪になるのか?」

「そんなシンプルな星座占いだけじゃないよ。数秘術も四柱推命も九星気学もダメ」

「生まれた時間がわかんなくても四柱推命、占えるのかよ」

「一応ね、それよりも合わないんだよ。200×年の8月4日どうしって最悪で」

「占いなんて信じないよ」


と吐き捨てて、久々に再会した高須の忠告を無視することにした。


だがどうしても気になるった。高須は占いマニアだ。タロットや易といった卜術、手相人相姓名判断といった相術にも精通している。が、奴は生年月日をもとにした命術だけで僕たちを占った。


僕は紗枝に一部始終を話し、高須に改めて他の占いも診てもらうことにした。紗枝はうつむきながら「わかった」というだけで、あまり気にしていない。


既に同棲を始めていたアパートに、高須を呼んだ。高須は電話越しに訝しそうに躊躇したものの、紗絵に会うのも久々だしという理由で承諾してくれた。


高須にはタロット・手相・人相・姓名判断をお願いした。どれも相性は最高、この二人を於いて他にカップルなどいない、というものだった。


高須は自分で占っておきながら、自信のある命術(生年月日をもとにした占い)では、どうしてここまで相性が最悪なのかと、首を傾かしげた。


僕は紗枝と高須の前で、本当は紗枝と同じ8月4日生まれじゃないってことを告白した。9月10日生まれの乙女座。婚姻届けを書くときにはわかるし、いつかは紗枝に言わないとと思っていた。実家に連れて行ったとき、両親に口裏を合わせてもらったのは、紗枝にも両親にも心苦しかった。


「どうして、8月4日って嘘ついたの?」

紗枝が落ち着いた声で尋ねた。

「だって、紗枝と同じ誕生日にしておけば、話すきっかけもできると思って」

「あ、やっぱり」


紗枝が腑に落ちたように、笑った。高須はことの経緯を静かに眺めているだけだ。


「私、真治の誕生日を8月4日って誰かに聞いたの。たしか、同じ英語のクラスの子に。それで、サークルの名簿にもそう書いた。8月4日生まれにしておいて、いつか真治と知り合ったらそれをきっかけに話せると思って」


紗枝が五年もの時を経て、真実を話し始めた。


「それで、真治がサークルに入って来たでしょ。だから、これはチャンスって思って」


僕の誕生日を間違って伝えた誰かのおかげで、二人は何の縁もゆかりもない8月4日生まれで五年間も嘘をつき通してきたわけだ。


高須が腹を抱えて笑い、笑いすぎてお茶をこぼした。

「ごめんごめん、雑巾ある?」


何がそんなにおかしいのか、高須はずっと笑ったままだ。お茶をこぼしたんだから、もう少しちゃんと謝ればいいのに。この一連の二人の可愛い嘘がそれほどにおかしいのか。

高須がフローリングにこぼしたお茶を拭きながら言った。


「紗枝ちゃんに真治の誕生日教えたの俺だわ。二人とも忘れてると思うけど、俺も同じ英語のクラスだったろ」


高須によると紗枝が星座占いサークルに入ったのは、彼の誘いだったと。

紗枝が「そうだったっけ?」と記憶を辿る。


「あ!思い出した」僕は声を張り上げた。


六月になってもサークルが決まらない僕に高須が、星座占いサークルに来いよと誘ってくれたのだ。「高梨紗枝もいるからさ」という高須の誘い文句に、二つ返事で答えたんだった!!


じゃぁ、紗枝の誕生日はいつなんだろう?

それも婚姻届けを書くときにはわかるはずだったが。


「二人ともいつ本当の誕生日を言い出すのか、そのことばかり考えていたんじゃないか?」と高須がやっとフローリングを拭き終わり、シンクで雑巾を絞った。間接的には高須、お前が原因だ。


「紗枝って、誕生日いつなの?」


食器棚のガラスに映る僕の顔は、この五年で一番真剣な顔だったと思う。

「それがね、9月9日なの。占いの日なんだよね、出来過ぎた話だけど」

「真治は?」

「僕は、9月10日、牛タンの日だよ」

「一日違いだったんだ」


何事もピタリと同じわけにはいかない。


高須が突然占い始めた。占いの日に産まれた人と牛タンの日に産まれた人を占う。最低、最悪の相性だ。それでもいいさ、と思う。

僕たちはこの日のために、お互いの両親に生まれた時間を確認していた。


200×年生まれの9月9日13時15分生まれの紗枝200×年生まれの9月10日9時27分生まれの僕


高須に正確に情報を伝えた。

ものの五分ほどで高須は占い終えた。


「いやぁ、同じ9月9日生まれなら、最高の相性なんだけど。まぁ悪くないよ」

なんとも、ばっくりとした結果だ。


彼女からの急な呼び出しで高須が慌ただしく出て行った。紗枝と二人になった静かなリビングで、簡単に計算してみた。

AとB、二人が連続する誕生日である確率。

1/365 × 1/365 × 2 = 2/133,225 ≒ 0.001502%


紗枝はいつの間にか夕食の準備を始めていた。なんとなく、この確率を伝えるのはやめた。


6万6613組に1組の確率だが、そんな数字よりも、このめぐり合わせはもっと希少である。


だって、二人とも誕生日を嘘ついて、付き合ったんだから。


僕はテーブルを拭いて、食器の準備を始めた。

高須には、ありがとう、とだけLINEを送っておいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。