フェリオからの手紙
ラランテスから受け取った手紙は、メリッサ宛てだった。
努力が垣間見えるようなこの上なく美麗な文字で、メリッサの名前が記されていた。
そこには、アンナーティアの名前も記されていた。
封筒を開くと、そこからもう一つの封筒が現れる。
その封筒は、妙に薄汚れていた。
「……この字」
中から出てきた封筒もメリッサ宛てだった。
封筒に書かれた文字には見覚えがある。
だって、今は毎日見ているのだから。
無骨さもあるが、伯爵家に生まれたものらしく、訓練された文字。
これは、フェリオの文字だ。
メリッサは、手の震えを必死に押さえながら、手紙を開封した。
封筒にしろ、開けた瞬間の手紙にしろ、机の上で書いたのではないことが一目でわかるような文字だった。
「走り書き――どこで書いたのかしら」
メリッサの目からは、涙がこぼれ落ちた。
おそらく戦いの合間に、場所を見つけて書いたのだろう。
封筒も便せんも、汚れがついているのも、その事実を示しているようだった。
それだけで、彼がどれほど過酷な場所にいたかも理解したし、それほどの状況でも返事を書いてくれていたことがわかった。
手紙には――『ルードとリアのことを大事に育ててくれていることについて感謝する。君も体に気をつけるように。必要なものは惜しみなく買うように。無理はしないように』とだけ書かれていた。
先日、戻ってきてからメリッサがねだって書いてもらった手紙と内容は大差ない。
愛しているとも書かれていない。
当時受け取ったしても、メリッサの心証はそこまで大きく変わらず、ルードとリアを育てていることに対して感謝してくれているのだ、というものだっただろう。
――でも、今は違う。
「――大変だったのですね」
メリッサは、手紙に指先を滑らす。
彼は、命懸けで戦っていたことをもう知っている。
戦場から戻ってきてから、フェリオの魔力が回復するまでは一月ほどかかっていた。
上級魔法学を学び始めれば、魔力の枯渇と回復に関する計算も出てきた。
通常であれば、魔力は眠ればすぐに回復する。
フェリオの魔力が一月も回復しなかった理由は、何度も魔力を枯渇寸前あるいは枯渇させながら戦い続けてきたからだ。
――そうして無理な魔法の行使をすることで、魔術師の一部は魔力に飲み込まれてしまったり、魔力が回復せずに死んでしまうこともあるという。
「……そんな状況で、私の擦り傷や服を乾かす魔法を使うなんて」
メリッサは、涙を拭った。
「――誰かのことばかり」
「メリッサ?」
メリッサは、びくりと大きく身体を震わせた。
そして、フェリオからの手紙を引き出しにしまった。
「お帰りなさいませ! 今日は早かったのですね」
「……何かあったのか?」
フェリオが眉根を寄せた。
泣いたせいで、メリッサの目が赤くなっているからだろう。
「ちょっと、小説を読んだら感動してしまって」
「それならいいが……」
メリッサは思う。
手紙を受け取ることができなかった三年間は残念だった。
だが、互いに想いを交わした今になって、遅れて届いた手紙はまるで時を超えたようだ。
「大好きです、フェリオ様」
「――急にどうした」
フェリオの耳元が赤い。
彼は照れると、耳の辺りが赤くなる。
夫婦になって、あと少しで四年が経とうとしている。
けれど、メリッサとフェリオの距離は家族あるいは恋人程度のものだろう。
「私、フェリオ様と結婚できて幸せです」
フェリオは、何か言おうとした。
けれど、それよりメリッサが彼の肩に手を当てて引き寄せ、思いっきり背伸びして彼の唇を塞ぐのが先だった。
夫婦の距離は、これからも近づいて行くに違いない。
だが、甘い空気はこのあと少しだけお預けだ。
ルードとリアが危険な魔法を使ったことについて、話し合わねばならないのだから。





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