魔力なしの王子と王女 3
「アンナーティア!」
「――フレッド! 無事で良かった!」
アンナーティアが走り寄ってきた。
彼女がフレッドのことを心から心配していたことが伝わってくる。
メリッサのアンナーティアに対する第一印象は、すっかり変わってしまった。
「奥様は人が良すぎます……」
「私たちの奥様らしいですけれど……」
「――だから、私たちも奥様をお慕いしているのではありませんか」
マーサとメアリーとダリアが、円陣を組んだ。
「「「我らの奥様は女神!!」」」
メリッサはその姿を見ながら、自分も彼女たちの言動に慣れてきたものだと口の端を緩めた。
だが、メリッサは自分が特別人がいいと思っているわけではない。
――貴族的な視点で見れば、アンナーティアとフレッドが、フェリオが属する魔力革新派の重要人物であることは間違いない。
メリッサには魔力がないから、フェリオとの子どもには魔力がないかもしれない。
ルードとリアのためであることももちろんだが、いつか生まれる子どものためにも……。
そんなことを一人考え、メリッサは考えが飛躍しすぎたと頬を染めた。
フェリオは、そんな彼女の様子に気がついていないようだ。
「フレデリカ様……そろそろ、お暇をお許しいただきたく」
「ええ、また来てちょうだい。特にロイフォルト伯爵夫人は、いつでも来ていいのよ」
「誠に光栄でございます」
「――私、思ってもいないことを言うのは嫌いなの。本当に呼び出すわよ」
「……はい」
メリッサは、蛇に睨まれた蛙のような気分になった。
今でも王国の中枢に絶大な影響力を持つ国王の祖母フレデリカ。
ラランテスやフェリオ、そしてルードにリア、魔力を持たないアンナーティアとフレデリカ。
彼らが並んでいる姿を見れば、王国に訪れる近い未来の姿が浮かび上がるようだ。
「フレデリカ様」
「あら、まだいたの」
「……」
「強い土と闇の魔力、しかも魔法として行使できる上に、魅了の瞳持ち……ね。どうしてこんなに面白い人間を見落としていたのかしら」
エレンが涙目になった。
急に国王の祖母に呼び出された彼は、とても緊張していただろうに。
すると、フレッドがフレデリカのそばに寄って耳打ちした。
「ひいお祖母様、あのね」
「……あら、そうなの」
フレデリカが微笑んだ。
だが、メリッサには彼女の笑みが再び蛙を狙う蛇のように見えた。
「ふふ、エレン・リー。フレッドの子猫を助けてほしいという願いを叶えてくれたそうね」
「は……殿下の願いを叶えるのは、国民として当然のことでございます」
「褒美として、この庭園での重要な話し合いの時の子守係に任命するわ」
「え!? ……ここここ、光栄でございます」
褒美になるのだろうか……と、メリッサは思ったが、国王の祖母自ら未来ある子どもたちの世話係に任命されることは、この上ない栄誉であろう。
だが、彼はすでに王立学園で未来ある王族や貴族の子どもだちを教育しているのだから、今更ではあるのだが。
「……それから、その眼鏡をお寄越し」
「は……しかし、こちらは壊れておりまして」
「私の個人的な宝物庫に透明な魔石があったのを思いだしたわ。これが本当の褒美よ」
「――っ、ありがたき幸せ」
「……そのブローチがあれば、瞳の魅了は抑えられるでしょうけど、その美貌は隠さないとどちらにしても人は魅了されてしまうでしょうし……便利に使える駒は隠しておかないとね」
国王の祖母は、扇を広げて目を細めた。
エレンはその瞳に捕らわれたように青ざめてガクガクと震えている。
「それでは、お茶会はこれで終わりにいたしましょう。また、招待するわ」
こうして、国王の祖母のお茶会は閉会した。
フェリオは、このまま魔術師団本部へ向かうという。
ものすごい疲労感を覚えながら、メリッサはルードとリアとともに帰宅するのだった。





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