魔力なしの王子と王女 2
もしかすると、ルードの土魔法がまた暴走してしまったのだろうか。
マーサとメアリーとダリアが、ものすごいスピードで走って行く。
彼女たちの腰を心配しながら、あとを追いかける。
ルードとリア、そしてフレッドが上を見上げていた。
ルードとリアが無事であることを確認し、メリッサはほっと息を吐いた。
そのとき、頭上から声が聞こえてくる。
「わ~降ろしてください~!」
「……エレン先生?」
見上げるほどの大木の上に、エレン先生がいる。
地面に眼鏡が落ちている。一体何があったのだろう……。
彼の腕には、白い小さな生き物がいる。
「……ルード、あなたの魔法なの?」
「あの子を助けようとしたんだけど、土魔法失敗しちゃったの……。エレン先生が危ないからって止めようとしたら木が大きくなっちゃったの」
「珍しいな……同属性の魔法が混ざってしまったのか」
フェリオが足下に魔法陣を描く。
彼は、ポンポンと魔法陣を飛び石のようにしてエレンのところまで上がり、ヒョイッと横抱きにして再び降りてきた。
――夜空のような深い青。ものすごい美貌だわ!?
メリッサは、驚いてしまった。
降りるときに前髪があがり、一瞬だけ見えたエレンの顔は、フェリオに負けないほどの美貌だったのだ。
「……ありがとうございます、ロイフォルト伯爵」
「いいえ、こちらこそ息子がご迷惑をおかけしました」
エレン先生は、眼鏡を掛けようとしてピタリと動きを止めた。
「ああ……壊れてしまったかぁ」
「エレン先生、ごめんなさい」
「いや、ルード君が謝る必要はない。こちらこそ心配を掛けてしまったね――おっと」
白い生き物は子猫だった。子猫はエレンの手から逃れると、遠くに走り去っていった。
「……眼鏡は弁償しましょう」
フェリオが、エレンに声を掛ける。だが、エレンは緩く頭を振った。
「不要です……度が入っているわけではないですし……」
「その目を隠していたのですか?」
「ええ、少しばかり瞳に宿る魔力が強いもので。運良くここにいる皆さんは魔力が強いか魔力がないから影響を受けないようですね」
「――そのようですね。よろしければ、こちらを」
メリッサにはエレンの言葉の意味がわからなかったが、フェリオは理解したようだ。
フェリオが、首元のブローチを外して差し出す。
「こんな高価な品を受け取るわけには……」
「その眼鏡に使われた透明の魔石と価値は変わりないはずです。せめて、直るまでは使ってください。過剰な魔力を抑えてくれることでしょう」
「そうですね。眼鏡がないと、仕事もままならないですからね――ありがとうございます、お借りします」
エレンは、首元にブローチをつけた。
一連のやり取りの意味は、メリッサにはやはりわからなかったが……。
「……ご迷惑を掛けたのに説明しないのは違いますね。僕の魔力は闇属性と土属性なのですが、瞳に込められた魅了の力が少々強くてですね」
「本で読んだことはありますが……」
「……やはりそうか!」
ラランテスが、メリッサとエレンの会話に割り込んでくる。
「あの……? ラランテス先生、近いです」
「その瞳には、やはり魅了の力が……。魔法陣を介さぬ原初の魔法、ぜひ研究せてほしい」
「え……嫌ですよ!? 嫌な予感しかしないです……!」
こんなときのラランテスは、とても積極的だ。
対するエレンは、眼前まで顔を近づけて瞳を観察しようとするラランテスの迫力に負けてしまったのか涙目だ。
フェリオが、メリッサに視線を向ける。
「とりあえず、フレデリカ様にご挨拶して、帰らせていただくか」
「そ……そうですね。でも、この木はどうしましょう」
「育ってしまった木を戻すすべはない。フレデリカ様にご相談しよう」
そういえば、この木は先ほど薄紅色の花を咲かせていた東端の珍しい木だ。
「すみません! 誰かラランテス先生を止めてください!?」
「少しくらい、いいじゃないか」
木からは、薄紅色の花びらが次から次へと舞い落ちていた。





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