魔力なしの王子と王女 1
第八王女アンナーティアは、国王陛下の妹だ。
現在の彼女の立場は複雑なものとなっている。
彼女は美しい金髪を揺らして紅茶を口にした。
それから、メリッサを見つめて口を開く。
「……お祖母様、ここで話せということですね」
「ええ、この場所以外ないわ」
「機会をいただけたこと、心より御礼申し上げます」
「――可愛い孫のことだもの。それに、幼いあなたが巻き込まれていることにすぐに気がつけなかった私の落ち度よ」
「……」
アンナーティアは、メリッサに鋭い視線を向けた。
「……ロイフォルト夫人に送った、フェリオ様と別れてほしいという手紙は、嘘なの」
「えっ……」
「いいえ、内容が厳密に嘘かと言われるとそれも嘘ね。ロイフォルト伯爵は、私の初恋の人だから」
「……」
「私が犯人ということになれば、王家の恥となる。相手に気がつかれないためにも、途中でやめるわけにはいかなかったの。――ロイフォルト伯爵が凱旋することがわかったとき手紙を出したのも、私を利用した奴らにお祖母様が気がついていることを気取られないためよ」
アンナーティアは、十歳の時にフェリオに求婚したという。
幼い憧れ……そして、十二歳の時にその気持ちを利用されたのだ。
「……メリッサ・カレント男爵令嬢が、フェリオ様の結婚相手に決まったと知ったとき、どうして私ではだめなのかと思った。だって、あなたも魔力がないもの」
「アンナーティア様……」
「近衛騎士の一人が私にささやいた。手紙が届かなければ、二人は白い結婚のまま別れるはずと」
「……」
「でも、彼は王都で起きた事件のさなかに命を失った。家族を人質に取られていたようね……」
事実、メリッサはこの結婚は、ルードとリアを育てるための契約結婚だと思っていたし、フェリオが戻ってくれば別れるものだと思っていた。
「ロイフォルト夫人の手紙が魔術師団に届くまで、それから魔術師団から夫人の元に届くまでを邪魔するのはそれほど難しいことではなかったわ……」
確かに、魔術師団内の検閲や通信に介入するのと違い、簡単なことだっただろう。
「半年ほど経ってから、ロイフォルト伯爵から、王都から最前線への通信が阻まれているようだとラランテス伝に連絡を受けたの。調べていくうちに、アンナーティアが巻き込まれていることに気がついた」
フレデリカの口元が悔しげに歪んだ。
「わずか十数歳の普通の姫に、軍部の通信を阻むような力があるはずない。でも、まるでアンナーティアが指示したように見えるように足跡が残されていたわ」
「……」
――ラランテスが直接手紙を運んでくれなければ、メリッサからの手紙も届かなかっただろう。
フェリオが戻ってくるまで、彼が自分に興味がないから手紙を書かないのだと思っていたが……。
「ロイフォルト伯爵に、アンナーティアのことは伝えていなかったことは、申し訳ないわね……こちらとしても、孫を守らなければならないし、通信がどこまで傍受されているかも確信がなく、ラランテスに話すわけにもいかなかった」
「……理解しています」
フェリオは、事もなげにそう答えた。
だが、彼は通信が途絶えたことで死にかけたという。
メリッサは、彼が自分のことを後回しにしているように思えて複雑な心境になった。
「でもね。私はやられたら三倍にして返す主義なの」
そのとき、マーサとメアリー、ダリアが前に歩み出た。
「「「――ローザ様、私どもも憤慨しております」」」
「あら、力を貸してくれるの? 心強いわねぇ」
庭園に、激動の中生き抜いてきた老婦人たちの暗い笑い声が響いた。
だが、メリッサはそれよりうつむいたまま、思い詰めているようなアンナーティアのことが気になった。
だが、声を掛けようとしたとき、遠くで急に木が急激に育ち、太陽を覆い隠した。





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