クラスメイト
その頃、ルードとリアはエレンとフレッドとともに、国王の祖母の庭から離れ、王城の中央庭園へと向かっていた。
「緊張した――」
「エレン先生大丈夫?」
「エレン先生顔色悪いよ?」
「お祖母様に気に入られちゃって大変だね。でも、先生のことは僕でも頼りにしちゃうかも」
フレッドが浮かべてるのは、王族特有の感情が読めないアルカイックスマイルだ。
普段は穏やかなだけに、大人びたその表情は周囲に畏怖を与える。
「フレッド君、いつも穏やかなのにこんな時だけあのお方の曾孫な感じ出すのやめて!」
エレンはブルリと震えたが、深呼吸を一つして子どもたちに向き直る。
「落ち着け――子どもたちの、前だ」
「「エレン先生、少し休む?」」
「中央庭園にベンチがある。そこで休みましょう」
「そうだね。大人たちの話が終わるまで……」
王城の中央庭園につくと、垣根の前にベンチが置かれていた。
「「……あれっ?」」
「君たち、僕の後ろに隠れて!」
垣根がガサリと音を立てる。
青ざめながらではあるが、エレンが三人を背にかばった。
「……レティシア君じゃないか」
「な、なんでここにいるのよ」
そこにいたのは、フィアーレ公爵家の令嬢、レティシアだった。
フィアーレ公爵家は、王妃を幾度も輩出した家柄であり、王家との関係も深い。
お茶会か何かがあったのだろうか……。
「レティシア嬢、なんで泣いているの」
フレッドが白いハンカチを差し出した。
そこには、王家の証である虎と王座の刺繍が施されている。
「なななな、泣いてなんかいないわ!」
そう言いながらも、レティシアの目元は真っ赤だった。
エレンが穏やかな笑みを浮かべる。
「レティシア君も、少し一緒にいるといい」
「エレン先生……でも……」
レティシアの視線が、ルードとリアに向いた。
フィアーレ公爵家は魔術精霊派に属し、ロイフォルト伯爵家は魔力革新派に属する。
王国内の貴族ではあっても、両派閥は敵対関係にある。
「フレデリカ様からお許しいただき、今は教師としてここにいる。当然、君も僕の生徒だ。ルード君、リア君、構わないね?」
「泣いてるなら、ほっとけないし……」
「レティシアさん自身に恨みがあるわけでもないから」
「「いいよ」」
ルードが一歩前に歩み出て、レティシアに手を差し伸べた。
「どうぞ、こちらへ」
そのエスコートは、六歳とは思えないほど洗練されている。
レティシアは思わず頬を染めた。
「……」
「……」
「ねえ、ここは私のことをエスコートするタイミングだと思うの。フレッド殿下」
「……あ、あのその……リア嬢、どうぞこちらに」
緊張していながらも、フレッドのエスコートも素晴らしい物だった。
普段から彼も王族として研鑽しているのだろう。
「恋人がほしくなった」
「「「「エレン先生?」」」」
「何でもない……ところでレティシア君は、どうしてここに?」
「……お茶会よ」
レティシアは視線をそらした。
「なるほど……お茶会、ね」
エレンは得心したようだったが、まだ幼いルードとリア、そしてフレッドには理由はわからなかった。
そのとき、レティシアを呼ぶ声が聞こえてきた。
レティシアは、慌てたように立ち上がる。
「……先生、私がここにいたことは内密にしてね」
「ああ、もちろんだ」
レティシアは、泣いていたなんて嘘のように毅然と去って行く。
「――第一王子殿下の……か。繋がりは大事だが、互いにあまりにも幼い」
エレンの声は、小さくかすれていて、子どもたちに聞こえることはなかった。





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