【コミカライズ記念SS】双子とメリッサのプロローグ
「ねえねえ、早く行こうよ!」
「まだ、時間になっていないわ」
「だって、外が騒がしいよ!」
「そうね、さっきから祝砲の音がすごいわね」
英雄たちの凱旋。
勝利の報せに王都はお祭り騒ぎだ。
ルードとリアは、お揃いの服に身を包みご機嫌だ。
メリッサは、二人に気が付かれないようにため息をつく。
彼女の夫、フェリオ・ロイフォルト伯爵は、この国の魔術師団長だ。
三年もの魔獣との戦いに勝利し、今日凱旋する。
正直なところ、メリッサは魔獣というものを見たことがない。
とても恐ろしいものだということを知識として知っているだけだ。
――でも、私が知らないのは、守られているからね。
そのことは、理解している。
王国を守るフェリオのことも、心から尊敬している。
しかし、通常の夫婦のように愛する夫が帰ってくるのを喜べるかというと、そういうわけでもない。
フェリオとメリッサは、契約夫婦。
初対面の結婚式の後、初夜すらなく、彼は戦場へ行った。
兄夫婦の忘れ形見である双子、ルードとリアをメリッサに託して……。
「「「奥様」」」
現れたのは三人の年老いた侍女。
彼女たちのおかげで、メリッサは三年間のお役目を無事にやり遂げた。
「その格好で行かれるのですか?」
「マーサ」
今日の服も、王族席でパレードに参加するのにふさわしい服だと思う。
三人が用意してくれたドレスは、王族のドレスもかすみそうなほど豪華だった。
お飾りの妻が着て夫を出迎えるものではない。
「ドレス、とてもお似合いになりますのに」
「メアリー……」
メリッサは、淡い茶色の髪に緑がかったブルーの瞳。ごく平凡な色合いだ。ドレスを着たとてそれは変わらない。
脳裏に浮かんだフェリオの姿――黒髪に金色の瞳、怜悧な美貌、冷たい言葉。それがメリッサの彼に対するイメージのすべてだ。
「どんなお姿でも奥様は奥様ですわ」
「ありがとう、ダリア――みんな、今までありがとう」
「「「奥様!!」」」
別れを言うには少し早いが、今しかないとメリッサは思った。
「私たちの大切な奥様……」
「旦那様にふさわしいお方は奥様だけです」
「斧を研いでおかねばなりませんね」
「マーサ、メアリー、ダリア? なんて言ったの?」
「「「いいえ、いってらっしゃいませ」」」
まさか、この別れの言葉のでせいで、三人が初夜画策の決意を新たにしてしまったなど、このときのメリッサが知るよしもない。
「「時間だよ~!!」」
ルードとリアの明るい声。
だが、何かが足りない……。
「あっ、ルード! 帽子をかぶり忘れているわよ! リアもまだリボンがついてないわ!」
「「早く~!!」」
「もう……二人とも!」
メリッサは、ベレー帽とリボンを手にして二人を追い掛け走り出す。
三年間の愛しい双子との日常は、今日で終了予定なのだ。




