王家のお茶会 3
「差し上げたイヤリングを床に投げつけて、このお茶会に私たちを呼び出されるとは」
「ローザ様、他の場面を想定しておりました」
「お声がけいただければ馳せ参じましたのに――楽しそうですから」
最後のダリアの言葉だけ、本音が漏れてしまっている。
――たぶん、魔道具だったのね。
彼女たちは、前回のお茶会で手渡したイヤリングにより呼び出されたようだ。
「されどローザ様」
「私どもはすでに」
「ロイフォルト家の侍女ですわ」
「理解しているわ。でも、私の取り巻きだったあなたたちは、時代の変化を特等席で見る権利があるもの」
――国王の祖母の高笑い。
それは、本来和やかなはずのお茶会の空気をピリピリと凍てつかせた。
そして、国王の祖母の後ろにはアンナーティアがいる。
彼女は、先日学園であったときとは雰囲気が違う。
メリッサと目が合うと、彼女はスッと視線をそらす。
ラランテスが一歩前に歩み出た。
「よく来てくれたわね。フェイアード」
「フレデリカ様、本日はお茶会にお招きいただきありがとうございます。そしてお久しぶりです、第八王女殿下」
「ラランテス、王族にそちらから話しかけるなど無礼よ」
「おや、ですがフレデリカ様からは、アンナーティア殿下のことを助手として扱うようにと」
「それは学園の中だけですよね、お祖母様」
アンナーティアは、祖母に助けを求めるような視線を向けた。
王女としてのアンナーティアは大人びているが、今の姿は15歳の少女らしいとメリッサは微笑ましく思う。
そして、フレデリカは鷹揚に笑うばかり。
「ほかの貴族がいる場ではラランテスはわきまえるでしょうし、ここでは助手として扱って構わないわ。そうでないとロイフォルト伯爵家への誠意にならないもの」
国王の祖母が扇を広げて鷹揚に笑う。
アンナーティアは悔しそうな表情のままラランテスに話しかける。
「ラランテス先生、先日お会いしたばかりですわ」
「過日は殿下をお守りできなかったことをお詫び申し上げます。この首、好きにしていただいて構いません」
「……」
ラランテスは、その言葉とともに頭を下げた。
アンナーティアは、黙り込んでしまった。
「あなたのせいではないわ。私の行いが招いたことよ。むしろ巻き込んでしまったわね」
「――その通り。ですが、お守りするとフレデリカ様に誓い、対価を受け取っておりますから詫びる必要はございません」
「……」
ラランテスはフェリオ不在の間、家庭教師として屋敷を訪れて護衛をしてくれていた。
対価を受け取っているからと本人は言うが――ラランテスが案外面倒見が良いことをメリッサはもう知っている。
「それにしても、第二王子の遅いこと」
「おや、カール殿下も来るのですか?」
「そうよ。あなたときたら、次々と時代の中心人物候補を教え子にしてしまうのだから……」
「ははは! 教え甲斐のある生徒は良いものです」
「でも以前のあなたはもっと復讐に燃えていた。変わった切っ掛けはあの子ね」
国王の祖母の視線が、メリッサに向いた気がした。
なんとなく三人の侍女から、ラランテスに向けて殺気が漏れ出した気がした。
「否定しませんが。アンナーティア殿下もカール殿下もとても優秀ですよ」
「……それはそうよ。魔力のあるなしで、人の価値は決まらない。それをはじめに証明したのが私なのですから」
「ええ、フレデリカ殿下の仰るとおりです。そして私も巻き込まれてしまったものです」
「――魔力のない者は、魔法が使える者よりもさらに少なくてとても珍しい。でも、王家に生まれた者たちがそうならば」
先ほどからのラランテスと国王の祖母の会話は長年の相棒のようだ。
国王の祖母は、悪巧みをするように笑った。そして扇で顔の下半分を覆い隠す。
「王国最強の魔術師、そして最後の魔術師候補の双子、時代を変える魔道具研究者。そして、魔法で作られたこの国の魔力を持たない国王候補。ふふ、魔術精霊主義派が冷や汗をかきながら足掻いているのが見えるようよ」
そのとき、ヒリついた場に穏やかな風が吹き込んだ気がした。
その声は柔らかく、優しさに満ちている。
「お祖母様、皆様、お待たせして申し訳ありません」
それは、ルードとリアの学友であり第二王子、フレッド・ティアレイアのものだった。




