王家のお茶会 1
鏡に映るメリッサの耳に、魔石のイヤリングが揺れる。
イヤリングが揺れるたび、夜空のような藍色に金色の光がきらめく。
月のような金色を飲み込んだ夜色の魔石。
とてもきれいだと、フェリオから受け取ったときメリッサは素直に喜んだ。
だが、今は落としてはいけないという不安のほうが大きい。
『夜色は闇属性、月色は光属性――相反する属性が一つの石に閉じ込められているなど、値段もつけられないだろう』
『……値段が、つけられない』
『それはそうだろう? 古代の遺物から取り出したのか――人工の魔石だ』
この会話は、先日ラランテスが来たときのものだ。
古代の遺物が何を指しているのかは、メリッサもよくわからない。
だが、ラランテスが手渡してくれた懐中時計も古代の遺物であると聞いている。
――つまり、遠い昔に特別な力、あるいは特別な方法で作られた物ということになる。
メリッサは、可愛らしいイヤリングが気に入って毎日つけていたのだが……それ以来、落としてしまっては大変と特別なときにしか身につけなくなった。
それほどの品なのにフェリオときたら、何の説明もなく『君に似合うと思って』と遠征の土産と一緒に差し出してきたのだ。素直に受け取ってしまったが、大切な物だと言ってくれたらよかったのにと、とメリッサは思う。
「こちらでいかがでしょう」
「少し派手ではないかしら」
「本日向かわれる場所に合わせるなら、これくらいがよろしいと思いますわ」
「それもそうね――」
「旦那様のお色のイヤリング、よくお似合いです」
「ダリア!?」
準備を手伝ってくれていた三人の侍女は、満足げだ。
彼女たちの魔法級の手腕により、今日もメリッサは美しくドレスアップしている。
言われてみれば、フェリオから贈られたイヤリングは彼の色合いを映したようだ。
メリッサは頬の熱が下がるのを待って、エントランスホールへと向かった。
そこには正装に身を包んだルードとリア、そしてフェリオがいた。
フェリオがメリッサに歩み寄ってきた。
彼の指先がメリッサの耳元のイヤリングを軽く揺らす。
「よく似合っている」
「ありがとうございます」
これは彼の色なのだと考えた瞬間、メリッサの頬は再び熱を帯びた。
ルードとリアの服は今日も可愛らしい。今日は二人の瞳の色に合わせて水色だ。
ルードはフリルのブラウスに合わせた膝が隠れる丈の半ズボンとジャケット。
リアはルードとお揃いのジャケットにワンピースを合わせている。
お揃いの魔石のブローチは、光に透かすとつる薔薇が浮かび上がる。
これは、宝物庫にあった数百年前のアンティークだ。
そして、二人の首には今日も光と闇の魔石のネックレスが下げられている。
彼らの持つ光と闇の魔力を隠すためのネックレス――ラランテスの協力もあり、今のところは王立学園で誰にも気がつかれていないようだが。
「さあ、行こうか」
「はい」
フェリオのエスコートで、馬車に乗り込む。
ルードとリアがメリッサの向かい側に乗り込むと、フェリオが横に座ってきた。
――今日向かう場所は、国王の祖母の庭。
ロイフォルト一家は、国王の祖母ローザリア・フレデリカのお茶会に招待されているのだ。
彼女のお茶会に呼ばれるのは、とても名誉なことであると同時に深い意味がある。
今回、お茶会に呼ばれた理由の一つは、アンナーティアのことだろう。
「フェリオ様、先日の王立学園での事件ですが、教師の仕業だったそうですね」
メリッサは、先日の事件以来王立学園へ行くことができていない。
実家のカレント男爵家が貧乏だったため王立学園に通えなかったメリッサは、密かに楽しみにしていたのだが……仕方がないだろう。
「ああ、教師単独の仕業であると結論づけるほかなかった……」
フェリオは言葉を濁した。
ルードとリアの視線がチラリとこちらに向く。
「第八王女殿下は、大丈夫なのですか?」
「――ご無事だ」
「それなら良いのですが……」
視線を落とせば目に入るのは杖に絡まるつる薔薇と水――イヤリングの留め具には水紋が刻まれ、ドレスにはつる薔薇が刺繍されている。
ロイフォルト家の紋章に描かれるモチーフは、杖に絡まるつる薔薇と水。
メリッサの装いには杖のモチーフはあしらわれていないが……魔術師であるフェリオの横に立てば、すべてのモチーフが揃う。
――今でも実感がわかない。だが、メリッサはフェリオの妻なのだ。
貴族ならば誰でも理解している。国王の祖母の貴族界への影響力の強さを。
そんな彼女のお茶会に招かれることは光栄なことであると同時にとても恐ろしいことでもあるのだ。
だが、フェリオの隣に立つために、メリッサも覚悟しなければならないのだろう。
ルードとリアは、黙ったまま窓の外を眺めている。
まだ六歳の彼らは、ふとした瞬間、メリッサよりずっと大人びたように見える。
「ねえ――お菓子何が出るかな」
「前回は食べられなかったもんね」
だが、二人の会話はたあいなく可愛らしい。
――考えすぎだったかしら。そうね、いろんなことを理解してきたけれど、まだ六歳だもの。
メリッサは、楽しそうな二人の様子を見てほっと息をつくのだった。




