百合とオリーブと斧 3
そこに立っていたのは、ラランテスだった。
今の呟きは、きっと彼に聞こえてしまったことだろう。
メリッサは己の迂闊さを呪った。
ラランテスは、少し口の端を歪めるとメリッサに近づいてきた。
「すまない、玄関でベルを鳴らしたが誰も出てこなかったものでね」
「三人ともあれ以来腰を痛めてしまって……」
「腰痛に効く魔法薬を持ってきたから、あとで渡してくれたまえ。さて――」
ラランテスは、魔法薬の瓶をメリッサに手渡すと、本をのぞき込む。
「そこに書いていることは事実でもあるが、魔力があることで、逆に人より長生きする者もいる」
「……」
「あくまで平均でしかない。ロイフォルト伯爵に当てはまるとは限らない」
メリッサを慰めるために言っているのかと思ったが、ラランテスは明るく笑う。
「魔法に詳しい家に生まれなければ、子ども時代に、魔法の暴走で命を失うことが多いんだ」
「……そんな」
メリッサは、子どもが大好きだ。
ルードとリアのような力を持ったこ子どもたちが、そんな目に遭っていることに驚いた。
それと同時に、メリッサは自分に何かできることはないかとも考える。
「さて、先日は迷惑を掛けてしまったな」
「いいえ、問題は解決したのですか?」
「そうだな――今回の件に関しては解決したか」
ラランテスの研究室の水槽は、魔法で保護されていたという。
簡単に割れるはずがないのだ。
「私が王立学園で子どもたちに教えることをよしとしない、魔術精霊派の教師の仕業だったよ。すでに罷免となったから安心したまえ」
ラランテスはそう言った。
確かに、水槽の中の魔獣はそれほど危険な物ではなかったし、命を奪われるような事件ではなかった。
おそらく、ラランテスに罪を負わせて学園から追い出そうとしたのだろう。
――だが、今回はたまたま命を奪われるような内容でなかっただけで、王立学園内ですら完全に安全とは言えないのだ。
「ルードとリアが心配です」
「君はいつも誰かに手を差し伸べる方法を探している。その点はとても好ましく思っている。だが、あの二人より自分のことを心配するべきだろう」
ルードとリアは魔法を使うことが出来る。
そういう意味では、メリッサよりも強いに違いない。
だが、二人はメリッサにとって守るべき子どもだ。
「ラランテス先生も気をつけて下さい」
「肝に銘じよう」
「――子ども時代の魔力コントロールの訓練は、とても大事なのですね」
「それについては異論は無い」
ルードとリアは、以前無理な魔法を使って熱を出したことがあった。
しかし、二人はフェリオが戦場に行くまでは彼に、そのあとはラランテスに教えを受けていた。
だから、同世代の子どもたちと比べれば、魔力のコントロールに秀でていた。
「ルードとリアが無事に育ったのは、ラランテス先生のおかげです」
「それは結果論だろう。すぐに結論づけずほかの理由を考慮するようにといつも――」
メリッサは、そこでラランテスから以前受け取った懐中時計を取り出した。
そこには、百合とオリーブの紋章が刻まれている。
この紋章は、東にあるエールティティア国のものだ。
「……まあ、何にせよ君たちが無事で何よりだ」
エールティティア国は、ラランテスが若い頃にこの国の属国となった。
そのときに、ラランテスは祖国を離れてこの国に来たのだ。
「おや、私の出自が気になるのかね?」
「……無理に聞くようなことでは」
「ふむ、歳を取ったせいか、たまに誰かに思い出話をしたくなることがあるのだよ。もしよかったら、聞いてもらえるかね」
「ええ、もちろん。聞かせていただきます」
メリッサはラランテスを応接間に案内した。





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