百合とオリーブ 2
厨房に行くと、朝早いにもかかわらずルードとリアが何かを作っていた。
「あとは焼くだけだね」
「完璧じゃない?」
二人は顔中が粉だらけ、調理台ももちろん真っ白だ。
何を作っていたのだろう――そう思いながら、メリッサは様子を伺った。
「さあ、焼こうね!」
「ねえ、リア。魔力が少し抜けてるよ?」
「ルード、魔石に魔力を補充して」
「うん、任せて」
魔導オーブンには、火の魔石を使っている。
どの属性の魔力を込めても使うことができるが、やはり同じ属性の方が効率が良いのだ。
メリッサには、魔力の流れ自体を見ることはできないが、魔石の光具合から見て安定して込めることができているようだ。
ルードもリアも、まだ六歳なのに魔力の調整がとても上手い。
おそらく、このまま見ていても危険はないのかもしれないが……。
「ルード、リア」
「「お母さま」」
ルードとリアがイタズラが見つかってしまったような顔をした。
二人が隠れて作ろうとしていたのは、カップケーキだった。
もしかすると、メリッサやフェリオに贈りたくて秘密で挑戦したのかもしれないが……。
「火を使うときは、大人と一緒という約束よ」
星屑をクッキーに入れてオーブンに入れたことで、軽い爆発を起こしてしまったことは記憶に新しい。
あれはあれで美味しかったので、安全に配慮した上で時々料理長が作ってくれているが……。
「「ごめんなさい。でも、見ちゃダメなの」」
「わかったわ。今度から必ず声をかけてくれると約束してくれるのなら、見ないで端にいるわ」
「「ありがとう、お母さま!!」」
やはり、メリッサの分もあるのだろう。
メリッサのことを母と慕ってくれて、贈り物をしてくれようとするルードとリア。
メリッサと双子は血が繋がっていないが、本当の家族に違いない。
そんなことを思いながら、メリッサは厨房の端に椅子を持ってきて座り、目を瞑った。
――なんだか、焦げ臭いわね……。
そして、子どもたちに、声をかけるべきか、かけざるべきか、悩み続けるのだった。
* * *
結果として、二人が作ったカップケーキは、少しばかり黒いものになった。
二人はシュンとしていたが、黒い部分を取り除けば、香ばしさもあってとても美味しくできていた。
厨房の片付けはメリッサもいっしょに行った。
子どものお料理とは、自分で作るよりよほど手がかかるものだ。
ルードとリアは、ロイフォルト伯爵家の生まれ。
本来であれば、自分で料理をすることなどない身分ではあるが……。
「気をつけてね!」
「「はーい!!」」
二人は、王立魔術学園へ登校していった。
本来であれば、メリッサもラランテスの助手として出勤予定だったのだが、先日の件があったため一旦保留となってしまったのだ。
「……二人とも、本当に立派になったわ」
玄関から、二人が馬車に乗り込み、馬車が見えなくなるまで見送る。
まだ鞄がとても大きく見えるけれど、二人とも本当に大きくなった。
「王立学園を卒業したら、もう離れていってしまうのね」
まだ、初等科に入学しただけなのだから気が早いだろう。
しかし、ルードはこの家を継ぐだろうし、リアはどこかにお嫁に行くだろう。
そうなれば、メリッサとフェリオはこの屋敷を離れることになる。
「――ふふ、まだ先の話なのに、ちょっと寂しいわ」
メリッサがこの家に嫁いできたのは十八歳の時。
三歳だった双子と過ごしてきた三年間は、かけがえのない思い出だった。
「料理も、洗濯も――もっと、教えてあげなくてはね」
彼らはいずれ、魔術師団に入団し、魔獣と戦う宿命にある。
それならば、料理や自身の身の回りのことができるに越したことはないだろう。
この家に来てからの三年間、貴族としての優雅な立ち居振る舞いを習ってきたメリッサ。
幼くてもルードとリアはとても優雅で、しかもマナーの講師としてはベルアメール夫人がいるので、そういった部分でメリッサが教えられることは少ない。
――つまり、メリッサの役目は、二人が自活できるように知っていることすべてを教えることなのだ。
そういう意味では、貧乏で子沢山なカレント男爵家で、母代わりだった経験が役に立つことだろう。
「でも、二人に負けていられないわ。私ももっとロイフォルト伯爵家に相応しくならなければ」
そう呟き、メリッサは図書室へと向かうのだった。
* * *
ロイフォルト伯爵家の図書室には、魔術の本が大量に所蔵されている。
ラランテスが、魔術関連だけなら王家の図書館に匹敵すると言っていた。
二年ほど前から、メリッサは本格的に魔法学の勉強を始めた。
もちろん、魔力が全くないメリッサは、どんなに学んでも魔法を使うことはできない。
けれど、それは学ばない理由にはならないのだ。
――膨大な魔力を持っている子どもは、時に魔力が不安定になり高熱を出したり魔力に飲まれかけてしまうことがあるという。
以前、メリッサの風邪を治そうとして、ルードとリアが無茶な魔法の使い方をして高熱を出していこう、メリッサは魔力と子どもの関係について調べ続けてきた。
代々優秀な魔術師を輩出してきたロイフォルト伯爵家。
中には子どもと魔力についてを専門的に研究した魔術師もいたようだ。
――その魔術師は、自身の子どもを失ったらしい。
魔法を使えるものは少なく、秘匿されていることも多い。
メリッサは、この家で知ったことを口外するつもりはないが――魔力を使いすぎた時の対処法については、これからも調べ続けたいと思っている。
子どもたちを見守るしかできないなんて、とてもつらいことだから。
それと同時に、気になっているのはフェリオのことだ。
誤解が解けた今、彼がどうして結婚式の直後に自分のことを突き放すようなことを言ったのか……。
全属性を持ち、さらに全ての属性の魔法が使える者など、歴史を紐解いたって数えるほどしかいない。
彼らはすべて、伝説で語られるような存在であり……。
「短命」
その時、背後に人の気配を感じ、メリッサは振り返った。




