百合とオリーブと斧 1
本日、書籍1巻発売となりました。
連載当初から読んでくださった皆さまのおかげさまです。
ありがとうございます!!
――正直言って疲れてしまったわ。
メリッサがそう思うのも無理はないだろう。
あのあと、検分のためと言って乗り込んできた教師の一部は、魔術精霊主義派に所属する者たちだった。
彼らは『子どもたちを危険に晒した』『魔道具など信頼できないなど』とラランテスを責め立てた。
――使用人だと思って一緒に責めた相手が、アンナーティアだったことを知るとそそくさと退散していったが……。
メリッサがラランテスの助手に選ばれたのは、フェリオやルード、リアがいない以上、屋敷内より王立学園にいるほうが安全だからなのだ。
メリッサのせいでラランテスの立場が悪くなる可能性もある。
それだけではない。
ルードやリアのような幼い子どもに守られなければいけないことが残念だ。
「……あなたたち、大丈夫?」
「「「問題ございません」」」
問題ないようには見えない。
現在、ロイフォルト家の家事はほとんど全てメリッサと執事長が行なっている。
「奥様、少し休まれてはいかがですか?」
「執事長……」
必要な時には必ずそばにいてくれるが、それ以外の時間はどこにいるのかメリッサすら知らない執事長。
彼がこんなにも屋敷の中にいるのも珍しい。
――いや、彼は万能なのである。
時々こうして三人の侍女たちが腰痛で倒れてしまうと、いつも家事を手伝ってくれていた。
書類の管理、屋敷の出入り、物品の補充、おそらく魔術師団長であるフェリオの補佐まで行なっている。
彼に聞いて「わからない」と言われたことは一度もない。
「でも、三人が心配だわ」
「年甲斐もなく張り切って、腰を痛めただけでございます。奥様が付き添わずとも問題ないでしょう」
「その部分が心配なのではなくて……」
メリッサが心配なのは、目を離したらマーサとメアリーとダリアが再び無茶なことをするのではないかということなのだ。
「ねえ、マーサとメアリーは、どうしてあの時いなかったのに腰を痛めているの?」
「奥様……少しばかりバケツが重かったようでございます」
「本を取ろうと手を伸ばしたところ――」
「水槽が割れたのは、何者かの手によるものです」
「「ダリア!!」」
マーサとメアリーは、咎めるような声を出した。
けれど、ダリアはよろよろとベッドから起き上がり、メリッサのことをまっすぐ見つめた。
「私たちの大切な奥様――案外、奥様がいらっしゃる場所は危険なのですよ」
「フィアーレ公爵家との関係かしら」
「それもありますが……ロイフォルト伯爵家は代々魔術師団長を輩出してきた家柄です」
「ええ、そうね……」
だが、ロイフォルト家はフェリオが生まれるまで、魔法が使えるものが途絶えていた。
フェリオの両親と兄は、魔力を持ってはいたが魔法を行使することができなかったという。
「フェリオ様が、魔術師団長だからなの?」
魔術師団長が、騎士団長とともに王国の武力の中枢を担っていることはメリッサにも理解できる。
しかし、ダリアは緩く首を振った。
「問題は、旦那様が魔力や魔法を最上のものであると考えていないことです」
「……え?」
「そして、坊ちゃんとお嬢様も、その考えを受け継いでいらしゃいます」
メリッサは、求婚の時のフェリオとの手紙のやり取りを思い出した。
フェリオからの手紙には『結婚相手に魔力のあるなしは求めない』と書かれていた。
実家のカレント男爵家で弟妹たちや両親から魔力がないからと差別されることはなかった。
母が末の弟を産んで寝込みがちになってから、弟妹はますますメリッサに懐き大切にしてくれた。
そして……魔力について知れば知るほど、便利なだけの力ではないとわかる。
「「「奥様……」」」
三人の侍女が、メリッサを見つめる。
年老いた彼女たちと比べてすら、メリッサには戦う力で劣るが……。
「とにかく、家事は任せてゆっくり休んでね」
「「「恐れ入ります」」」
三人を休ませてあげることくらいはメリッサにも出来る。
メリッサは立ち上がり、炊事場へと向かうのだった。




