王立学園と助手 7
水槽は割れてしまったが、金色の鱗の魚は外に出ることはなかった。
もしかすると、獰猛な魔獣なのではないか、そう思っていたメリッサは安堵の息をつく。
紫色の溶液が、床に広がっていく。
掃除をしなくてはいけないと、メリッサは第八王女から離れ溶液に近づこうとした。
「だめよ!」
メリッサの手首が掴まれて引き戻される。
アンナーティアが、怖い顔をしている。
どういうことなのか聞こうとすると、メリッサの足首にヌメヌメとした何かが絡みついた。
「え……きゃ、きゃー!?」
「この紫色の溶液が魔獣なのよ!」
「そ、そんな!?」
てっきり金色の鱗の魚のほうが獰猛なのかと思っていたが、溶液のほうが魔獣だなんて誰が想像できるだろう。
メリッサはうろたえながら後ずさろうとしたが、足首に絡む何かは案外力が強い。
そうこうしているうちに、徐々に足を這いずり上に上がってくる。
アンナーティアのドレスの中にも入り込んでしまったようだ。
彼女は完全に涙目になっている。
「お姉さまを、離せ~!!」
そのときだった、目の前に第二王子が現れる。
「フレッド!」
第二王子の名前はフレッドと言うらしい。
王立学園に入るまで、王族は公に名乗ることがない。
その理由には諸説あるが――王家を呪う魔獣から子どもを守るためだという説が有力だ。
本当のことなのか、メリッサには知るよしがないが。
しかし、フレッドには魔力を持たない。
魔獣が相手というのなら、アンナーティアやメリッサと同じで対抗する術はないはずだが……。
「……お姉さま!」
「フレッド、離れなさい!」
「だめだよ! アンナーティアお姉さまは、いつも僕をかばってくれるもの!」
「……フレッド」
王族でも王妹であるアンナーティアと、第二王子フレッドは魔力を持たないということはメリッサも知っている。
それゆえに、二人の立場が王族内でも特殊であることも容易に想像できる。
アンナーティアとフレッド、二人にしかわからないこともあるだろう。
「「お母さまに――何をするの……」」
そのとき、ルードとリアの声が聞こえた。
いつもは明るく可愛いその声は、メリッサが今まで聞いたことがないほど低く怒りを含んでいた。
それと同時に、メリッサの足元を洗い流すように水が流れ込んでくる。
さらにつる薔薇が入り込み、紫色の魔獣を取り囲もうとする。
まさか、以前のようにルードとリアの魔法が暴走してしまったのかとメリッサの背中はヒヤリとした。
しかし、魔法は完全に制御されているようだ。
「「あ~!! 逃げちゃう!!」」
ルードとリアの魔法をすり抜けるように、紫色の魔獣が研究室から外に出ようとする。
ひとまずメリッサとアンナーティアは解放されたものの、このままでは、学園中が大騒ぎになってしまうことだろう。
しかし、扉を出た直後、激しい音ともに雷が落ちて魔獣はピタリと動きを止めた。




