王立学園と助手 6
「それでは、研究室で待っていてくれたまえ」
「はい」
最高学年の授業だった。
扉の隙間からチラリと見えた子どもたちは、ルードやリアよりも大人びている。
どんな授業をしているのか気になりながらも、メリッサは教室をあとにする。
だが――メリッサは、忘れていた。
彼女が掃除をしていたことを。
「……」
「……」
研究室の中には、アンナーティアがいた。
アンナーティアとメリッサはしばし見つめ合う。
先に目を逸らしたのは、アンナーティアだった。
「第八王女殿下……」
「ロイフォルト伯爵夫人――いいえ、メリッサさん。王立学園では王族であれ身分の差はないことになっているわ。アンナーティアと呼んでちょうだい」
メリッサは少しだけ悩んだが、すぐに笑みを浮かべる。
彼女は思ったよりも真面目な性格なのだろう。
第八王女として生まれた彼女は、誰かに膝をつく必要がない。
しかし、学園内の決まり事に従うつもりのようだ。
彼女は床を拭くのに床に膝をついていた。しかも、彼女が磨いたであろう部分はピカピカと輝いている。
「それでは、アンナーティア様と呼ばせていただいてもよろしいでしょうか」
「ええ、メリッサさん」
アンナーティアは立ち上がり、メリッサと向かい合う。
彼女は十五歳とは思えないほど大人びている。
けれど、その表情は年相応のものに見える。
「許してくださいとは、言いませんわ。でも、私のせいでロイフォルト伯爵を危険にさらし、王族としてあってはならぬことをしたと思っているわ」
メリッサは、感心した。
それと同時に、彼女の淡い恋心を利用した誰かが許せないと思った。
メリッサとフェリオとの間の誤解は解けたが、手紙の件については今でも解決はしていない。
「この国に忠義を尽くすロイフォルト家に対しても……」
彼女は優雅な礼をして見せた。
美しく、凜としていて、彼女がどれほど努力していたか目に見えるようだった。
アンナーティアにも、魔力がない。
幸いなことに、メリッサの両親は魔力がないメリッサのことも、弟妹のことも分け隔てなく育ててくれたが……。
男爵家の娘でしかないメリッサに対してすら、魔力がないことでの風当たりは強かった。
そのせいで、貴族との結婚も諦めていたほどだ。
――王族であるアンナーティアの立場は。
そんなことを思い、メリッサはどう返答しようかと悩んだ。
慰めるのは違うとわかっている。
だが、彼女の気持ちがわかるのは、魔力を持たないメリッサだけであるようにも思えた。
「あの……」
だが、メリッサが口を開こうとした直後、ピシピシと何かが割れるような音がした。
視線を向ければそれは、紫色の溶液に金色の鱗の小さな魚が泳ぐ水槽だった。
アンナーティアは、水槽のすぐ近くにいる。
「水槽に、ヒビが入っている!?」
「え……?」
『ああ、見た目以上に貴重だったり獰猛なものが多いから気をつけてくれたまえ』
かつてラランテスが口にした言葉が脳裏によぎり、メリッサは思わず青ざめた。
メリッサは思わず、アンナーティアを引き寄せ、守るように抱き寄せていた。





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