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【書籍2巻発売決定】可愛い双子の子育てと契約妻は今日で終了予定です【漫画カドコミ連載中】  作者: 氷雨そら


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子どもたちのお茶会 8


 会場は騒然とした。メリッサの手にも一枚の紙が舞い落ちてきた。

 フェリオの手にも紙が握られているのを横目に見ながら、メリッサは疑問を口にする。


「フェリオ様、アンナーティア殿下はどうなるのでしょうか」

「――君はどうしたい?」

「私……ですか」


 メリッサは少し思い悩んだ。

 今でこそロイフォルト伯爵夫人として名乗っているが、メリッサはこの国の裏側を知らない。

 彼女が見ている世界は、ルードとリアとフェリオ、そして屋敷の使用人たちや知り合いたちとの優しくて温かい居場所なのだ。


 メリッサは、目を閉じた。

 皆で笑い合う、日だまりのような場所には、アンナーティアもいる。


「……アンナーティア殿下のことを見ないふりなど、もうできません」


 ある者は偽善者と――

 ある者は魔術師団長を誑かし政治に介入する悪女と――

 ある者は感情で物事を判断する愚か者と――


 メリッサのことを悪様に言うかもしれない。

 この行動で他人からどう見られるか考えないほど、メリッサは浅はかではない。


 それでもメリッサは目を開くと、フェリオをまっすぐ見つめた。

 彼はメリッサが願えば、その通りにしてくれるだろう。

 だが、それではダメなのだ。


「万事、フェリオ様にお任せします」

「……君の望む結末には、ならないかもしれない」

「そうですね。でも……」


 この選択が正しいとは思っていない。

 だが、間違っているとも思えない。

 全てを救うことなどできない。ただ、優先順位を決めて大切な人たちを守るように努力することしかメリッサにはできない。


 そして、メリッサにとって何より大事なのは家族だ。


 ルードとリアが、こちらに近づいてくる。

 二人は、メリッサとフェリオに怒られてしまうのではないかというような、子どもらしい表情を浮かべていた。


「ルードとリアを守ることが最優先です」


 さて、メリッサのこの選択を周囲はどう判断するだろう。

 ときに見せる、子どもを守る母狼のようなその行動を。

 

「「……」」


 ルードとリアは、メリッサに声をかけられずにいる。

 子どもなりに考え抜いての行動だろう。だが、フェリオとメリッサに相談しなかったことについては、反省しているのかもしれない。

 相談せずに重大な判断をしたことについては、あとで話さなくてはいけないが、今は。

 

「いらっしゃい……」

「「うん」」


 ルードとリアは、メリッサにしがみついた。


「「勝手なことをしてごめんなさい」」

「ええ」

「「……お母さまが、あの手紙を出したときだけ、ローザさまのお手伝いをする約束だったの」」

「え!?」

「そういうことか……」


 ルードとリアの行動は、フィアーレ公爵家の悪事を暴くための、フレデリカの手伝いであると同時に、メリッサから周囲の視線を逸らす目的もあったようだ。


 フィアーレ公爵家は、ルードとリアの実の両親の仇でもある。

 偶然か、メリッサの手に落ちてきた紙は、フィアーレ公爵が事故に見せかけて葬った疑いのある貴族たちの一覧だった。

 フェリオの手にも紙がある。そこには何が書かれているのだろうか。


 フェリオは、三人のことを見つめ、それから口の端を吊り上げた。


「ルード、リア。何か言うことは?」

「「ごめんなさい。でも、フィアーレ公爵家は許せない」」

「そうか、俺もだ――」


 ルードとリア、そしてフェリオが視線を伏せた。

 メリッサには彼らの瞳に、憎しみよりも悲しみの炎が灯っているように見えた。


「「あと、お母さまを守らなきゃ」」


 双子の言葉を受けてフェリオがメリッサに視線を向ける。


「それは、そうだな」


 メリッサは、自分の身は自分で守れると言いたかったが、事実ではないことは言えなかった。

 魔力がないメリッサは、いざとなったらルードとリアに守ってもらう側なのである。


 ここで、ルードとリアは目を潤ませた。


「「でも、レティシアさんは助けてほしいの」」

「……フィアーレ公爵令嬢を?」

「「だって、お友だちなの――」」


 フィアーレ公爵を追い詰めたなら、その娘であるレティシアを助けることは難しいだろう。

 だが、フェリオは目を細め、それから後ろを向いた。


「フレデリカ様、どうなさいますか」


 いつの間にか、フレデリカが近づいてきていた。


「――公爵家は王家のスペア。公爵家から王家への輿入れ、王家から公爵家への降嫁を繰り返しているわ」


 フレデリカは扇を手にした。

 そしてフレデリカの後ろには、三人の老婦人。

 いつもは優しい笑みを浮かべている老侍女たちは、今はまるでフレデリカの取り巻きのように上品で狡猾な笑みを浮かべている。


「フィアーレ公爵夫人は私の孫娘。つまり、レティシアは私のひ孫なの」


 バサリ、と扇が広げられた。

 そこに描かれるのは王家の象徴――王座と虎だ。


 フレデリカの言うことは事実だ。

 そして、フィアーレ公爵家でフレデリカの血が流れているのは、正妻の子であるレティシアただ一人。

 

「ひ孫は無条件に可愛いものよ」


 そう言いながら、フレデリカは情だけで判断したりしないのだろう。

 伯爵令嬢からの成り上がり。その立ち位置は、情だけでたどり着ける場所ではない。

 だが、それと同時に彼女の情が浅いか深いかは外側から見たとして、誰にもわからない。


「さて、ロイフォルト伯爵家の総意は決まったかしら?」

「ええ、今回はフレデリカ様のご指示に従いましょう」


 アンナーティアを囲むように人々が輪を作っている。

 彼らは遠巻きにことを眺め、立ち位置を判断しようとしているのだ。

 フェリオとフレデリカ、そして三人の侍女たちがその中心に向かうのをメリッサは外側から眺めるのだった。


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