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九十八部

「藤堂、聞いたか?

 グエンさんのベトナムの口座に日本円で十億円振り込まれてらしいぞ。

 どこからの金だと思う?」

 大谷が聞き、藤堂は困惑した表情で

「なんだよ、それ? 初めて聞いたぞ。」

「グエンさんは出稼ぎのために技能実習制度を利用してた節があったから、グエンさんがどれくらいのお金を母国に送っていたのかを大阪府警が調べたらしくて、その中で判明したんだってさ。」

「グエンさん本人はなんて言ってるんだ?」

「それが・・・・、仕事をした対価を受け取っただけだと主張しているらしい。

 どんな仕事なのかは話さなかったらしいし、それ以上の追及がもう帰国してるからできないわけだ。」

「考えられるとすると、今回の事件関連のことしかないよな?」

 藤堂が困惑の表情のまま聞いてきたので大谷は思っていた疑問を口にした。

「坂本さんは、うっかりと自分の所属がわかるような会話をするような人じゃないよな。もし、坂本さんが自分を捕まえさせるためにグエンさんを利用して、その対価が今回の振り込まれたお金だとすると俺は納得できるけどな。」

「坂本さんが自分を捕まえさせる意味がわからないだろ?」

「これは・・・・例えばの話なんだけどさ。

 暴力団の構成員が仕事でミスをして、命を狙われたときに出る行動は警察に捕まることなわけじゃないか。刑務所に入れば暴力団も簡単には手を出せないから。」

「坂本さんが誰かに命を狙われていると思って、刑務所に逃げ込もうとしているってこと?」

「あるいは誰かをかばうために犠牲になろうとしたか。まあ、そこはまた本人から聞けばいいだろ。」

「本人は答えないと思うけどな・・・・・・・」

 藤堂がそう言ったところで、竹中が来て、

「二人とも行くで。

 もう候補者の人らが玄関前に集まりだしとるらしいから、担当の人捜して誘導を始めろって黒田ちゃんが言ってたで。」

「わかりました。」

 藤堂と大谷はそう言って出て行った。一緒に行こうと思っていたのに二人が猛スピードで走り去ったので、追いかける気にならず竹中が一人で呟いた。

「せわしい奴らやな。今から忙しくなるんやからゆっくりしたらええのに。」


 50代やせ型、万が一襲いかかって来たとしても自分なら簡単に抑え込めるような男は根拠もないのに偉そうにしている。

 現役の国会議員だということで一警察官の自分を下に見ているのだろう。

山本は男を誘導しながらめんどくさいなと思っていた。素直に言うことを聞くタイプではないし、警視庁に入るまでは対応が悪いだとかなんだと文句ばかり言っていた。

 4回目の当選を果たしているにもかかわらず、政党内での確たる立場がなく、派閥の中でも下の方であるらしいからよっぽど無能なのだろうと思う。

 この人が試験のあとに合格するとは思えないまま、試験会場に誘導して、席に着かせる。席についた男は本当に小さな声で

「おい、君・・・」

 山本は最初無視しようとしたが男はもう一度、

「おい、聞こえているんだろう。答えたらどうだ?」

「警視庁内での私語は禁止です。

 次に発言されれば、即時ご退室いただきます。」

 男は苦虫を噛み潰したような顔をして、もう一度何かを言おうとしたので山本が

「集中して下さい。もう始まりますよ。」

 試験会場の前の方にスクリーンが下ろされて、映写機が起動して武田総監の顔が映し出される。

『第一回国会議員資格認定試験を実施いたします。

 注意事項として、私語は一切禁止としてあらかじめ説明を受けていると思いますので詳細は省きますが、トイレや緊急事態時には手元の札を使って自分の担当警察官にお知らせください。

 もしカンニング等の不正行為が発覚した場合は、当該候補者の被選挙権を10年間停止する処分を科されます。

 皆様のご検討をお祈り申し上げます。

それでは時間になりましたので、解答用紙を表向け今からご自分の名前を記入して下さい。一分後に試験を開始します。

・・・・・・・・・・・それでは、第一回国会議員資格認定試験はじめ!』

 

                                            『終』


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