076 芸能一家
役目を終えたレオン達に断ってジュリアンは慌てて客席の方へと走る。
貴族会館の大ホールのイベントを観覧できる個室は特別な許可がなければ予約することもできない。
それこそ普通の座席で観覧したら大騒ぎになるような人々をいう。
当然個室の扉の前にガードマンがいるが家族であるため素通りを許される。
ジュリアンは扉を開けた。
「母上! 兄上、義姉上まで!」
ベルモントファミリー勢揃いとまではいかなかったが中心人物である三人がいた。
次男のシャイセントは現在新星公演に出演中のはずであった。
「驚いたよ。見にくるって聞いてなかったから」
その言葉に母であるロザリンドが反応する。
「プレッシャーになると思ったからあえて告げなかったのよ。アニメがどういう風に上映されるか分かってなかったから」
実際にこうやって見ないとアニメがどのようにして放映されるか分かりづらいものである。
「でも同じ日、同じ時間にやるのは親としては悩ましいわね。あの人には新星公演の方に行ってもらったわ」
「父上は帝国楽劇に、母上がアニメを見てくださったんですね」
ジュリアンの父であるゼンダー・ベルモントは次男の方へと言ったらしい。
「お義父様ったら本当はここに来たかったみたいだけど、シャイセントが可哀想だからね」
義姉のクララがそんな言葉を漏らす。
「兄上と義姉上はどうして。現役の帝国楽劇の俳優がここにいていいのですか?」
「新星公演のリハーサルはチェックも兼ねて観劇するの。本番も観劇するのが筋なんだけど、やっぱりアニメを見たいじゃない。特に三角関係のラブロマンスとか大好物なのよね」
ベルモント家の女性陣は当主を帝国楽劇場に置いていきこちらに来たようだ。
「でもアニメ、本当に良かった。特にアルベリクとカイゼルのお風呂シーンなんて永遠に見続けたいと思ったわ。ねぇお義母様」
「ふふっ。私は三角関係のすれ違いを評価したいわね。さすが殿下の脚本といえるでしょう。主演であるあなたともう一人の子の技術も及第点といえるわ。もっと高めたらさらによくなるわね」
クララとロザリンドに褒められ、ジュリアンは恥ずかしそうな仕草を見せる。
そして隣で舞台を見ているアレクサンダーに声をかけた。
「兄上がアニメを見に来るのは意外でした。今作女性向けではありますし、兄上には合わないかと……思って」
「好みの作品ではなかったが」
ゆっくりとした口調でアレクサンダーは声を上げる。
「良い作品だったと思う。おまえも成長したな。最後の挨拶も立派だったし、ベルモント家として恥ずかしくない姿だった」
「兄上……」
「だが寂しくはある。やはり帝国楽劇には参加しないのか。今のおまえなら皇立楽劇団への入団も可能だろう」
アレクサンダーからの言葉にジュリアンは首を振った。
「今はアニメに専念するよ。僕は彼女を……ステラをトップスタァと対等の存在に押し上げるんだ」
「ステラ……。主人公とヒーローの片割れの両方の演者か。あの声色の変化は見事だった。彼女も皇立楽劇団に入れたいほどだ」
「あら、アレクサンダー。あなた気付いてなかったのね。昔から鈍いと思ったけど男性主席演者でそれはちょっね」
「それがこの人の良い所なんですよ。セレスティアさんはいないの? 彼女に話を聞きたいのだけど」
(うっ、やはり母上と義姉上はステラの正体がセレスであることを見抜いてる)
だがちゃんとその正体を隠してくれていることに安堵した。
「セレスは新星公演を見にいっています」
「入れ替わりだったのね、残念」
フィオとカイゼルの二人を演じたセレスに話を聞きたいというのは当然の話なのかもしれない。
「新星公演の方はかなり席が空いているって聞いたけど……」
その言葉に三人は特別驚いた様子を見せなかった。母親であるロザリンドは特に感情変化なく声を上げる。
「ここに必ず初日に見にいく夫人達がいる時点であちらの指定席は埋まらないわ。帝国楽劇は本人確認必須だから」
「アニメの予告動画を見て、負けないように頑張ってたからすっごく完成度は高いの。でも新星公演で欲しいのはフレッシュさ。今の若い子達はそれを忘れてるのよ」
「俺やクララが出た頃は外で宣伝をしていたからな。シャイセントには悪いが、これがターニングポイントとして若い演者の意識も変わっていくだろう」
案外ドライな反応を見せる主席演者達の姿にジュリアンは動揺する。
(今日の夜はアトリエで打ち上げがある……セレスに話を聞いてみよう)
こうして貴族会館でのイベントは大好評。
追加のプロマイドも完売し、結果的に大成功という形で第二回アニメ上映会は終了となった。
そして夜、ヴィンターフェルトのアトリエの一階の歓談室で一同集まる。




