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075 公開:アウレアに咲く恋~④

 映像はそこで終わり、第二回のアニメはそこで終了となる。

 画面は真っ黒なイラストが表示されて、そのままアニマ・メドゥスがかけられた。


『アウレアに咲く恋』


 画面にタイトルが表示された。アニメがここで終わったことが分かり、観客も大きな息を吐く。

 観客は怒濤の展開からのエンディングに心が相当揺さぶられたようで疲れた様子を見せていた。


 スタッフロールが流れ始める頃に隣の席の人達と会話するくらいには回復していた。


『監督・演出・脚本:レオンハルト・フォン・シュテルネンライヒ・アーデルライト】


「監督だけでなく、演出も脚本も殿下がされていたのですね」

「レオンハルト殿下もまた素晴らしい文化人なのですね」

「執筆されている所の殿下を見てみたいわ」

「ね~」


 帝国騎士団本部で公開された第一回上映会に比べて驚きは多くなかった。

 レオンが監督だけでなく、演出と脚本もやっているという話はすでにある程度周知されていたからだろう。

 知らないものからすれば【鉄血の獅子】として軍部で活躍しているレオンの意外な一面に頬を赤らめているものも多い。


「殿下、外に出てファンに手を振った方がいいじゃないですか」


 舞台袖。様子に気付いた面々の中でリディアが軽口を言う。

「必要ない」


 レオンはきっぱりと言い放った。

 帝国一の美男子がこれ以上目立つ意味はないということであった。

 それにレオンが好意を持って欲しいのはたった一人である。


 次の名前が表示される、


【キャラデザイン:オスカー・ヴィンターフェルト】


「イラストというものはヴィンターフェルト侯爵が描かれているのですね」

「昔、絵画界でオスカー様の絵画を見たことがありましたわ」

「ローザ様を亡くされてからは作品を発表されていなかったけど、アニメの方に携わっていたのね」


 貴族夫人は文化人が多いためオスカーの存在を知っている者も多かった。

 物販でオスカーのイラストを買ったものも多く。手荷物として持ち込んでいるものはアルベリクやカイゼルのイラストを見て頬を染めていく。

 これから帝国ではイラストがかなり流行ると思われる。


「オスカー様って理知的で凄く整った顔立ちをされているのですよね。また会いたいわ」

「我々の貴族院時代の憧れでしたよね」


 貴婦人が思い思いにオスカーへの想いを吐く。


【BGM・効果音担当:リディア・ノイマン(ソノーラ奏手)】


「皇立交響楽団《インペリアル・フィルハーモニー》の音色ではないと思ってたけどまさかソノーラ魔法だったなんて」

「知ってるんですかお姉さま!」

「ええ、皇立音楽院卒業したからね。リディアは確か数年前に主席で卒業した令嬢よね。まさかここで活躍してたなんて」


 人々は入場チケットと引き換えでもらったパンフレットを目にする。

 そこにはリディア・ノイマンのソノーラ魔法によるコンサート情報が書かれていた。

 来月、貴族と平民がどっちも利用する商業区の多目的ホールでの演奏会を行うらしい。


「凄く良い演奏だったし、行ってみようかしら」

「魔法の音楽も悪くないわね。興味があるわ」


 舞台袖でリディアがガッツポーズをする。

 そもそもリディアがアニメに参加するのはソノーラ魔法を広めるためなので、パンフレットを用意してもらい大々的に宣伝を行った。

 スタッフロールも反対を押し切り、(ソノーラ奏手)の言葉をねじ込んだ。


「オスカー卿もリディアもクセが強すぎる」

「この二人がいないとアニメが成り立たないから仕方ないんですよね」


 レオンとジュリアンは後の計画を立て始めたリディアを見てため息をついた。



【主演】


 スタッフロールにこの表示が出て皆が画面に集中した。


【フィオレンツァ:ステラ】


「ステラ! 噂の身元不明な演者ですわね。貴族なのは間違いなさそうですが」

「素朴で良い声でしたわ。個性を出し過ぎず、自己投影しそうになりましたもの」


「やはりステラの声は良い。俺は生涯、彼女の声を推すと決めたぞっ!」

「お姉さま、お隣の方が怖いです」

「目を向けちゃ駄目よ……。あれってアイゼンガルガの令息じゃ……。まさかね」


【アルベリク:ジュリアン・ベルモンド】


「ベルモンド伯爵家の!」

「あのアレクサンダー様の弟様ですわね。アレクサンダー様を思わせられる素晴らしい演技と良い声でうっとりしてしまいそうでした」

「わたくしは断然アルベリク推しです。幼馴染みこそ至高なのです!」


【カイゼル:ステラ】


「フィオとカイゼルを同じ人が演じてる!?」

「全然気付きませんでした! でも女性が演じているような高い声でしたし……」

「二人の会話シーンも一人の方が演じていただなんて」


 七色の声を出せる声優ステラにとってその程度は難なくと言った所だった。

 その後に女性兵士や食堂の女将などの声も全部ステラが演じていたことに観客はさらに驚くことになる。

 ますますステラの正体が気になるといった話が口々に広がる。


 スタッフロールが終わり、画面が暗くなる。次に光った時、一人の男性が中央にいた。


「わあっ!」

「あれ……ってもしかして」


 黒髪と琥珀色の瞳が印象的な青年。少しだけ緊張で体が震えていた。


「……ぇ、っと……今日は……」


 声がわずかに裏返る。

 アニメでの堂々とした歌声が嘘のようにその表情は強張り視線が落ち着きなくさまよった。

 けれどそれも一瞬だった。


「アルベリク役のジュリアン・ベルモントです。『アウレアに咲く恋』を観てくださって、ありがとうございました」


(今日は隣にセレスはいない。でも大丈夫、君がそこにいてくれているそう思うだけであがり症を克服できる!)


 ジュリアンはぐっと唇を引き結ぶと、深く息を吸い込む。

 次に顔を上げたときその瞳にはもう迷いはなかった。

 先ほどとは別人のようによく通る、落ち着いた声だった。


「この物語を僕は何度も台本を読み返しました。アルベリクの不器用なまっすぐさも。カイゼルの強がりの裏に隠した寂しさも。演じるうちに二人ともまるで本当にどこかで生きているように思えてきたんです」


 一言ずつ確かな言葉で客席の心に語りかけていく。


「身分や立場。そういうものに縛られて想いを口にできない苦しさはきっと誰の心にもあるものだと思います。だからこそ僕はこの二人に報われてほしかった」


 ぐっと拳を握る。


「フィオが最後にどちらを選ぶのか。それはまだ誰にもわかりません。けれどどちらを選んだとしてもアルベリクとカイゼル、この二人がいたからこそあの物語は輝いた。僕はそう信じています」


 言い終えてジュリアンは晴れやかに微笑んだ。観客からパチパチと大きな拍手で迎えられる。上がり症で帝国楽劇の舞台に立つことが出来なかったジュリアンが立派な挨拶を行ったのだ。


(あ、母上。それにアレクサンダー兄上やクララ義姉上まで……)


 そこで貴族会館にわずかしかない個室席に家族一同が揃ってることに気付く。

 てっきり新星公演の方に行ってると思ったのにとジュリアンは笑みを浮かべる。

 そしてごほんをジュリアンを席をする。次に口を出したのはアルベリク声色だった。


「フィオが選ぶのは俺だって信じている」

「きゃあああああっ!」


 生のアルベリクの声に観客の令嬢から黄色の声が上がる。ファンサービスに会場は沸いた。


「僕からの話はこのくらいで。それじゃあここからはあの二人にバトンタッチするよ。カイゼル、アルベリク。あとは頼んだよ」


 ジュリアンは一歩下がると大画面にアニマ・メドゥスがかけられる。

 そのイラストは直前に発表された主題歌【フィオレッタ】の映像が収められていた。会場は当然盛り上がる。

 イラストが光り出し現れたのはキラキラのステージ衣装に身を包んだ二人アルベリクとカイゼルだった。


『ジュリアンありがとう。バトンはしっかり受け取った。君のためにフィオは俺が守ると誓おう』


 白と金の衣装を翻し、アルベリクが爽やかに笑う。


『いやあ、いい紹介だったね。ちょっと泣きそうになっちゃった。でもフィオは僕が守るからさ』


 銀と濃紺の衣装を着たカイゼルがおどけて目元を拭ってみせる。


『お前は相変わらず調子がいいな』

『えー、本心だよ? ……まあ、半分くらいはね』


 軽やかな掛け合いに客席から笑いと黄色い声が上がる。


『さて』


 アルベリクがぐるりと客席を見渡すような仕草をした


『ここまで、俺たちの物語に付き合ってくれた皆さんに一つ、お礼がしたいんだ』

『そう。だからここからは歌うよ』


 カイゼルがぱちりとウインクを飛ばす。


『【アウレアに咲く恋】その想いを乗せて今宵だけの特別なステージを。いいでしょ?』


 カイゼルの言葉に歓声が会場を揺らした。


『っとその前に』


  カイゼルが、悪戯っぽく指を立てる。


『皆さんに、とっておきの報せがあるんだ。なんとこのライブの後に限定プロマイドが発売される予定だよ』

「!?」

『ああ、例の……』


 アルベリクが少しだけ照れたように頬をかいた。


『劇中のあの湯けむりのシーン。あそこを切り取った特別な一枚だ。……正直、お見せするのは少し気恥ずかしいんだけどな』

『何言ってるの一番の自信作じゃないか』


 その言葉を聞いた瞬間、貴婦人、令嬢の目と顔つきが変わった。全部買ったつもりだったがネタバレ避けるために上映後に販売されるものがあることに気付いたのだ。

 しかも一番セクシーで人気のシーンだ。欲しくないはずがない。

 カイゼルはにやりと笑って客席へ身を乗り出すような仕草をする。


『ご予約席のお客様は、優先でお求めいただけます。数に限りがあるから欲しい人は、お早めにね?』

『二人揃った一枚は、ここでしか手に入らない。……よかったら、もらってやってくれ』

『さあ、おしゃべりはここまで!』


 カイゼルが、高らかに片手を掲げた。


『最後まで、目に焼きつけてよ。僕たちの晴れ舞台を!』


 音楽が鳴り響く。二人が、ステージの中央でぴたりと背を合わせた。同時に声を上げた。


「【フィオレッタ】」


 まばゆい光が降りそそぎ、今、特別なライブが幕を開ける。


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