066 皇子は甘やかしたい
セレスが執務室に来るように言われたのが先程。
レオンの執務室は機密事項も多いので本人の許可なしでは入ることができない。
何か重要事項の共有か。セレスもまた先日、貴族街をジャックした白看板アニマ・メドゥス騒動の詳しい話を聞きたいと思っていた。
「レオン様、失礼します」
「セレス来たか。そこのソファに座ってくれ」
セレスは執務室の中央にあるソファに腰かける。
レオンの机の上には書類が山積み。帝国魔導研究所によって文明の革新は進んでいるがそれもまだまだ書類仕事がなくなるはずもなく、今日もレオンはこの皇族としての仕事に追われている。
「何かお仕事でしょうか。私で出来ることなら手伝わせてください」
「助かる。君にしかできない仕事を今からお願いしたい」
「任せてください!」
レオンは立ち上がり、ソファのセレスの隣に座る。
そして何かの袋を取り出し、封を開け、中からお菓子を取り出した。
「あ、あの……レオン様?」
「南国から取り寄せたチョコレートのお菓子だ。今から君には癒しになってもらう。さぁあーんするから口を開けて」
「そういう仕事ですか!?」
本来であれば避ける行為だがレオンからなら受けるしかない。
仕方なく口を開けて、頬張り、口の中にいれる。
「はむっ! んんっ! 甘くて美味しいですっ!」
「良い声を出すな。反応も上々。これは癒される」
セレスは感情表現が豊かで美味しいものを食べる時に本当に喜んだ顔を見せる。
レオンやジュリアンが収録現場にお菓子や季節のフルーツを持ってくるのはセレスが喜んでくれるからということが大きい。
オスカーは反応なし。リディアは子供と食べるからって持って帰ることが多いからなおさらである。
「この前いただいたチョコも絶品でしたし、南国ってどこですか! 子爵家でも取り寄せたくて」
「それじゃもう一個食べてもらおうか。はい、あーん」
「あーん。んんっ!」
セレスは頬に両手を当て美味に笑みをこぼす。そんな姿をレオンは微笑ましく見ていた。
確実にレオンの疲れは癒やされており、この場は甘い雰囲気に包まれていた。
「ではもう一個」
「これ以上はだめです!」
セレスの突然の拒否。レオンの表情は変わる。
「太ってしまいます! だからお菓子は二つまでって決めたんです」
「太っているようには見えないが」
「声帯にお肉がつくわけにもいかないので少なくとも上映会が終わるまでは……」
「むっ、そう言われると無理強いはできないな」
「ジュリアンも無理やり食べさせようとするんです!」
「無理やりだと!?」
レオンは憤る。ジュリアンがセレスに好意を示してから積極的になっていた。
一度シメるべきかとレオンは拳に力を入れる。
「甘い声で囁いてくるんですよぉ。だから気づいたら口に含んでて。ジュリアンのあの声は反則です!」
「ちっ、主演声優じゃなかったら声帯剥ぎ取ってやるのに」
「でも」
セレスはちらりとレオンを見る。
(レオン様のあーんも抗えないのよね。顔が良すぎる!)
「と、ところで街中にアニメの映像を流したのはレオン様の策ですよね!」
話を変えて、セレスは本来聞きたかったことを問う。
「ああ、新星公演はもう100年以上も同じことを繰り返していて、1ヶ月前に情報が出きっているのは分かっていた。だから4週前にアニメの告知を行ったんだ」
「貴族街下層の中央広場エリアはすごい混雑だと聞きました。あと夜中を除いて3時間に1回予告映像が流れるからみんなの記憶に残りますね」
「セレスはどこに白看板を置いたと思う?」
「そうですね。上層だったら王城の前、会員制社交クラブの前、高級店の前でしょうか。上級貴族の目に止まるならそこが一番かと」
「いい着目点だ。下層ならどうだ」
「先程の中央広場。カフェ通り、あ、下層と上層を繋ぐ階段もありですね。あとは公開予定のアーデルスハレの前も宣伝効果もあるでしょう。そして大聖堂も良いかと。礼拝帰りの方が見てくれるのではないでしょうか」
「概ね当たりだ。だが一つだけで出ていないところがある。そう、帝国楽劇場だ」
「あそこにも置いたんですか! 相手側なのに!」
「意識してもらう必要があったからな」
レオンの推測通り、新星公演の演者達はアニメを意識し、猛練習に励むことになった。
それが幸か不幸かは不明だがレオンの予測通りといえる。
「セレス、少し仮眠を取ろうと思う。良いか?」
「はい。じゃあ執務室を出ますね」
「違う。膝をかしてくれ。ステラの声で眠りにつきたい」
「ええっ! ど、どうぞ」
こんなこともあろうかとソファを寝やすい長さにしておいて良かったとレオンはごろんと寝転ぶ。
そしてセレスの膝の上に頭を寄せた。
「痛くないですか?」
「とても柔らかくて心地よい」
「そうですよね。くっ、痩せないと」
「悪口を言ったつもりはないぞ!」
セレスはレオンの頭を撫でて、レオンが安らげるように繕う。
「ジュリアンからローゼンブリューレのドレスを贈られたんだったか?」
「はい、この前の誕生日パーティですね。何着も頂いたのですが高価すぎて戸惑ってしまいます」
「帝国でローゼンブリューレ以上を探すのは難しいが、属国まで足を伸ばせばいくらでもあれ以上のものが見つかる。俺がセレスに似合うドレスを見つけて、俺のパートナーにふわぁぁぁ」
(レオン様まで私に!? 聞き間違いじゃないよね。皇子のパートナーなんて務められる気がしない!)
冗談であることを祈り、セレスはレオンの頭を撫でる。
「殿下、ディートリヒです。よろしいでしょうか」
「ディートリヒさんです。どいた方が」
「そのままでいい入れ」
(ええっ!?)
執務室にディートリヒが入ってきた。
「あ、あのディートリヒさんこれには訳が!」
「殿下、アーデルスハレの初回予約率の情報が上がってきました。現在50%とのことです」
(スルーされてる!?)
「かなり上がったな。だがまだ低い。じわ伸びでどこまで予約率を伸ばせるかだな」
「あとこれらの書類を確認してください」
「分かった。セレス、悪いが持っていてくれ。このまま確認する」
「このままですか!?」
「申し訳ありません。殿下の我儘聞いてくださいませ。セレスティア様は頼みの綱なのです」
ディートリヒは去っていき、レオンはセレスの膝の上で仕事を続けるのであった。




