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064 会見

 シュテルネンライヒ大帝国の代表的な興行である帝国楽劇。そして皇子レオンハルトが主導のプロジェクト。貴族間で大きく話題になっており、先のベルモンド伯爵令息の誕生日パーティでの一件の噂が広まっていた。


 そして公開日を基準におおよそ2ヶ月前。

 皇子レオンハルトが記者会見を行うということで帝国内の報道陣だけでなく、同盟国の記者達も噂を聞きつけて集まっていた。

【鉄血の獅子】の噂で軍事関係の要素が強かったレオンがそれとは別の記者会見を行う。記者達は貴族からある程度事前情報は得ているだろうが、得体のしれない情報ばかりであった。


 レオンが記者会見の場に現れた。

 漆黒の大礼服。テーラードのフロックコート丈の礼服だ。

 帝国最高位の勲章を象った大型の星章の左胸に。これを付けるだけでシュテルネンライヒ大帝国の皇子の権威を示す。


 皇帝の血筋であることを象徴する、金色の髪と金色の瞳。

 誰もがうっとりとするその美形は権威も合わさって神々と勘違いされてしまうほどだ。

 この場の記者に男性が多いのは美貌に当てられてしまって取材にならないからというのが噂である。


「集まってくれたこと、感謝する」


 低く、淡々とした声。表情は動かない。鉄血の獅子と呼ばれた男の戦場仕込みの静けさだった。

 騒いでいた記者達も黙り込んでしまった。


「本日、帝国の新たな興行として発表するものがある。それは絵に命を吹き込み、生きたように動かす芸術それが【アニメ】というものだ」

「アニメ……それが帝国楽劇に次ぐ新しい興行」


「噂では戦場魔法、アニマ・メドゥスから取っているとか」

「ほぅ、やはりある程度情報は得ているな。その通りだ。アニマ・メドゥスを利用し、人々に感動と喜びを伝える観劇となるだろう」

「つまり」


 記者が手を挙げ、立ち上がった。


「ライバルは帝国楽劇。そう思っても良いのでしょうか。帝国楽劇のトップスタァといえば殿下の姉君であるヨノエル様で……」

「まだ立ち上げたばかりだからな。そうなりたいとは思う。まずは2ヶ月後の公開でその目で確かめてほしい」

「おおっ」


 記者達が一斉にメモをとり始めた。明日の一面はアニメという言葉が一面を飾るだろう。


「タイトルは【アウレアに咲く恋】。そしてメインビジュアルを持ってきた」


 レオンが指示をする。すると奥からディートリヒが現れて、宣伝ポスターをぶら下げたのだ。

 記者達が驚きの声を上げる。宣材ポスターとは帝国楽劇のように主演俳優陣の写実画となることが多い。

 なのにアニメの宣材ポスターは極端にデフォルメされたキャラクターが映っていたのだ。

 それ前提に考えていたからか。記者達は固まってしまっていた


「この絵画をイラストと呼ぶ。イラスト以外の言葉で呼ばないように、機嫌が悪くなるからな」


 中央の女性がおそらく主人公。その両脇に固めるのがヒーロー役といったところか。


「公開日は2ヶ月後某日、貴族会館【アーデルスハレ】にて公開となる。チケットの予約は1週間後からだ。以上で記者会見は終了とする」


 レオンの言葉でイラストは回収され、関係者一同立ち去ることになる。

 記者達は唖然とした様子で記者会見の場に立ち尽くしていた。


「殿下、もう少し情報を出した方が良かったのではないでしょうか」


 奥の控え室でディートリヒがレオンに問う。

 レオンはふんと鼻で笑うような仕草を見せた。


「どうせ今、公開したとして奴らでは理解できん。今は小出しにした方がいい。期待というのは低い所から上がる方が良いのだ」


 そして翌日、アニメの公開に連動して、皇位楽劇団より新星公演の公開日が発表された。

 格式ある会場で記者を大量に呼んでの大発表であった。

 確実に前日レオンの発表を意識していると思われる。


「噂通り、新星公演とアニメの公演が同じ日になったな」

「どっちの方が人気になるんだろう」

「アホ。帝国楽劇の公演が人気じゃなかったことなんて無いんだよ。何をしたって勝てるはずないさ」


 記者達は一同に新星公演の記事を報道に載せた。

 帝国楽劇の記事が載ると爆発的に売れるからだ。

 そしてアニメの報道はあっという間に消えてしまった。だが、完全に消えたわけではない。


「殿下を悪くいうつもりはありませんがあのイラストはどうにも」

「少し子供っぽすぎませんか? 帝国の伝統というものはあんな幼稚な絵では表現できんよ」

「子供向けを意識したのかもしれませんね」


 一部の貴族からは不満の声が上がる。伝統ある帝国楽劇をライバル視したことが一部の熱狂的なファンから不興を買ったのだ。

 報道陣も対立構図が面白いのか煽ったりもしたが、皇太子肝入りのプロジェクトのため大胆な否定はできなかった。


 アニメと新星公演、最初の攻防が終わる。


「ディートリヒさん」


 週に1度の関係者でのミーティング。リディアは問いかけた。


「帝国楽劇の新星公演と公開日、公開時間が被った件。今の段階でチケットの予約状況はどうなんです?」


 聞きたかったけど聞けなかったこと。セレスやジュリアンも気になっていた。


「第二回アニメの上映は貴族会館【アーデルスハレ】を使う予定で進めています」

「貴族街下層にある貴族専用の施設ですよね」

「ええ、帝国楽劇場(グローリア・ハレ)ほどではないけど立派な会館だわ。わたしもコンサートをそこでやろうか考えたけど埋まりそうになかったし諦めたわ」


 ジュリアンが近づいてくる。


「新星公演における、帝国楽劇場(グローリア・ハレ)の最大収容人数が1500人。アーデルスハレは800人。立ち見席も含めたらもう少し入るけどやっぱり倍以上は違うね」


 そういう意味で貴族街上層にある帝国楽劇場(グローリア・ハレ)は格式も規格外であった。

 そこで何かをやるということは頂上といったところだろう。


「アニメもいつか帝国楽劇場(グローリア・ハレ)で公開したいですね」


 そんなセレスの言葉に皆、同調するように笑う。

 そしてディートリヒが紙を持って近づいてきた。


「夢を語るのは良いことだと思います。ですが……新星公演の予約率はほぼほぼ100%です。対してアーデルスハレの予約率は……」

 次の言葉を聞いて、皆の表情が一変した。


「約15%ほどになります」

「絶望的じゃないですか!」


「まぁ仕方ないと言えるだろう。アニメとは何かということを徹底的に秘匿してきたからな。当初の予定では新星公演の終わった次の週で考えていた」


 そのはずがまさかの同じ日。同じ時間に開催である。

 アニメに興味ある層はいるだろうが、歴史のある新星公演を逃さない上級貴族も多い。


「帝国楽劇という強すぎる光の影としてアニメは裏街道から一気に表に出る予定だった。ステラの正体を隠しているのもその一つだ。だが」


「裏のまま消えてしまいそうですよね」


 アーデルスハレの席予約がこのまま埋まらなければ敗北は必須。

 新星公演に勝つのなら満席は最低条件なのだ。


「対する新星公演はすごいわね。連日、取材の数々。新聞も雑誌もそればっかりよ」

「先週主演の発表が行われましたもんね」


 公開まであと1ヶ月半。最初に手を出してきたのは新星公演。

 主演のシャイセントとオゼットを全面に出して、取材などを受けさせる。

 あっという間に貴族達の意識は帝国楽劇に取られてしまった。


「夜会やサロンに出て、宣伝をしているそうよ」

「出演するのは若手だけで宣伝は誰がしてもいいからね。兄や義姉上たちも宣伝を欠かしていないらしい」


 プリマドンナ、ディーヴォが新星公演の宣伝をする。

 それ以上の宣伝は存在しないだろう。日に日に存在感は大きくなった。


 そして公開まであと1ヶ月となった時、新星公演のポスターも公開。

 新星公演の全日程のチケットが完売になったという報道が出た。


「レオン様」


 心配そうにレオンを見るセレス。だがレオンはまったく心配しているような素ぶりを見せなかった。

 そう、レオンには秘策があったのだ。

 そもそもアニメという画期的なものを考えつき、運用まで持ち込んだ男が無策なわけがない。


「新星公演はキャストの発表など基本的な情報を全て出し尽くした。これ以上の手を使ってくることはないだろう。使わなくても十分予約は取れてるしな」

「これ以上の手、例えばヨノエル様が出演されるとか……」

「それは地獄だが、新星公演の趣旨に合わない。伝統を重んじるからこそやることはないだろう」


 あくまで新生公演は若手だけ、楽劇団のトップ達は前に出るわけにはいかないのだ。


「これをやるために研究所に様々な結晶を作らせたんだ。公開日まであと4週間。明日から一気に巻き返すぞ!」


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