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057 発表

(昔、殿下の同級生で最優秀賞を三年連続で取った伝説の子爵令息がいたって聞いたことあるけど……セレスが関係者。なわけないよなぁ。殿下も相当上手いのに悔しい想いをしたって言ってたっけ)


 セレスのダンスを見てジュリアンはそんなことを思い返す。

 それほどまでにセレスのダンスは素晴らしかった。そして当の本人は。


(良かった。お兄様にしごかれたおかげで転ばなかった! 足踏まなかった! だけどもうダンスはしばらくいいわね。しんどいし)


 お気楽なことしか考えてなかった。


「あ、兄上!」


 完全に皆の視線から外されてしまったシャイセントは縋るようにアレクサンダーの方を見る。

 本来であればダンスで注目の的になってからこの流れにするつもりが完全に注目を奪われてしまった。


「セレスのくせに……なんであたしの邪魔をするの!」


 オデットも厳しい形相を見せていた。


 アレクサンダーはため息をつき、関係者からマイクを受け取る。

 そして美声を上げた。


「ダンスの時間ですが、ここで一つを告知をしたいと思います。皆さんも知っての通り、そろそろ【新星公演》の発表時期となり、今年は何をやるのか誰が主演なのか気になっているのではないでしょうか」


 帝国楽劇団の新星公演とは何か。

 ヨノエルやアレクサンダーなどトップスタァやプリマドンナ、ディーヴォが主演を務めるが通常の帝国楽劇である。

 しかし上位層がまったく出演しない、普段助演でしか出演しない俳優や新人を主演とする公演イベントは存在する。

 それが新星公演である。

 普段の公演よりはクオリティは落ちるためチケット代はかなり安い。

 しかもファンにとっては新しい推しを見つけるチャンスでもあるため非常に人気のイベントとなっていた。


「今年の新星公演では主演を我が弟、シャイセントが務めることになりました」

「おおっ! シャイセント様が!」

「ついにシャイセントが主演を!」


 パチパチと拍手で出迎えられたシャイセントはアレクサンダーにいる壇上へ行く。

 オデットも一緒にそこへ行く。


「兄上が新星公演の主演か……」

「凄いですね! 新星公演ももの凄い人気ですし、きっと帝国楽劇場(グローリア・ハレ)は満員御礼になりますよ」


 新星公演の主演発表に注目が集まる。

 帝国楽劇の新星公演は春夏秋冬それぞれ大イベントがある中の一つであり、大盛り上がりするのだ。

 だからこそその情報に歓喜している人々が多い。


「シャイセント・ベルモントです。新星公演の主演で主役をやることになりました。これまでは助演で兄上や義姉上、皇女ヨノエル様を支えてきましたが今回は自分が主役をやらせて頂きます。是非とも応援頂ければと思います。あと……」


 最近ほどの嫌みな言葉とは裏腹に対外的には良い顔をするようだ。

 女性にモテるだけあり、得意なのだろう。

 シャイセントは尚も注目を浴びようと言葉を繋げていた。


(オデットが横にいるのはパートナーだからかしら。それとも)


「そして今回、自分の相手役を紹介します。今日の私のパートナーで新星公演の主演ヒロインを演じます。その名も」


 オデットは一歩踏み出した。


「ヴェルナー男爵家のオデット・ヴェルナーです。今年入団した新人ながら新星公演の主演を務めさせて頂くことになりました。憧れの舞台。シャイセント様を支え、主演として皆様の期待に応えられるよう頑張らせて頂きますわ」


 オデットはドレスを両手で摘まんでアピールするように礼をした。


「綺麗な子ね。堂々としてるし、期待できるわ」

「新星公演、絶対チケットを手に入れたいわね」


 オデットは胸に手を挙げて、大きく息を吸った。


「ラァァァァァ~~~~~~~!」


 高く響く美しいその声は帝国楽劇場全体に響いた。


「とても綺麗な声だわ。ヨノエル様みたい」

「心地よくてとても澄んだ声ね。歌を聴いてみたいわ」


 オデットはその実力をアピールする。


「確かに上手いね。かなり練習してるようだ」

「そうなんです。オデットはああ見えて努力家なんですよね」


 ジュリアンはちらりとセレスを見る。

 セレスはオデットの成長を好ましく思っていたようで明るい表情だった。


(セレスティアはあの子に婚約破棄をされたり、嫌がらせもあったって聞いたけど……。お人好し過ぎるのかそれとも……)


 対するオデットはセレスを見てにやりとしていた。


「……」

「ジュリアン、どうしたんですか?」

「君は大物だなって思っただけだよ」


「じゃあ」


 その時だった。マイクを受け取ったシャイセントが声を上げたのは。


「殿下の肝いりのプロジェクト。その主演を務める三男のジュリアンから一言頂きましょうか。来いよジュリアン」

「なっ!」


 突然の振りにジュリアンは唖然とする。


「おい」

「いいではないですか。兄上と俺はちゃんと成果をアピールしています。ベルモンド家の人間としてあいつにも花を持たせてやらないと」


 アレクサンダーの言葉にシャイセントはもったいつけた言い方をする。

 あがり症のジュリアンに対して舞台に上がれと言うのは酷な話だ。


 ジュリアンは足が震える。しかし、頑張ると決めたからこのパーティにも出席した。

 ジュリアンはゆっくりと壇上へと上がる。


「ベルモント家を格を下げるなよ」

「っ」


 シャイセントはマイクをジュリアンに渡した。シャイセントも離れ、壇上にはジュリアンだけとなる。


 ジュリアンは声を出そうと口を開ける。その時、全員がジュリアンに視線を向けていることに気付く。

 その瞬間、体が強ばり、口が上手く動かなくなる。


(いけると思ったのに……。まだ僕はこのあがり症を克服できてない)


「どうしたのかしら」

「三男の子初めてみるわね。ベルモント家だけど皇立楽劇団に入っていない?」

「でも凄くイケメン……。でも顔色が悪いわね」


 黙り込むジュリアンの様子に貴族達もざわざわと騒ぎ始めた。

 ジュリアンは何度も声を出そうとするが顔に汗を流し、それ以上のことができない。


「あなた……」

「駄目か」


 アレクサンダーとクララが限界を見極めて、そして動きだそうとしたその時だった。

 壇上に一人の女性が上がる。そして震えるジュリアンの手を取った。


「セレスティア!?」

「ジュリアン。あなたは一人じゃありません。アニメは一人じゃできない。そうでしょう」

「あ……」

「私が側にいますから。私だけじゃ足りなければ……」


 セレスは軽く息をする。


「ジュリアン頑張って」

「あなたならできる」

「いつも堂々しているあなたは格好いい」

「落ち着いて」

「大丈夫だから」


(たくさんの声色を使って励ましてくれてる)


 オデットが大衆に美麗な声を出したのなら、セレスはただ一人ジュリアンのためにその声色を使う。


 そして何より握られたの暖かさがジュリアンにとって何よりの励みとなっていた。


(そうだ。僕は一人じゃない。僕だけでどうにかする必要なんてないんだ。セレスティアありがとう。気付かせてくれて)


 ジュリアンは大きく息を吸う。


「僕はジュリアン・ベルモント。ベルモント家の三男です。皇立楽劇団には入ってはいませんが二人の兄と一緒に幼少時から帝国楽劇の技術を磨いていました」


「お兄様達同様とても凜々しい声だわ」

「これだけ良い声なのに楽劇団に入ってないなんてもったいない」


 ようやく出たジュリアンの声に人々は注目していく。


「このパーティに来られた方なら恐らく耳にしていることでしょう。レオンハルト殿下が企画している新たな興行、その名はアニメ」


「アニメ……。何度か耳にしたが詳細はよく分からないな」

「帝国騎士団の本部で上映されたと聞くわ」

「評判が良かったようだ。正直、かなり気になっている」


 アニメの第一回上映は帝国騎士団の遠征中隊向けて行われた。

 そのためすでに話を聞こうにも騎士団は遠征任務に出ており、大きな情報が広まっていなかったのだ。

 皇子の企画ということもあり、無理に聞き出すこともできない。

 大好評だったという話は伝わっていたので芸術的好きな貴族達は気になって仕方ないようだ。


「アニメは帝国楽劇と違った興業となります。完成度は帝国楽劇に匹敵する。最後に超えていく。レオンハルト殿下も本気でそう思って取り組んでいます。もちろん私も同意です」


「おおっ!」

「はっきりといった!帝国楽劇で成り上がったベルモント家の者が」


「ジュリアン! 何てことを言いやがる」

「……ふっ」


 怒りに震えるシャイセントとは対象にアレクサンダーは笑みを浮かべていた。


「殿下の許可がいるので今はこれ以上言えませんが、近日中にアニメの詳細について発表があるでしょう。主演は私、ジュリアン・ベルモント。もう一人。主演で主役の女性役をステラが演じます」


「ステラ……? 女性の名前だが。どこの令嬢だ」

「隣の女性がそうなのか?」


 隣にいるセレスに注目が集まる。ジュリアンはセレスの方を向き、頷く。


「アニメの制作には隣のセレスティア・ハルモニアも手伝ってくれていて、彼女も仲間の一人です」


 ここで否定しておくことでステラへの疑いを晴らすことになる。極めつけはこれだ。


「……(ぺこり)」


 セレスは声を出さずに礼をした。セレスの特徴的な声はここで広めない方がいい。ジュリアンもセレスもそれが分かっていたのだ。


「隣の子じゃないのか。どこの誰が主役を演じるのか楽しみだな」

「頑張れ~! 応援してるぞ!」


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