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056 ダンスタイム

 舞台は帝国楽劇場(グローリア・ハレ)


 開会の挨拶としてベルモンド伯爵、そして主役のアレクサンダー、来賓の高位貴族と続く。

 その後帝国楽劇のスタァであるアレクサンダー、クララ夫妻による歌唱のエンターテイメントが続き、場が盛り上がる。


(お二人の歌が聴けるなんて最高すぎるっ!)


 お金を払ってもなかなか聞けない帝国楽劇の俳優達の歌声にセレスは感激をしていた。

 元より帝国楽劇は歌と観劇を組み合わさってできたものである。

 観劇で心を引き込み、歌声で心を震わせる。観客の心を楽しませるためにあった。


(アニメには歌要素がないのよね。そういう題材ならともかく、挿入歌を入れるのはテンポが狂うし……)


 皆が感動を覚え、目に涙を浮かべる歌声の後、突然弦楽器の優雅な音色や木管楽器の軽やかな音が響く。

 三拍子のリズム、ワルツだった。


 最初に動いたのはアレクサンダーとクララだった。

 アレクサンダーがクララに手を差し伸べ、その手を取る。

 二人は大理石のダンスフロア中央へ。そして音楽に合わせて二人は踊り始めた。


「ふわぁ! とても綺麗!」

「演技で踊ることもあるから二人は上手いよね」


 そのダンスは完璧と思えるほどだった。

 そして次々と他のカップルもフロアに降りていく。

 公爵夫から若い貴族のカップル達。シャイセントとオデットの姿もあった。

 色とりどりのドレスが回転し揺れる。燕尾服の男性達がエスコートしていたのだ。


「セレスティア、僕と一緒に踊って頂けませんか?」

「はい、よろこんで」


 ジュリアンの差し伸べた手をセレスは受け入れる。二人はダンスフロアの方へ向かった。


「ジュリアンはダンスが得意なんですか?」

「こう見えて社交舞踏会コンテストで優秀賞を取ったことがあるんだよ」


 社交舞踏会コンテストとは三年制の貴族院で毎年暮れに行われるイベントで男女ペアを組んで、ダンスの美しさ、上手さを競う。

 最も優秀であれば最優秀。上位であれば優秀賞がもらえる。

 上位貴族の間では面子のため、優秀賞以上を取るのが当たり前なので学生なのにプロ級の腕前を持つ生徒が多くいる。

 ジュリアンはベルモントの家ということで幼少から教わっていたため上手かった。


「すごいです! 私は三年間、出場したことがなくて……」

「そう。セレスは壁のお姫様だったもんね」

「オデット!?」


 気付けばシャイセント、オデットのペアがセレス達の近くに来ていた。


「ジュリアン様可哀想ですわ。ダンスの教養の無い子とペアだなんて。わたくしも三年の時に優秀賞を取りましたのよ」


 その声、容姿で男爵令嬢でありながら男性に取り入ることが上手かったオデットはダンスの上手な男子生徒でペアを組んで上位貴族と同じ優秀賞を手に入れている。

 ダンスに絶対的な自信があった。


(あたしとシャイセント様のダンスを見せつけて差を実感させてやるわ。セレスが伯爵令息とダンスなんて生意気なのよ)


 せっかく婚約者を奪ってどん底まで落としたのに這い上がって自分の側に近づこうとしている。オデットは強くセレスを意識していた。


「オデットやるぞ。このダンスが終わったらいよいよだ。ここで注目を集めておきたい」

「もちろんです。この場の誰よりも輝きましょう」


 シャイセントとオデットはリズムに合わせ踊り始めた。


「兄上も優秀賞取ってたし、あのペアは上手そうだね」

「すみません。私がジュリアンの足を引っ張ってしまいそうで」

「気にしないで。アニメと一緒で僕がエスコートするから、セレスティアはいつも通り伸び伸びとやって」

「はい!」


 ジュリアンの優しい言葉にセレスは吹っ切り、ジュリアンの差し出す手を握る。

 そして音楽に合わせ、ワルツのリズムに足を合わせる。


「あの二人凄く上手ねぇ」

「次男のシャイセント様か。ペアの女性も相当上手いぞ」


 隣で踊る、シャイセントとオデットに注目が集まっていく。セレス達はその影に隠れてしまっていた。


 ジュリアンの優しいリードに合わせ、セレスは右足、左足と揃えていく。

 そして回転。ドレスのスカートがふわりと広がる。


「うん、上手」

「緊張が解けてきました」


 ステップを重ねるうちにセレスティアの体が音楽を覚え始めた。

 ジュリアンのリードに合わせるだけでなく、自分で音を感じていたのだ。

 皇位弦楽のオーケストラの演奏に合わせてセレスの動きが変わっていく。


(僕がリードしてたはずなのに……先回りしている。音楽を読んでいるのか)


 ダンスは貴族にとって基本教養ではあるが、その上手さは環境に大きく影響する。

 セレスのような社交舞踏会に出たことがない令嬢なら最低限の動きしか出来ないはずだ。


(立場が変わった!?)


 今度はセレスの方から回転のタイミングを作った。それにジュリアンが合わせる形となえる。


「見て、隣の二人。とても綺麗よ!」

「あれは三男のジュリアン様か。さすがベルモント家。全員上手いとは」


「いや……」


 奥で長男のアレクサンダーと妻のクララがジュリアン達のダンスを視認する。


「食らいついているのはジュリアンの方だ。あの令嬢は何者だ」

「もしかしてヨノエル様が最近目をつけてる子がいるって言ってたけど彼女だったりして」


 観覧席で見ているだけでなく、ダンスフロアで踊る人達もセレス達のダンスに引き込まれていた。


「あのペア……」

「美しいわ……」


 セレスのペールブルーのドレスが回転するたびに優雅に広がる。

 セレスのダンスだけではない。ローゼン・ブリューレの優雅なドレスがその魅力を引き出していた。


 ステップが完璧で一つのミスもない。


「ジュリアン様と一緒に踊っている女性は誰なんだ!?」


 セレスの体はもう勝手に動いていた。

 思い出すのはそう……この前ハルモニアに帰省した時に言われた兄の言葉。


「もっと膝を柔らかく。回転は、軸をぶらすな。音楽を聴けセレス。音楽が全てを教えてくれる」


 血反吐を吐いてしまうほどに厳しかったこと思い出し、セレスの表情は歪むが首を振ってかき消す。


(セレスティアについていくだけで精一杯だ。でも負けられない。ダンスでもアニメでも僕とセレスティアは主演なのだから)


 ジュリアンもまた力を出し切り、より力強い演技を生み出していた。

 いつしか周囲のカップル達が距離を開け始める。

 無意識にセレスとジュリアンのために空間を作り始めた。


 それに焦るのはシャイセントとオデットのペア。


(くそっ! 俺達じゃなくてジュリアン達に視線を取られる)

(なんで!? なんでなんでなんで。セレスのくせにどうしてあたしの邪魔をするの)


「きゃっ!」


 体勢を崩してオデットは転んでしまった。


 最後の大きな回転。 セレスがくるりと回る。 ドレスが大きく広がり、まるで花が開いたよう。 ジュリアンがセレスティアを引き寄せる。


  そして音楽が止まった。


「はぁはぁ……」

「ふぅ」


 セレスとジュリアンの息が切らしている。

 一瞬の静寂の後、拍手が起こる。


「ブラボー!」

「あんなに美しいワルツは久しぶりだわ!」


 セレスはその声でようやく我に返った。


「あれ……」

「はぁ……はぁ……セレスティア。上手すぎだよ。どこで覚えたの」

「どこで……? ジュリアン、もしかしたら」


 セレスはあっけからんと答えた。


「私のお兄様が上手なのかもしれません」



 ◇◇◇


 少し場面は変わってハルモニア家、セレスの兄ヴィルヘルムは執務室で書類仕事を行っていた。


「ヴィルヘルム様、宜しいでしょうか」

「ああ」


 部屋に侍女が入ってくる。


「倉庫整理を行っていたのですがこの三つの金メダルが見つかりまして……」

「懐かしいな。貴族院時代に社交舞踏会コンテストで三年連続で最優秀賞を取った時のものだ。そんな所にあったのか」


 そう、ヴィルヘルムは貴族院時代にダンスのコンテストで賞を総なめしていたのだ。

 地方令息でありながら圧倒的な力量で勝ち抜いた。


「この前帰省したセレスお嬢様にも教えておりましたね」

「そうだな。まだまだ下手くそだが少なくとも」


 ヴィルヘルムは帝都の方に視線を向ける。


「優秀賞でイキってしまう奴らよりは断トツで上だろう」

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