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048 誕生日パーティ

「むすー」

「もう、ジュリアン。そんなに怒らないでください」


 場所はオスカーのアトリエ。

 第二回上映会のアニメの内容はまだ表には出せないので、漏洩を避けるために侯爵家の一画にあるオスカーのアトリエの中で打ち合わせが行われる。


 今日は監督と声優二人の打ち合わせの日だった。

 レオンがやってくるのを待っている間にジュリアンとセレスは雑談に花を咲かせたわけだが。

 ジュリアンはレオンに匹敵するほど美男子で黒髪とオパール色の瞳は目を引く美しさがあり、特に美声は聞くだけで耳が幸せになるほどだった。


「僕だけ置いてけぼりだよ。僕もハルモニア市に行ってみたかったのに」

「急な帰省でしたから。レオン様が来たのが例外中の例外……」

「僕の母上がハルモニアティーのファンでよく取り寄せているんだ。香りがいいから僕も好きだよ」

「ほんとですか! 今度良いものを贈らせて頂きますね」


 アニメで共演が長かったこともあり、二人はかなり打ち解けていた。

 一般的に一番の友人と呼べるほど気安い関係となっていたのだ。

 二人きりでも話題が尽きることはない。相性も非常に良い。


 エルデンブルク城のパンフレットを読みながらジュリアンは呟く。


「三角関係のロマンス劇。僕はヒロインの幼馴染みで騎士団長役か。セレスのヒーロー役と対比させるならなるべく剛を強めにした方がいいかな」

「そうですね。私がもう少し低い声出せれば良いのですが」

「大人の男性の声まで出せたら声優はもうセレス一人で良くなっちゃうし」


 女性であるなら赤子から老婆。

 男性でも線の細い青年までならセレスは難なく声色を操ることができる。

 その器用さをジュリアンは純粋にすごいと思ってた。


「舞台の場所とか決めたんだよね。僕も一緒に話に加わりたかったな」

「あはは……。ごめんなさい。今度はジュリアンのお願いを聞きますから」

「じゃあ、お願いを聞いてもらおうかな」

「へ」


 ジュリアンが微笑み、ちょっと小悪魔な声を出す。突然の変調に少しセレスも動揺した。

 しかしすぐにジュリアンは顔を赤くして項垂れる。


「ごめん。実はセレスティアにお願いがあるんだ。でもなかなか切り出せなくて無理矢理言っちゃった」

「そういうことなんですね。私で出来ることであればですけど」

「実は僕の兄、アレクサンダー兄上の誕生日が10日後に近づいているんだ」


 ジュリアンは三兄弟であり、一番上の兄アレクサンダーは皇位楽劇団の名俳優、ディーヴォの一人であった。


「アレクサンダー様! あのヨノエル様が唯一助演にまわるほどの優れた名俳優ですよね。主演の務めた『夜の守人』を見てみたかったです」

「『夜の守人』は凄くいいよ! 兄上の演技の良さと際立っていて、ヨノエル様の光にも食われずに完璧に演じていたんだ! 兄上は本当に凄いんだ」

「ジュリアンはアレクサンダー様を尊敬してるんですね」

「凄く厳しいけどね。父上と一緒でいつか超えていきたいと思っている」


 話がそれてしまったので元に戻すことになった。


「兄上の誕生日パーティがあるんだ。次期伯爵家の当主の予定だし、いつも盛大やるんだけど僕はあがり症のことで負い目もあって参加してなかったんだ」


 セレスが出会った時のジュリアンは非常に気弱な所があった。

 しかし、アニメの収録ではそんな姿も見せず主演を演じきって見せた。


「でも第二回のアニメの成功したらステラはともかく僕は表舞台に出なきゃいけないと思う。主演の両方が隠れるわけにはいかないからね」

「ごめんなさい。ジュリアンに負荷をかけちゃいますね」

「いいんだ。キャライメージを考えれば声優は前に出さない方が良いと思う。僕と違ってステラはいろんな声を出すから秘匿にしておいた方が話題になるって殿下の考えも分かる」


 ジュリアンの声は誰が聞いてもジュリアンの声と分かるがその卓越した演技や声色で年齢を使い分けることができる。

 まるで別人と思われるようなセレスの演技とは根本的に違う。


「だから今回のパーティに出て、僕の名前を覚えてもらう。ベルモント伯爵家三男の名前をね」

「アニメが流行れば、ジュリアンが演じているってみんな分かるから一気に盛り上がりますね!」

「そこで……なんだけど」


 ここからようやくの本題だった。


「僕にはパートナーがいないんだ。ベルモント家は帝国楽劇関係者同士で結婚することが多いから、古くからの婚約者とかはいないんだ」


 その家で生まれたもの全員が帝国楽劇に携わるのでどうしても理解が無ければ結婚は難しい。

 領地もなく、帝国楽劇関係の権利で莫大な収益を得ている。当初は成り上がりの貴族と評されたが数百年で帝国楽劇が当たり前となった今、誰もそんなこという輩はいない。


「だからセレスティアにパートナーになってほしい。既婚者のリディアには頼めないし、僕にはセレスティアしかいないんだ」

「そういうことであれば……」


 セレスに断る理由はなかった。

 声優ステラとして表には出なくても子爵令嬢のセレスティアとしては積極的に社交場として出なければならない。

 伯爵家のパーティなんてそういけるものでもない。パートナーも気心知れたジュリアンだから安心だった。


「私で良ければ受けさせてください」

「助かるよ~! セレスティアなら気心も知れてるし、安心できる」


 どうやらジュリアンも同じ気持ちだったようだ。

 セレスは口元に手を当てて考える。


「さすがに伯爵家のパーティとなるとちゃんとしたドレスを用意しないとですね。子爵家に連絡して準備してもらいます」

「今回は僕がお願いしたことだし、そこまでしてもらうのは悪いよ。セレスのコーディネートの費用は全部、伯爵家が持たせてもらう」

「いいんですか!? 恥ずかしながら帝都貴族に比べて地方貴族はいろいろ厳しくて」


 父や兄からの教育でセレスも領地経営について理解していた。

 それを知らず散財する令嬢が多い中、セレスは堅実な暮らしを心がけていた。

 伯爵家のパーティこそ予算のかけどころではあるが、こういうものは青天井であり、必ずしも上手くいくとは限らない。


「それじゃ今日の打合せが終わったら、ドレスを見にいこうか」

「お願いします。ところでレオン様遅いですね」

「ピュイ!」


 シロハヤブサの鳴き声にセレスは気づき、窓を明ける。


「アルタイル! どうしたの?」


 レオンの伝令役でもあるアルタイルが足につけている文をセレスに示す。

 セレスはその文を外して読み、アルタイルの頭を撫でた。

 ピュイと一回鳴いてアルタイルは去っていく。


「今日の打合せはキャンセル。すまないだって」

「そっか……。殿下も忙しいよね」


 帝都に帰ってきてから1度も会っていない。

 セレスはレオンと話したかったが今日はそれは敵わない。


(忙しいんだから仕方ないよ。ハルモニアでのこと、抱っこして寝かせてくれたこと……お礼を言いたかったな)


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