046 俺のお姫様
レオンは腰に下げた 鞘に手をかける。
「星煌一刀流の一部の型は夜にこそ真価を発揮する。そして俺はその型の奥義を使うことができる」
「がああああああああっ!」
大型の魔獣が咆吼を上げて、突進してきた。
それに反応し、レオンも刀を抜き、飛び出す。
その表情は自信に満ちていて何の不安も感じさせなかった。
レオンの勝利をレオンもセレスも疑っていなかった。
「三の型、奥義【月下美人】」
月の軌道を描いたその一振り。
金色の髪を持つレオンが夜行性の花畑の側でその技を放つことは本当に幻想的な雰囲気を映し出していた。
(オスカー様がいたらこのシーン、イラストになってアニメになったのかなぁ)
セレスはそんな風に評する。
魔獣の強靱な肉体も星煌一刀流の三の型、月の魔力で威力が増すこの型は夜戦で大活躍をしたらしい。
レオンはこの型が得意で一番早くに習得し、奥義も一番早く習得した。
その強力な一撃に魔獣はあえなく倒れる。
「発っ!」
レオンが発揮した気迫は魔獣の気配を消すのに十分だった。
ここには強者がいるそういうことだろう。
武の心得のないセレスにはまったく分からなかったようだが。
刀を鞘に戻し、セレスの元へと帰って行く。
「レオン様、腕、ケガをしてるじゃないですか!」
レオンの腕が軽く、切り傷がついており血が滲んでいた。
「攻撃を受けたつもりはなかったがすれ違った時にひっかかったか」
「毒性はなさそうな魔獣ですが、手当しますね」
レオンは花畑の側に座り、セレスも隣に座る。
セレスは応急処置道具を取り出して、レオンの腕に包帯を巻いていく。
「そんなものを持っていたのか」
「外に出るときは持ち歩くようにしてます。街の子供達がケガをしていることもあるので」
それがセレスの優しさという所だろうか。
「痛まないですか?」
「この程度問題ない。むしろ」
レオンもまた至近距離にセレスがいるせいで気恥ずかしさを感じていた。
意気込んで魔獣を倒したのに傷を負ってしまったことに少し情けなさを覚える。
「はい、出来ました」
「上手いものだ。俺が軍に戻って遠征する際はセレスにもついてきて欲しくなるな」
二人は和やかに笑い、夜の花畑を眺めていく。
心地よい風も流れ始めた。
「さらに冷えたな。セレス大丈夫か?」
「レオン様から頂いた上着があるので……それでも少し冷えますね」
「なら」
レオンが突然セレスの肩を抱き、引き寄せた。
「刀を振ったおかげで体が熱くてな。俺の体は温かいだろう」
「は、はい……すごく」
肩を抱かれて密着する二人、しばし時が流れる。
レオンもまた素でこういうことをしたわけではない。
少しでもセレスを気を引くための行動だ。
(正直緊張する。嫌がられてはいないようだが、もっと押すべきか。くそっわからん)
今まで恋愛したことがないゆえにレオンはこの先のやり方が分からなかった。
皇子のゆえにこういうことを相談できる相手もいない。
自分でどうにかしていくしかないのだ。
(ひとまずセレスの表情を見てから考えよう。こっちを見ていたら抱きしめる。戸惑っていた時は現状維持のまま、帰ろうと言おう)
セレスの気持ちがまず第一。レオンはセレスの方を向いた。
「すぅ……すぅ……」
「寝てる……だと……」
想定外のことにレオンは唖然としてしまう。
そしてはぁとため息をついた。
「君は本当に思い通りにいかない女性だ。だからこそ愛おしい」
レオンはセレスを抱きかかえて、立ち上がる。
そのまま上手く、馬に乗ってハルモニア市に向かって走り出した。
驚くべきことにその間、セレスが目を覚ますことはなかった。
そして子爵家の屋敷の前。
「お帰りなさいませ殿下。セレスティア様が帰ってこないと騒ぎになっております。殿下が連れ出してなければ私兵を募って捜索に出る状況なのをご理解頂けているでしょうか」
「相変わらず嫌みな奴だな。良い気分が台無しになる」
「ヴィルヘルム様はともかく子爵閣下はやきもきしておりますので早くベッドに連れていってくださいませ。あと問題が発生したそうで、至急帝都に戻るようにと連絡が入りました。すぐに出発をしますのでご準備をお願いします」
淀みなく喋るディートリヒの姿にレオンはがくっと項垂れる。
やはり大帝国の皇子は忙しい、想い人との時間を作ることさえできなかった。
レオンは眠ったセレスを抱いたまま、セレスの部屋へと向かおうと歩き始めた。
途中で使用人すれ違うがレオンは気にせず、前へ進む。
(ところでセレスの部屋はどこだ。まぁこのままセレスが起きるまで抱きかかえるのも)
「殿下、セレス様の部屋はこちらです」
セレスの専属侍女であるリーゼが手招きをしていた。
この家でレオンが皇子であることを知るのはセレスの父、兄、執事長を除けばリーゼのみ。
他の使用人達は帝都からやってきた貴族の子息と思っていたのだ。
レオンハルト皇子がこんな所にいるなんて誰も言えなかったし、言うわけにもいかなかった。
「助かる」
「セレス様を宜しくお願いします!」
何か期待に満ちた目をしていたがレオンは気にしないことにした。
そのままセレスの部屋へ入り、ベッドの上へセレスを優しく置く。
(結局起きなかったな。起きて慌てふためくセレスを見たくもあったが……)
布団を被せて、セレスの額に手で触れ描き上げる。そのまま額に優しくキスをした。
「帝都でまた会おう。お休み、愛しのセレス……」
名残惜しい気持ちを残し、レオンは去って行った。




