042 みんなでアニメ視聴
ディートリヒが荷物馬車に8枚のイラストを載せていたらしい。
セレスも準備の良さにびっくりしていた。
子爵家、屋敷の中にも舞踏室はある。
回数は多くないが周囲の貴族を呼んでパーティを行う時に使われる。
【炎龍討伐記 〜復讐の炎とリボンの騎士〜】が描かれたイラストがボードに貼り付けれており、それを見るために椅子が並べられていた。
最前列にアルフレヒトとヴィルヘルムが座り。
後列には使用人達が座っていく。
「我々も見させてもらえるのですか!」
「帝国楽劇は貴族だけが見れるのに……」
使用人達も驚いているようだった。そんな様子にセレスは声かける。
「アニメは貴族、平民問わず楽しめるように作り上げていくつもりなの。だからみんな、楽しんで」
「アニメにはお嬢様の声が吹き込まれているんです! みなさん、耳をすませて聞きましょうね!」
「お嬢様の声!?」
「だからこの時期にお嬢様が帰省されたのか」
「よく分からなかったけど、楽しみになってきたかも」
「ちょっとリーゼ! もう!」
唯一アニメの存在を知っている侍女のリーゼが全員に説明を行った。
主人が出ると分かるなら見る目も変わるというもの。
セレスは後方のレオンの横に座る。
「よく考えれば全員身内なのですよね……。恥ずかしくなってきた」
「皆、セレスのことが好きなのだな。愛されているじゃないか」
「ハルモニア家では使用人も皆、家族ですから。レオン様も父の隣で無くて良かったのですか?」
始めレオンも最前列を案内されたが断っていた。ちなみに目の前のレオンが皇子であることを知っているのは限られたものしかいない。
大半がヴィルヘルムの知り合いの貴族という認識だった。
ちなみにアニマ・メドゥスの射程はこの場所でも十分届く距離である。
「後ろだからこそ皆の反応が見れるんだよ。それに100回以上見てるからな前にいるのもな」
「ですね。上映前なんて何十周したことか。声や音楽の吹き込みミス、イラストのブレ、アニマ・メドゥスの想定外の動き。目が充血するくらい見てたから……うぅ、思い出すと」
制作側ならではの悩みである。
決して楽な制作では無かったとレオンとセレスはしみじみ思う。
レオンはアニマ・メドゥスの魔法を発動し、イラストが光り輝き、中のキャラクター達が動き始める。
【炎龍討伐記 〜復讐の炎とリボンの騎士〜】の上映が子爵家内で開始された。
『はじめまして。アデライード・リヒテンシュタインです』
「お嬢様の声だ!」
「すごい、喋ってる!」
「地声とは違うけど……凜々しくて格好いい!」
使用人達の声が部屋中に響く。そのどれもがセレスを賞賛する声だった。
「うぅ……恥ずかしい」
セレスは顔を真っ赤にしてしまっていた。家族だから恥ずかしさもある。
あっという間の四十分。上映は終了した。
始めはセレスの声が出る度に騒ぎとなったり、火竜の姿に怯えたりと次第に静かになっていく。
皆、物語に入り込んでいるようだった。
そして上映が終わって使用人達は呆然としていた。
レオンは立ち上がり、ヴィルヘルムの横に座る。
「どうだヴィルヘルム」
「ええ、びっくりしました。完成度もそうですが、これは帝国の文化を変えそうですね」
「堅物のおまえがそう言うなら期待できそうだな」
「あとはプロモーション次第でしょう。殿下の監督、脚本の力。セレスの演者としての才能。知らないことばかりでしたね」
「ハルモニア卿はどうだ?」
「……。私は帝国楽劇を嗜まないので気取った言葉は言えません。ただ娘の声をたくさん聞けるのは素直に嬉しいですね。ところでステラとはいったい」
スタッフロールにはセレスの名前は無く、ステラという名前が付けられていた。
先ほどプリマステラの話があったので初聞きの驚きはなかったようだ。
「みんな【炎龍討伐記 〜復讐の炎とリボンの騎士〜】を見てくれてありがとう」
「お嬢様カッコ良かったです!」
「凄く面白かったです!」
「でもセレスティア様の名前がどこにも見当たらなかった」
セレスの声に使用人達が声を上げる。
「この作品の女性役はみんな私が演じていますが、私は本名を出さずにステラという芸名で活動する予定です。もしアニメが流行ったとしてもステラが私であることは誰にも話さないでください」
なぜという声が使用人から上がっていく。
「秘匿とすることで話題性が増す。ステラとは誰かというのが話題となってアニメがさらに注目されるようになる」
その理由を答えたのはヴィルヘルムだ。
帝国楽劇のトップスタァが誰もが知っている皇女ヨノエルだから尚更だ。
表舞台に出て、煌びやかなロードを歩く。
対してアニメは裏街道を進む。
そのトップであるプリマステラはステラという芸名を持つ正体不明の令嬢。
対として比較されることになる。
「ステラの正体がセレスであることを知るのはこの中のものだけとする。家族にバラさないように。子爵家からの厳命だ」
厳命と言われ、使用人全員が口を閉じる。
ここにいる面々は皆、古くから子爵家に仕えており、信用されている。
情報は漏らさないだろう。
上映会が終わり、使用人達は持ち場に戻っていく。
「あの……」
声をかけてきたのはセレスの侍女であるリーゼだ。
「お嬢様からアニメのキャラクターのプロマイドがあると聞いたんですが購入はできないのでしょうか」
レオンに聞けなかったのでディートリヒに聞いたようだ。
「第一回上映会で完売してしまったので、再販しない限りは入手できません」
「そうですか……。あるなら貯金をはたいて買おうと思ったのに」
そんな様子にレオンが近づいてくる。
「プロマイド以外に希望するものはあるか? 参考にしたい」
「エルヴィンとアデライードの声が良かったので、目覚まし時計とか欲しいです! アデライードの声で目が覚めれば……」
「それなら私がアデライードの声で起こしてあげたのに」
「お嬢様が私より先に起きることはないのでは……。屋敷ではいつも寝坊して」
「ちょ! ここでそれは」
「セレス」
その言葉は父であるアルフレヒトであった。
「子爵家たるもの生活習慣をおろそかにするなと伝えていたはずだが」
「お、お父様。それは」
「少し説教が必要だな。今から執務室に来なさい」
「いやあああ、ごめんなさーい!」




