041 プレゼンテーション
裏で話を聞いていたのかレオンが現れた。変装を解き、金色の髪と金色の瞳を表に出し、ずかずかとアルフレヒトの方へ行く。
アルフレヒトは立ち上がり、礼をした。
「セレスの父、アルフレヒトでございます。壮健な殿下にお会いできたこと光栄に思います。ヴィルヘルムも随分お世話になったようで」
「ハルモニア卿。こちらこそ光栄だ。ヴィルヘルムについて、本人は世話したと思っているようだが」
「ノーコメントとさせて頂きます」
ヴィルヘルムはそっぽを向く。
(ディートリヒさんがあれだけ苦労してる所を見るとお兄様もきっと貴族院では振り回されたんだろうなぁ。真面目で苦労人だから)
セレスは二人のやりとりを察してしまい、微笑ましくも見守る。
「セレス……、セレスティア・ハルモニアはアニメプロジェクトの主演にして大事な存在だ。セレスの意思を尊重しプリマステラを目指すなら俺は援助を惜しまない」
「レオン様」
「ハルモニア卿。まずアニメとは何かについてだが」
レオンはアルフレヒトにアニメプロジェクトの詳細を伝えた。
セレスとは偶然出会い、その声に魅せられて誘い、第一回上映会も大好評で幕を閉じたことも伝える。
「帝国楽劇に準する興業ですか。規模を考えると相当大きなプロジェクトですな」
「セレスが主演……。皇女ヨノエル様に匹敵するということですか」
「まだそこまでは……」
「セレスは姉上に追いつくと思っている。そういう存在になってもらいたい。トップスタァに対抗できるのはプリマステラだけだ」
「レオン様、恐れ多いです!」
「セレスなら大丈夫さ。俺もジュリアンも無理だとは思っていないはずだ」
「ふむ」
アルフレヒトはレオンとセレスの様子を見て、少し考えていた。
子爵領を一代でさらに大きくした男は思考を張り巡らせる。
一般的にアニメの成功の有無に関わらず、皇族とコネクションを持てることは非常に大きい。
セレスとレオンが仲が良いことは見て明らかであった。
(鉄血の獅子の噂は所詮は噂か。もしくは我が娘にだけ獅子の表情が和らぐのか)
アルフレヒトは目を瞑り、決断をする。
「子爵家は大帝国の一員、殿下の命であれば我が家は従いましょう。セレスが反対ならともかく、プリマステラとやらを目指すのであれば子爵家が反対する理由もない。ただ」
アルフレヒトは横に並ぶレオンとセレスを見る。
「セレスは今、19歳です。アニメプロジェクトはある程度結果が出るまで2,3年はかかると思います。成功で軌道に乗ったとしても、失敗に終わったとしてもセレスの嫁ぎ先を考えねばなりません」
貴族令嬢において結婚は絶対的な所がある。
親としては娘が独り身で居続けることが心配でならないのだろう。
「そうだな。そうなると……」
レオンは考える。
「身元を証明できる下級貴族に嫁ぐこと……」
「セレスが誰かの妻となる……? それなら」
レオンは今日一番の笑顔を見せた。
「俺がセレスをもらおうか」
「え」
セレスはつぶやき、レオンを除く全員の目を点にした。
「俺には婚約者もいないし、ちょうど良いじゃないか」
「いないのではなく断っているのです。殿下への縁談は山のようにあるのですよ」
いつの間にか後ろに現れたディートリヒに補足を言われる。
次期皇帝であるレオンの婚約者として相応しいのは他国の王族や公爵令嬢くらいなもの。
条件付きで侯爵令嬢、辺境伯位の令嬢が上げられる。
「皇族は忙しいのだ。婚約者候補と茶を飲んでいる時間などない」
「仕事ほったらかしてこの場にいる理由を教えてほしいものです」
ディートリヒはため息をつく。
(レオン様にはたくさん縁談が……。そうよね。これだけの地位で美男子だものね当然だわ。でもレオン様はステラのことが……)
「ですが」
ディートリヒは続ける。
「帝国楽劇のトップスタァの中にはかつて子爵位の令嬢がいました。彼女はその功績を評されて、侯爵位を授かったと聞きます」
「私も聞いたことがあります。ヨノエル様の三大前のトップスタァの方ですよね」
「さすがセレスティア様。その方は皇族と結婚なされたという逸話があるのです。つまり、アニメが帝国楽劇並に流行り、プリマステラがトップスタァと同格となればセレスティア様に侯爵位を授けられる可能性もあります」
(そうすればレオン様の婚約者になれる……?)
「セレスが侯爵位を授けられる可能性はどれくらいあるのですか」
アルフレヒトの質問にディートリヒは肩をすくめ、答える。
「アニメが数百年の歴史を持つ帝国楽劇に匹敵するほどに育つ必要性があるのでかなり低いと言えるでしょう」
(そうよね。まだ一部の人しか知らないわけだし、第二回上映会が失敗したらプリマステラなんて到底無理……。頑張らないと)
セレスは淡い期待を抱いてしまったが現実的な状況を知り、頭を振ってその想いを振り切る。
「あの……」
すごすご手を挙げたのはヴィルヘルムだった。
「帝国楽劇は何度か見たことがあるのですが、アニメは見たことがないので正直想像がつきません。本当に帝国楽劇に匹敵する魅力があるのですか」
見た人は皆、その衝撃に驚いていたがやはり見なければ想像できないもの。
セレスは歯がゆく思う。
そんな状況にレオンは平然とした様子をしていた。
「ディートリヒ」
「もちろん、準備は完了しております。【炎龍討伐記 〜復讐の炎とリボンの騎士〜】のイラストを持ってきました。舞踏室で準備しておりますので皆様、ご移動くださいませ」
「いつの間に!?」




