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039 ハルモニア子爵家

「……」

「……」


 セレスとレオンが馬車にバラバラに戻ってきたが、二人は顔を合わせるも気まずそうな雰囲気を持つ。


「殿下と何かあったんですか?」

「セレスティア様と何かあったのですか?」


「何もない!」「何も無い!」


 両者同じことを従者に言う形となる。


「ごほん、ハルモニアには夕方までには着くと思います。急ぎましょうか」

「あ、ああ。宜しく頼む」


 二人とも若干ぎくしゃくしながらも一同は宿場町クロイツヴェークを出発した。

 休憩を挟みつつ、夕方に入ろうとした頃。

 ハルモニア市が視界に見えてきた。見知った光景に自然と笑みが零れてくる。

 馬車はハルモニア市の大通りを通る。


「子爵家の紋章が書かれた馬車……セレスティア様が帰って来たんじゃない?」

「この時期に帰ってくるのは珍しい」

「セレスティア様、おかえりなさーい!」


 子爵家の馬車に気づき、ハルモニア市の住民達は次々と言葉をかけてくる。

 セレスも馬車の窓を開けて、ゆっくりと手を振って応えていた。


 賑やかな大通りを通過し、一番奥にあるハルモニア子爵家の屋敷へと到達する。

 馬車の扉が開き、セレスが出ようとする。外にいたレオンが手を差し出してきた。

 レオンの手を掴んで良いものか一瞬、躊躇したがここにいるのは変装した放蕩貴族。その設定を守り、手を握る。


「おかえりなさいませお嬢様」

「ローデ。ただいま戻りました」


 門の前ではハルモニア家、執事長のローデが待っていた。


「正面玄関の前で皆、待っております。そして……」


 ローデはレオンを見る。


「ようこそおいで下さいました」

「ああ、少しだけ世話になる」


 あえて詳細は語らない。レオンの変装であることをハルモニア家は知っているようだ。

 セレスは一息つき、正面玄関の方へいく。


 執事にメイド。セレスに関連するもの達ばかり。そして玄関前には貴族服に身を包む、セレスと同じ髪色の男性が立っていた。


「ヴィルヘルムお兄様!」

「ああ、セレス。お帰り。半年ぶりくらいか。いろいろあったようだが元気そうで良かった」

「いろいろご迷惑をおかけしました。お父様は?」

「父上も中にいる。セレスが来るのをずっと待っていたぞ」

「びくっ」


 その言葉にセレスの額から冷や汗が出る。

 ハルモニア家の主、アルブレヒト・ハルモニア。厳格な性格をしており、よく叱られていたのだ。

 今回も叱られるのだろうなとセレスは落ち込む。


「母上が亡くなって十年。父上はセレスのことが心配でたまらないんだよ」

「分かってはいますが……もう少し優しく頂けると連絡もしやすいんですが」


 はぁとセレスはため息をついた。


「そして」


 ヴィルヘルムはニヤニヤと笑うレオンの姿を見る。


「あなたはほんと私を困らせるのが好きですね。卒業で会うこともないと思いましたがまさか……セレスに目をつけるとは」

「おまえの妹と聞いて納得した所はあるぞ。久しぶりだなヴィルヘルム」

「え! レオン様とお兄様は面識があるのですか」


 セレスは心底びっくりしていた。

 レオンは皇子でヴィルヘルムは子爵家とはいえ、ごく普通の貴族令息だ。接点など想像もしてなかった。


「僕と殿下は同い年で貴族院で一緒だった。ただの同級生だよ」

「連れないな。俺は卒業の時に側近にならないかって誘ったくらいの仲じゃないか。家を継ぐからと断られてしまったが」

「え~~! 年齢、そういえば。でも全然知りませんでした」

「ヴィルヘルムは優秀な男だったからな。アルタイルとの面識もあったんだ」


 レオンが口笛を吹くと、どこからかシロハヤブサのアルタイルがやってくる。

 そしてレオンとヴィルヘルムヒを交互に見ていた。


「ぞっとしましたよ。いきなりアルタイルが現れて、手紙を見たらセレスの帰省に殿下がついてくるなんて言うから。セレス、いったいどこで殿下と知り合い。何をしたんだ。正直婚約破棄以上に驚いたぞ。父上も早く話を聞きたいと言っていたからな」

「また怒られる話題が増えた……」


 セレスはがっくりと項垂れる。

 ヴィルヘルムはレオンの後ろにいたディートリヒに声をかけた。


「ディートリヒ師、お久しぶりです」

「ええ、鍛錬は続けているようですね。あなたなら十年もすれば中伝の域に達するでしょう」

「ありがとうございます。相変わらず、殿下に言いように使われてるんですね」

「はい。使われています。貴族院時代はあなたがいたからまだ楽だったのですが」


 二人は笑い合う。


「おい、俺が悪いように言うんじゃない」


 この感じ、貴族院時代も大変だったのだろう。

 そもそも一貴族令嬢の帰省についていく皇子などそういるものではない。

 さらに若い時代は推してしかるべきなのかもしれない。


 屋敷の中に入ったセレス達、ヴィルヘルムはレオンの方に視線を向ける。


「屋敷を案内させます。せっかくですから見物をなさってください」

「俺も子爵に挨拶したいんだが」

「まずは家族会議が先です。ここにおられるのがレオンハルト殿下ならば父上も同席させたと思いますが放蕩貴族のハルト様を名乗るなら後になさってください」


「そうか。変装したのが返ってまずかったか。ではセレス後でな」

「あああ……、レオン様が向こうへ。お兄様、私も少し休憩してから」

「今すぐ父上のいる執務室の来いとのことだ」

「はぁい……」


 観念し、セレスは父親であるアルフレヒトの執務室へと向かった。


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