036 魔獣討伐
「大丈夫か?」
「ありがとうございます」
しっかりとした腕に抱かれ、力強さと温かみに嬉しくなる。
レオンはセレスを抱えて、椅子へと下ろした。
「殿下」
ディートリヒが馬車の窓の外から声をかけてくる。
「おそらく手配魔獣でしょう。街道沿いに現れたとギルドから報告にあがっています」
「冒険者達の仕事を奪うのはやぶさかだが、仕方ないな」
街道に時より現れる魔物達。第一回のアニメでもあったようにこの世に魔獣が多く潜んでいる。
遠い場所に出没する魔獣は騎士団遠征部隊が任務にあたるが、帝都近郊や即時対応が求められる場合は平民による民間部隊、冒険者ギルドが対応する。
いろんなしがらみはあるものの一応協力体制を取っていた。
馬車の前には狼型の魔獣であるウルフが数体。それを指揮する大型のグレートウルフが待ち構えていた。
これだけ大きい群れだとそれなりに戦闘経験をこなしたものでなければ対処は難しい。
「殿下とセレスティア様は馬車で待機くださいませ」
ディートリヒは指示を出し、馬から降りる。
そして腰に下げた刀に手をやる。
「ディートリヒさん一人で対応されるのですか! ウチの護衛も」
「不要でございます。むしろ、荷物馬車を見ていてくださる方がありがたいです」
「でも……」
「ディートリヒが心配か。ならば俺も出るとしよう」
「レオン様!?」
レオンが馬車の外を出て、ディートリヒの横に並ぶ。
「セレスがどうしてもおまえが心配だと言うから」
「殿下の立場を考えてくださらないと……それを聞くよう方ならここにはいませんね。セレスティア様に良いところを見せたいだけでしょう」
ディートリヒは呆れたように息を吐く。
ディートリヒ、そしてレオンもまた腰に携えた刀に手をやる。
「どちらが先にグレートウルフを討つか。今日は勝たせてもらうぞ」
(大丈夫なのかしら。でもあの二人)
レオンとディートリヒ。二人の戦士がウルフ達の前に立つ。ウルフ達は強く威嚇をしていた。
まるでレオン達が圧倒的な強者で怯えてるかのようだ。
(何だろう絶対負ける気がしないわ)
レオンは抜刀し、円を描くように刀を振るう。
地面に落ちた葉っぱが舞い上がり、まるで落ち葉の中で舞っているようだった。
「一の太刀『落葉』」
抜刀の余波で刀の射程は伸び、あっという間にウルフの群れは蹴散らされていく。
ディートリヒが動く。
(消えた!?)
セレスの目からそのように見えた。
気づけばディートリヒは神速の動きでウルフの群れを蹴散らしていた。
抜刀をせず、鞘に刀を入れたまま打撃でウルフを倒していく。
「がああああああアッっ!」
群れのボスであるグレートウルフがレオンとディートリヒに向けて飛び込んでくる。
大型の魔獣の気迫にセレスは怯えてしまいそうだった。しかしすぐ側にいる二人には動揺が見られない。
そのまま二人は抜刀によりグレートウルフの体を吹き飛ばす。
「ちっ、おまえの方が早かったな」
「以前より遅くなっていますね。休みの日も刀ではなく筆を振ってるからですよ」
こんな軽口を叩き合う。二人の信頼関係を証だろう。
「止めをさせディートリヒ」
「承知しました」
ディートリヒは刀に手をやる。
大きく息を吸い、その筋を極めた者が行えるオーラのような波動を感じていた。
ディートリヒは動き、刀を振った。
そのあまりに鮮やかな一太刀。見惚れてしまうように美しかった。
ディートリヒは地に足をつけ、刀を鞘に戻す。
その瞬間、グレートウルフ達はバタリと地面に屈した
「一の太刀、奥義【枯葉】」
あまりの実力だった。レオンも相当な実力者だが、ディートリヒはさらに遥か上を実力を持っていた。
それこそまさに……。
「ディートリヒさんはもしや剣聖なのですか!」
セレスの言葉にレオンもディートリヒも驚いたような仕草をみせた。
「本当に君は令嬢らしくない知識を持つな」
「その通りでございます。若輩の身ながら【暁】の剣聖の名を頂いております」
(だからレオン様の護衛が一人だけなんだわ。剣聖は一騎当千の実力をもつ。レオン様も相当な実力者だけど」
「言っておくがディートリヒが異常なだけで俺も弱くはないぞ」
ディートリヒが目立ちすぎて焦ったのかレオンは前に出て、アピールをした。そんな様子にセレスはくすりと笑う。
「レオン様もすごく強くてカッコ良かったです。レオン様はなんでもできるのですね」
「そ、そうか。ふふっ」
褒められレオンは嬉しそうに笑う。セレスはディートリヒに視線を向けた。
「星煌一刀流でしたか。剣聖になるには非常に難しい鍛錬が必要と聞きました」
「セレスティア様は博識でございますね。私は運が良かっただけでございます」
「騎士団ならまだしも、貴族令嬢が流派を知っているとは……」
「兄が貴族院時代に星煌一刀流を納めたと聞いたので知っていただけですよ。初伝を受け継ぐので精一杯とか」
「初伝もかなり難しいのでセレスティア様のお兄様は優秀な方でございますね」
「そうか……そういえばそうだったな」
「レオン様?」
レオンは何かを思い出したような仕草を見せた。セレスは気になったが特に追求を避ける。
「ディートリヒ。先に走って宿場町のギルドに報告しろ」
「承知しました。しかし殿下の護衛はいかがしましょう」
「不要だ。俺の実力は分かっているだろう」
「そう言って何度か死にそうになった記憶がありますが……。承知しました。報告の後すぐに戻ります。セレスティア様、殿下をよろしくお願いします」
「は、はぁ」
ディートリヒは馬に乗り、すぐさま走り出してしまった。
「あいつはすました顔で本当に俺のことを舐めているな」
「レオン様とディートリヒさんは本当に仲良しなのですね」
「付き合いは長い。アイツの家が没落する前からの付き合いだからな」
ディートリヒの詳しい話をまだセレスは聞いていない。
皇子の側近なので貴族なのは間違いないが、暁の剣聖という実力者でセレスのような若い子爵令嬢にも丁寧に接する振る舞い。
セレスから見ても不思議な人物なのは間違いない
「護衛が必要になったとき、ディートリヒを送ることもあるだろう。その時は安心するといい。実力は本物だ」
「はい、ありがとうございます」
「それでは行こうか。日が暮れる前に街へ行かないとな」
レオンが馬に乗り、周囲を警戒しながらセレス達はハルモニア市に向けて走った。
そして夕方、宿場町クロイツヴェークに到着した。




