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034 領地へ帰省

 元を正せばそれは昨日の出来事だった。

 第一回上映会は無事完了。騎士団の慰労会は結果的には大成功となる。

 気持ちよくハルモニア家、帝都屋敷に戻ったセレス。

 レオンが睨みを効かせたおかげで元婚約者ロデリックから婚約破棄の手続きもスムーズに届いた。

 これでセレスは完全にロデリックと縁を切ることができた。


(アニメも第二回のプロジェクトが決まったし、良いことづくめだわ)


 てっきり元親友のオデットあたりから何か言われることも予想していたが、皇立楽劇団の活動が忙しいのかめっきり連絡も減っていた。


 今、セレスは良い話しかなくて、幸せな気分であった。

 そんな時こそ侍女のリーゼから美味しいココアを入れてもらって、第二回に備えてロマンス作品に触れていかなければ……そう考えていた、その時だった。


「お嬢様!」


 侍女のリーゼが部屋へ飛び込んできた。


「どうしたのリーゼ。慌てちゃだめよ。もっと穏やかにいないと」

「は、はぁ」

「手紙でも届いたのかしら」


 例え皇族から手紙だったとしてもセレスは動じないだろう。

 レオンとは仲を深めていて、今週中に打ち合わせということで会う約束もしている。

 第一回アニメ上映会を通じて皇女ヨノエルからお茶の誘いとか無いだろうかと淡い期待もしている。

 なので期待はしても驚きはない。

 セレスに脅かすものはない……はずだった。


「はい、お嬢様宛に手紙が。速達です」

「レオン様? もしかしたらヨノエル様なんてことも!」

「いえ、皇族ではありません。差出人は旦那様です」

「え」


 その瞬間、何かを察したのかセレスの額から汗が出る。


「本来はお嬢様に封をした状態でお見せするべきですが、この殴り書きのような手紙の時は十中八九」

「そうね。リーゼならよく分かってるもんね……。それで何て書いてあったの。要約して」

 リーゼはこほんと咳をしてつぶやいた。


「婚約破棄の件、説明しに戻ってこい。あと皇子殿下が関わってる件も含めて、ハルモニア市に至急戻るようにとのことです」

「うわあああっっ! やっぱりその件だったのね!」


「言ったじゃないですか。旦那様に報告した方がいいって。絶対バレると」

「婚約破棄は仕方ないにしても何でレオン様の件まで!? アニメプロジェクトはハルモニア市にいるお父様達にはわからないはずなのに! まさかリーゼ!」

「私ではないです。平民の私がそんなこと手紙にかけるわけないじゃないですか」


 皇子が関係している話など極秘も極秘。手紙に書けるものではなかった。

 皇子の件は別口で漏れたと言って良いだろう。


「リーゼ、明日にはハルモニア市へ発つわ。準備をお願い」

「承知しました」

「あとは例のベルを用意してもらえる? 筆と手紙もお願いね」


 リーゼに用意してもらった星銀製のベルを手にする。星銀とは星の魔力が込められていると言われている特殊な銀であり、皇族のみが扱えるものだった。

 これはレオンから渡された特製のベルであるモノを呼び出すために使うものだった。

 始めはセレスも遠慮したが、強引に渡されることになる。


 セレスは星銀のベルを振った。

 とても綺麗な高音が響く。

 そして五分ほどして……。


 窓の外に何かがやってきた。セレスは屋敷の窓を開く。


「キュイ!」

「アルタイル! 本当に来てくれた」


 そう。レオンが飼っているシロハヤブサのアルタイルである。

 伝令役としてこの星銀のベルを鳴らすことでアルタイルを呼び出すことができるのだ。


「レオン様にこれをお願いします」


 アルタイルの足に手紙を結びつける。そして。


「あなたのために用意したものだから食べて」

「キューーーイ!」


 上等な鶏肉の欠片をアルタイルに与えた。

 これはアルタイルの機嫌を取るチップのようなもので、レオンからアドバイスを受けて、用意させていたのだ。

 まさかにこんなに早く使うことになるとは思っていなかったが。


 ご機嫌のアルタイルは部屋から飛び立ち、皇城の方に向けて飛んでいってしまった。


(1週間ほどハルモニア市の方へ行きます。父に報告をしなければならなくなりました)


 帝都を離れることをレオンに伝えるためにアルタイルに文を授けた。

 しっかり父に説明し、帝都に戻ってこよう。そう思っていた翌日、朝。

 出発しようと屋敷を出るとレオンが和かな顔で待ち構えていた。


「なぜレオン様がいるんですか!」

「ああ、俺もハルモニア市に行きたいと思っていたんだ。同行させてくれ」


「え! その……皇族のお仕事は大丈夫なんですか」

「ディートリヒ。問題ないな」

「ええ」


(ディートリヒさんの顔が死んでる!?)


 後ろでディートリヒが関係各所と調整のために人に命じている姿が見えた。

 皇子であるレオンが行きたいという言葉、セレスとしては駄目といえるはずもない。


 さっそく出発することになった。


 子爵家のセレス専用の馬車が進み、その横をレオンとディートリヒが馬に乗って追走する。

 後ろには荷物馬車があり、帝都の土産やセレスの私物などが乗せられて、侍女のリーゼもその中で待機している。


(お父様にレオン様のことなんて説明しよう。レオン様がいるおかげでアニメのことは納得してもらえると思うけど別の問題が出そうだわ)


 そもそも地方都市の子爵家が皇族と絡むことはそうあるわけではない。

 いきなりレオンを連れていったりしたら子爵家は大パニックになるだろう。


「セレス。次の休憩まで馬車に乗っていいか? 話がしたい」


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