030 公開:火竜討伐記~復讐の焔とリボンの騎士~⑤
:そこは帝都の王宮。 美しく整えられた庭園。 噴水、花壇、白い石畳で作られていた。
『俺は火竜討伐の功績により帝都に呼ばれていた。あの戦いの後、村の復興が終わってすぐアデライードは帝都に戻ってしまった。また会うことを約束したのだが会えるだろうか』
:騎士の正装で庭園を歩いているエルヴィンの胸元には小さな包み。
『アデライードはあの戦いでリボンを無くしてしまったから……新しいのを用意したんだ』
:庭園のベンチの後ろに一人女性がいた。髪に宝石の飾りを付け、豪華なドレスに身を包む。
『……エルヴィン』
:女性が振り返る。エルヴィンはその姿を見て見開く。
『アデライード……!? その格好』
『ごめんなさい。あなたに嘘をついていました』
:エルヴィンは息を飲む。本当は分かっていた。
『私の本当の名はアデライード・フォン・ルヒトフェルス。この帝国の皇女です』
『皇女だって……そんな』
『リヒテンシュタイン伯爵令嬢というのは母の生家です。父の命令で皇女としてではなく、一人の騎士とし
て、辺境を見てこいと言われました』
『そうだったのか。あはは……、それで火竜と対峙ってとんだ姫様だ』
『あのリボンを送ってくれたエルヴィンに会いたかったのは事実ですよ。あの戦いで無くしてしまいましたが』
『あんたに渡したいものがある』
:エルヴィンが包みを開く。 中から深紅の色の美しいリボン。
『帝都に来たらあんたに会えると思って、渡そうと思っていたんだ』
『エルヴィン』
『でも皇女のあんたにこんな安物のリボン……』
:アデライードはエルヴィンの手からリボンを取る。
『安物だなんて。これはあなたの気持ちです。何よりも大切なもの』
:アデライードはリボンを髪に結ぼうとする。 でもティアラが邪魔で結べない。
:アデライードはティアラを外す。
『皇女の印じゃないのか』
『今はただのアデライードですから』
アデライードの赤髪に 深青リボンが風に揺れる。
『どう? 似合いますか』
『……ああ。よく似合っている』
アデライードはエルヴィンの手を取る。
『復讐は終わりましたがエルヴィンはこれからどうするのです?』
『暇になってしまったからな。正直困っている』
『だったらわたくしだけの騎士になってもらえませんか』
『俺は平民だぞ』
『わたくしはエルヴィンにお願いしているのです。あなたに守ってほしい』
:エルヴィンはアデライードに跪く
『ああ、俺の復讐はあの時に終わった。火竜を葬ったこの手、皇女殿下を生涯守ると誓う』
:宮殿のバルコニーから帝都を見下ろす二人。並んで立っていた。
: アデライードの髪に深青のリボン。 ティアラではなくリボンだ。
:二人の手はいつまでも繋がれていた。
画面は真っ暗となる。
『火竜討伐記~復讐の焔とリボンの騎士~』
『完』
グランドホールに明かりが灯る。未だ、全員が呆然としていた。
マイクを持ったレオンが立ち上がる。
「もう話していいぞ」
その瞬間。
「おおおおっっ! 火竜戦マジですごかった!」
「アデライードが皇族!? お姫様じゃないか」
「エルヴィンもすごくカッコ良かった!」
溢れんばかりの歓声がホールの中を響き渡る。騎士達が皆、驚き、騒いでいた。
その間に8枚目のイラストは取り外され、次のイラストが表示される。実際の所はイラストではなく真っ黒な一枚絵が表示されていた。
レオンはアニマ・メドゥスを発動。真っ黒なイラストが光る。
「さて、ここからは今回のアニメの制作に協力してくれたスタッフを紹介する。歓談しながら画面を見てくれ」
レオンの言葉に騎士達はアニメの感想を言い合っていた。しかし良い感想だけではない。
「ふん、皇女殿下が火竜の所に行くなどありえん。一歩間違えれば火竜のブレスで黒コゲだ。そんなことになったら生き残っても騎士団みんな処刑じゃわい。リアリティというものがない作品じゃな」
「まぁ出来すぎな気がするよなぁ。脚本作った人は戦場に行ったことないんじゃないか」
そんな声がちらほらと出始める。暗転した画面からこのような表示が浮かんだ。
【監督・演出・脚本:レオンハルト・フォン・シュテルネンライヒ・アーデルライト】
「殿下が脚本!?」
「総責任者だけじゃないのか!」
「おまえ、今殿下の脚本の悪口言わなかったか」
「い、い、い言ってないっ!」
この瞬間、全員が脚本に対する不満を口にできなくなった。
悪口を言ってしまったもの冷や汗を出して黙り込む。
(出来すぎというのは分かっている。戦場に行ったことない扱いは腹が立つが)
どんな物語も枠がある以上ある程度のブラッシュ化は必要。レオンも何度もジュリアンと話をして脚本を直していた。
リアリティを出し過ぎると迫力が無くなるし、あまりにもなさ過ぎると陳腐に見えてしまう。
今回、アデライードを皇族という設定にしたのはレオンが現場主義であること。本当の皇女、ヨノエルが破天荒で本当にそういうことをやりかねないと皆が知っているからに他ならない。
さすがにあの性格そのままの皇女には出来なかったが。
「さすが殿下、文武両道。お見事です」
「殿下にこのような才能があるなんて恐れ入った」
「本当に面白いお話でした!」
ここからレオンを賛美する声しか上がらない。レオンもこうなると分かっているので次に紹介へ話を進めた。
【キャラデザイン:オスカー・ヴィンターフェルト】
「おおおっ!」
ここでオスカーの名前が出て、全員の注目を浴びる。
オスカーは平然とした様子で前を向いていた。
「今回、このアニメの作画は全てオスカー卿が行ってくれた。エルヴィンもアデライードも火竜も全てオスカーの作画だ。アニマ・メドゥスで動かす前の絵のことだが、あれは絵画ではなく、イラストと呼ぶ。皆も覚えておくように」
レオンの言葉から次々とお礼の言葉がオスカーの方から投げかけられる。
「素晴らしい絵画でした!」
「火竜の迫力、本当に凄かったです。本当にいるみたいで」
「オスカー侯爵様は確か二十年前に絵画界で受賞されてましたよね。見たことあります」
「アデレートの絵画、本当に美しくて」
オスカーを賞賛する声、それに対してオスカーの重い口は開いた。
「絵画ではなくイラストだと殿下は言っただろう」
その重厚な声がホールに響く。
「聞こえなかったのか」
全員が黙り込む。侯爵に言われてしまえば騎士達が静まらないわけもない。
まるでお通夜のようになってしまった。
レオンがごほんと流れを変えるようにわざとらしく咳をする。
「では次のメンバーを紹介する」




