028 公開:火竜討伐記~復讐の焔とリボンの騎士~③
そのまま4枚目、5枚目とアニメの話は続いていく。
4枚目では村人達との交流が描かれた。貴族のアデライードが慣れない村の仕事に四苦八苦。エルヴィンに助けられる始末。
さらには水浴びをしている所をエルヴィンに見られてしまい、大騒ぎになってしまった。
夜は軽やかな祭りが開かれて、着衣を変えたアデライードの姿にエルヴィンは見惚れる。
村の子供達とお喋りをしながら、場面は5枚目のエルヴィンの過去へと話が進む。
5枚目は打って変わって重いBGMが流れ始めていた。普通の少年だったエルヴィンは家族や友人達と楽しく暮らしていた。
しかし、火竜の襲撃によって全てを焼かれてしまう。
強くなろうと決意したエルヴィンは火竜への復讐を誓う。
「ぐすっ……」
「気持ち分かるぜ……」
騎士達には感情移入して泣いている者達も多かった。
遠征部隊の平民の騎士の中にはエルヴィンと同じように故郷を魔物によって被害を受けた者もいる。
そういう意味でのリアリティを騎士達は深く感じていた。これはレオンが現場へ行き、騎士達から話を聞き続けた結果だろう。それを上手くエンタテインメント化している。
(感触は上々のようだな)
騎士達を近くで見ているレオンハルトはにこりと笑う。
(これは本当に凄いことになるかもしれん)
初めてアニマ・メドゥスを使ってアニメを作ろうと思った時、やることは本当に山積みであった。
運命の人、ステラをモチーフにした物語をやりたかったが時期尚早。
いくつかをクリアしたものの、やはり一番は肝である絵であった。
世間に出回っている絵画は写実的すぎて、感情移入がしにくい。
レオンの脚本に合う絵ではなかったのだ。そんな時に変わった絵を描いて絵画界から追放された男の名を知った。
レオンはその男、オスカーのイラストを見て全てをその男に捧げると決めたのである。
(まさかここまで職人気質の頑固者とは思わなかった。俺が皇子でなければもっと大変だっただろうな)
次に苦慮したのは声である。
帝国貴族全員を徴収してオーディションでもやろうかと思ってきた矢先、新年の挨拶に来たベルモント伯爵の家族の中にヒーローに相応しい声を持つ青年がいたのだ。
(まぁジュリアンは苦労しなかったな。いざとなれば圧をかければ言うこと聞かせられたし)
だが女性の声は大変だった。ヒロインの声だけは本当に妥協したくなかったからだ。
どのように選定するか悩み、そして気晴らしで時々サボりに行く丘の木の上で眠りこけていたら……。
(そんな人いるわけないじゃない! 私の声なんて……誰も好きになってくれない)
ステラの声に会えた気がした。セレスのあの声は本当に運命の出会いではないかと思っている。レオンは当時のことをそう考える。
4枚目、5枚目のアデライードのシーンをかなり多くしている。だからか騎士達の目の輝きが違う。
やはりオスカー卿のイラストにセレスの甘く、高く、響く声が非常に合うと確信していたのだ。
そしてもう一つ素晴らしいのはBGMだ。一つ一つの楽器の音が組み合わさり無限の可能性を生み出している。
(リディアの存在も大きい。この才能を埋もれさせるとは本当に知らないことばかりだな)
(セレスもジュリアンもオスカー卿もリディアも天才だ。俺が出来ることは彼らを活かすことのみ)
笑うレオンだったが、額から汗を流しており、息使いもかなり荒い。
ここ最近睡眠時間はかなり少なく、夜遅くまで調整を行っていた。
それだけではなく通常通りの皇族の責務も行っていたためレオンは相当に疲弊していた。
そしてアニマ・メドゥスの最大効果時間である5分の発動。イラストの拡大投影魔法までレオンが行っている。
魔力に自信があったとしても少し揺らぎが見えてもおかしくはなかった。
(誰が汗くらいは拭いてほしいものだが……ディートリヒを別の仕事に行かせたのは失敗だったか)
気配りが出来、優秀な側近であるティートリヒを深く信頼しているがなまじレオンが何でも自分ででき、ディートリヒもまた優秀なため別の仕事をやらしているのが現状だった。
(あと3枚。終われば良い。我慢なら慣れている)
覚悟を決めようとしたその時だった。額の汗、ゆっくりと拭われたのだ。
(誰だ……。ディートリヒか。いるはずがない。このアニメに目を奪われてる中、俺の所に来る人など)
「レオン様、お顔が辛そうです。お飲み物をどうぞ。何かできることありますか?」
「セレス!? どうしてここに。向こうのテーブルでアニメを見ていたんじゃ」
「私の仕事はアニメプロジェクトを成功させることです。だからレオン様のお手伝いに来ました」
「……」
レオンは感銘を受けていた。皇子という立場、守れることは多いがその立場としては矢面に立つことがほとんどだ。
心配をするのは自分の役目で皇子たるもの心配などされてはならない。そう信じていた。
だけど一人の人間としては心配はされたいし、助けて欲しいとも考える。
だからこそ若い頃に死を彷徨った時、ステラに助けてもらった時のことはいつまでも心に残っているのだ。
セレスに汗を拭ってもらい、飲み物を飲ませてもらったことでさらに気合いが入った。
(セレス。君は凄い人だな。リディアを連れてきたのも君だったか。本当に困った時にいつも側にいてくれる……。君の存在は大きな力となる)
自分の美貌によってくる女性ばかりなのにセレスはそれと違った視点でレオンに接してくれる。博識で自分の隣に見劣りのしない美しい女性。
レオンはセレスを人間性としても好ましく思っていた。
「他にやることはありますか」
「ああ、もう大丈夫だ。でも最後の8枚目が発動するまで側にいてもらえないか。君がいると心強い」
「はい、もちろんです。ごほん」
セレスが少し咳払いして、レオンの耳元で声をあげる。
「レオン様、ファイトです。ステラがついてますから」
「っ!」
その声にやる気が漲る気がした。6枚目のイラストにアニマ・メドゥスが発動する。




