026 公開:火竜討伐記~復讐の焔とリボンの騎士~①
20時定刻。
全員が着席を促されて、司会進行を行う男性が前に立つ。
「いよいよですね」
「……」
「ジュリアン君緊張してない? あがり症は知ってたけど今から演じるわけじゃないのよ」
「わ、分かってるけどど、ど、どうしても緊張して」
(これは確かに帝国楽劇に出演するのは無理よね。でも緊張する気持ちは分かる気がする)
今から演じるわけではないのにセレス達もまた緊張してしまっていた。
『さてここからは余興の時間となります。今回は特別にレオンハルト皇子殿下が用意してくださりました。レオンハルト殿下お願い致します」
司会進行からマイクを受け取り、レオンは一番前に立つ。
「レオンハルト・フォン・シュテルネンライヒ・アーデルライトだ。帝国騎士団においては私も数年前に遠征部隊に参加させてもらったことはある。ゆえに見知った顔もあり、先ほどの歓談の時間は楽しませてもらった」
レオンは軍の指揮経験もある。遠征部隊と言っても魔物相手ではなく対人戦を行う部隊だったようだが見知った顔はいたようだった。
帝国騎士達を労う言葉やこれからも楽しみにしているなどトップとして無難な言葉をかけていた。
「セレス、殿下って人気なのね。女性騎士達が皆、羨望の眼差しを送っているわ」
レオンは帝国一の美男子と呼ばれている。目映く光る金色の髪に全てを見通す金色の瞳、同性であっても勝てる気のしないその美貌は圧倒的といえるほどだった。
女性騎士がそんな眼差しを送るのは当然といえる。
「なんで私にそれを言うんですか。リディアさんこそ殿下はどうなんですか」
「わたしは既婚者だもの。それに殿下は男性の好みではないのよね。尊敬はしているけど」
結構大胆なことを言っている。既婚者であり、主人に一途ということなのかもしれない。
セレスは視線を戻し、レオンの姿を見つめる。
「挨拶はこれぐらいにして本題に入ろう。実は皇帝陛下より命を下され、これまで準備してきたプロジェクトがある。今日それを君達にお披露目したい」
その言葉に騎士達がどよめく。
「皇帝陛下の命!」
「いったい何が……。プロジェクトとはいったい」
「帝国では長らく、国の芸術として帝国楽劇が親しまれてきた。貴族階級の騎士達は帝国楽劇場で見たこともあるだろう。しかし平民階級の者達は見たことがあるものはほとんどいないはずだ」
レオンは話を続ける
「そこで貴族、平民問わず楽しめる興業を生み出すというのがこのプロジェクトの趣旨となる。その第一回上映会を貴族、平民混成である帝国騎士団にお見せするのは運命と言えるだろう」
「おおっ!」
「帝国楽劇が見られるの!?」
「バカっ、それに変わるものだよ。でもどうなのだろう」
騎士達から大きな歓声が上がる。
口々にどんなものなのか、予想が口から放たれた。やはり帝国楽劇が前提にあるのか。
やはり楽劇関連を連想する声が上がっている。
「さぁ大帝国の新たな芸術【アニメ】の第一回上映会を開始する。心ゆくまで楽しんでくれ」
「おおおおおおっっ!」
グランドホール内の明かりは消え、正面だけが照らされる形となった。
そして大きな大きな1枚のイラストが天井から吊るされる。
「なんだあの大きな絵画は」
「絵画にしては何だか平面的で線がはっきりしてるな」
「あれは人か? 随分と可愛らしい……」
「ところで演者はどこにいるんだ。演劇じゃないのか」
「音楽は? 皇立管弦楽団の演奏が聴けると思ったのに」
(口々と賛否いろんな声が聞こえる。大丈夫。きっと次の言葉でみんなが黙ると思う。レオン様……やりましょう)
「アニマ・メドゥス発動!」
魔法が放たれて、吊るされた巨大なイラストにアニマ・メドゥスの魔法が発動し、イラストに描かれた造形物達が一斉に動き始めた。
『帝国歴×××年。ここは辺境の砦。帝国の最果て。魔物が出没する危険な土地だ。俺の名はエルヴィン。帝国騎士の一人。敵を討つために剣を磨き続けてきた』
イラストからは低く緊張感のあるヴァイオリンの音が、遠くからは風の音が聞こえてくる。
すでに騎士達から騒ぎとなっていた。
「絵画から声が……音楽が聞こえてくるぞ!」
「そもそも絵画が動いてるぞ、どういうことだ!」
「なるほどアニマ・メドゥスをこういう風に使うのか。考えたなぁ」
騎士から驚きの声が多数上がってくる。そして勘が良い騎士はアニマ・メドゥスがこの現象を起こすことに気付いたようだ。
そもそもアニマ・メドゥスは作戦立案などに使われた軍隊魔法。騎士達なら誰もが知っている魔法だった。
「主演の男性の声凄くいい……」
「聞き取りやすし、良い声をしてるな」
:遠くから角笛の音がする。訓練していた騎士たちが手を止め門の方を見る。 エルヴィンもまた剣を下ろして視線を向けいた。
:馬に乗った騎士が門をくぐる。鎧を身につけているが明らかに女性だ。赤髪には黒いリボンが揺れている。
:馬から降りた女性騎士が近づいてくる。
『はじめまして。アデライード・リヒテンシュタインです』
:伯爵令嬢アデライードの登場である。
その時、レオンすらも想像できなかった事態が起こった。
そのアデライードの姿はイラストによって極限にデフォルメされているのだ。オスカーにより極限にまで美しく磨かれており、セレスの可愛らしくも凜々しい映える声が合わさった結果。どうなったかというと。
「可憐だ……」
「なんて美しい」
その日アデライードに恋心を抱いた者が急増したとか。
元来、帝国騎士遠征部隊は既婚率が低い傾向にあり、恋人がいても長い間会えないことで破局することが多く、独り身が多い。
ゆえに現実恋愛を諦めてしまっている男性騎士も多い。そんな騎士がデフォルメされた美しい騎士を見た時こうなってしまうわけである。
『あなたがわたくしのパートナーと聞きました。お名前を教えて頂けますか』
『エルヴィンだ』
『エルヴィン……。昔、どこかで会いませんでしたか』
『俺は平民騎士だ。貴族の令嬢と相容れることはない。令嬢がこんな戦場に来るものではない』
『見くびらないで! わたくしは実力でこの場所にいるのです』
:一時険悪となった二人だが、任務をこなしつつ友好を深めていく
『ここでは魔物の被害が多いと聞きました』
『……ああ。特に火竜による被害が甚大なものになっている』
『火竜?』
『赤い鱗を持つ巨大な竜だ。村を襲い、多くの命を奪っている』
『 エルヴィン、どうしたのですか?』
『俺は……必ず、あの火竜を討つ』
『個人的な恨みでも?』
『おまえには関係ない』
『そう。でも、私情で戦うのは危険ですわよ。騎士として、冷静であるべきです』
:遠くの山から、不気味な咆哮が聞こえる。
『グルルルル……』
突然、画面が暗転。
【火竜討伐記~復讐の焔とリボンの騎士~】というタイトルが浮かび上がった。
そのままグランドホールの照明は完全に消される。その間に1枚目のイラストが巻き取られるように外されて、2枚目のイラストが浮かび上がった。再び、イラストだけ照らす明かりが灯される。
「アニマ・メドゥス発動」
レオンの2回目の魔法が働き、2枚目のイラストが動き始めた。




