024 ステラ
そんなこんなで最後のイラストは完成することになった。
そして少し時間は過ぎ、セレスとレオンが二人きりとなる。
「うぅ……まだ手が痛いです」
「よく我慢できたな。しかし助かった。最後1枚が完成したのは君のおかげだ」
「あはは、身を削った甲斐がありました」
「また詰まったらお願いしたいと言っていたぞ」
「その時は私ではなく代役でお願いしたいです」
怒鳴られながらモデルをするのはこりごりといった所だ。
レオンはくすりと笑う。
「明日明後日で収録を終わらせれば全てが完成する。間に合いそうだ」
「こうやって見ればあっという間でしたね」
セレスは話を続ける。
「あの……。2作目とか3作目とかは考えているんですか。これで終わりだったら……」
「可能ならやりたいと思っている。しかし思った以上の評価が得られないと皇帝に判断された場合は……」
その後は続かなかった。
これは帝国の未来を見据えたプロジェクトだ。1回で結果は全て出ないかもしれないが、それでもある程度の判断はされてしまう。
このプロジェクトは大帝国皇帝も知っていることなのだろう。皇帝がNGを出せばその時点で終わりだ。
この関係は全て終わってしまう。
レオン、ジュリアン、オスカー、リディア。出会ったこの関係も今回で終わりとなってしまうのだ。
「そうならないためにも全力を尽くそう」
「はい!」
「そこでセレス。俺から君に提案がある。受け入れるかどうか判断してほしい」
レオンから突然の提案。セレスは意味も分からず首をかしげるのみだ。
「君がこのプロジェクトに参加した理由をもう一度聞かせてもらえるか」
「レオン様がこんな私の声でもヒロインになれる言ってくださったからです」
セレスはずっと声がコンプレックスだった。そんな声をレオンが見いだしてくれたからここまで頑張ってこれたのだ。
「セレス自体は有名になりたいとか名誉がほしいとかあるのか?」
「この声ですでに悪目立ちしてるので……できればそっとして欲しい感じです」
「アニメの最後にスタッフロールを流す予定だ。その時に全員の名前が流れる」
「え……」
「ジュリアンはベルモント家として箔をつけるため、オスカー卿はイラストのため、リディアもソノーラ魔法を広めるために実名を希望した。しかし君は違うと思ったから聞いたのだ」
「だったら私はスタッフロールから外してもらう形で」
「それはできない。アデライードを含む全女性キャラを全部演じた演者を出さないわけにはいかない」
レオンの言うことは最もだった。帝国楽劇でも最後に演者の発表が行われる。演じたのは誰なのかというのは大事なことである。
そうやって好みの演者を探していくのも興業の楽しみ方だ。
「そこでだ。セレス、芸名をつけてみないか」
「芸名ですか? 一部の方は芸名で活動されている方もおられますね」
芸名の存在は決して無くはない。理由は無数にあれど芸名を使用する演者がいるにはいる。
「芸名なら私だとバレないですよね。それなら私。芸名でアニメに出ようかと思います!」
「そうか。なら芸名を決めようか。俺から一つ案があるんだがいいか?」
考えようと思ってた矢先の提案。セレスは頷き、それを待った。
「セレス、俺は君にステラと名乗ってもらいたい」
「え……。でもステラって確かレオン様の想い人の名前じゃ」
その名前はレオンが大怪我して介抱してくれた女性を模したものだ。
耳をケガしていたため声も名前も分からないがおぼろげに姿だけ覚えていた。
そしてそのステラの声に相応しいのがセレスであると断言していたのだ。
「ステラの声は君の声を想定としている。だからこそ君にステラを演じて欲しい。ステラを実在とさせて欲しい」
ずきりと胸に痛みを覚える。レオンにとってやはりステラが何よりも大事だということの証明だ。本物のステラが現れたらきっとセレスは捨てられてしまうのだろう。
だけど。
「分かりました。その時までその名前を預からせて頂きます」
少しでも長くレオンの役に立てるなら、この声をヒロインでい続けるなら。そう願いセレスは承知したのだ。
「ステラの名が世に知れ渡った時、ステラの正体は誰か、皆知りたがるだろう。それがまたブームを呼ぶ」
「確かに気になりますよね。ヒーロー役のジュリアンは名乗るから尚更」
「ステラの正体を明かすかどうかはまた考えようか。この件は最重要秘匿事項とする。セレス。君も気をつけてくれ」
「分かりました。でもこの1回で終わってしまったら」
「終わらせないさ」
レオンは金色の瞳を光らせて、笑う。
「セレスが俺のヒロインを演じてくれる限り、絶対に終わらせてなるものか」
自信に満ちあふれたその姿により一層頑張る気になったのだ。
そして……騎士団慰労会当日となる。




