023 モチベーション
「……うまくいかんな」
オスカー・ヴィンターフェルトが今日何度目かのため息を吐く。
絵画を描いていた時代は気の赴くままに描いていた。しかしイラストを描くようになってからだ時々手が止まってしまうことがあった。
「所詮はローザの真似事だからか。私にイラストの才はない」
それでもやらなければならない。
ローザの夢であるイラストを世に広めること。レオンのプロジェクトの成功がその近道であるということはオスカーは分かっていた。
それに寡黙で癖の強いオスカーに何も言わず応援してくれる若者達の熱意を嬉しく思っていた。
「オスカー卿。君のイラストはきっと大帝国の絵画の根底を変えることになるだろう」
そういって手を差し伸べてくれた金色の髪と瞳を持つ若き皇子の力となり、ローザの悲願を叶えられるなら。
悩んでいるのは七枚目のクライマックスのシーン。
火竜は描ける。しかしそのシーンで活躍するアデライードの姿がどうしても描けなかった。
オスカーは一度ペンを置く。
(ふぅ……エルにコーヒーでも入れてもらうとしよう)
オスカーが立ち上がろうとしたその時だった。
バンっと部屋の扉が開かれる。
そこにいたのは……。
「セレスティア嬢か?」
「いえ!」
否定された。しかしどう見てもセレスティア・ハルモニアである。
だが栗色のふわふわ髪はウィッグによって隠されて、赤く長いストレートの髪で流していた。
目の色もカラーコンタクトしているのか緑色をしており、女性騎士の鎧に女性用の騎士剣。
そして印象的な黒色のリボンをしていた。
今回のアニメ制作において資料として購入したものばかりであった。
それを全て装備した彼女はこう言った。
「わたくしは伯爵令嬢アデライード・リヒテンシュタインです。火竜を倒す名誉をこの剣に誓うと決めました」
セレスはアデライードの声色で演技し始めたのだ。その姿はオスカーが描いたアデライードそのものであった。
その姿に驚いたオスカーは何度も瞬きをしてしまう。
(うぅ、恥ずかしい。何やってんだろう。しかもこの騎士鎧、なんでこんな露出があるの! こんな姿、家族に見られたら家から出してもらえなくなっちゃう)
威勢の良い声を上げたセレスだが内心はかなり恥ずかしがっていた。エルから似合ってますと言われてそのまま駆け上がって乗り込んできたが壮年者のオスカーにじっと見られあっという間に強気が消えてしまった。
ちなみに露出関係はローザの意向があったりもするのでオスカーだけの意向ではなかったりする。
「向こうへ」
「はい?」
「片手剣を手に空へ翳し、もう片方の手は祈るように胸へ、膝を少し曲げて、顔は天に向かうように」
「え……? えっと」
「早くしろっ!」
「は、はいぃぃぃ!」
オスカーに怒鳴られすっかり元に戻ってしまったセレスはポージングを取る。
するとオスカーは椅子に座り、作業台にかぶりつくようにイラストを描き始めたのだ。
その表情は明るく、先ほどまでの不抜けた姿が嘘のように精気に満ちあふれていた。
(上手くいったのかな。アデライードで悩んでいたからアデライードになりきれば何か掴んでいれると思ったけど上手くいくなんて)
セレスは剣を降ろそうとする。
「降ろすなっ!」
「はいいいいっ!」
怒られて再び、剣を掲げることになってしまう。
部屋の入り口の所にいた。エルに助けを求める視線を送る。
しかしエルは首を振るだけだった。恐らく諦めろと言ったところだろう。
(そんなぁ)
「オスカー卿のやる気が満ちているようだな」
そうこうしている内にレオン達がやってきたようだ。
オスカーの働きに安心と言った所だったが。
「セレスティア何やってるの! しかもその格好……」
「あらっ、嫁入り前の子がそんな衣装着ちゃだめでしょう」
「着たくてきたわけじゃないです……うぅ」
「アニマ・メドゥス発動」
「何でアニマ・メドゥスを使うんですか! レオン様っ!」
(アニメの登場キャラの衣装を実在の人物が着る。これは面白いかもしれないな)
後に帝国で広まるというコスチュームプレイという言葉の原点がここだと知ることになるのはまた先の話である。
「動くなと言っているだろうっ!」
「手が痺れる……。ジュリアン。私が死んだらアデライードはあなたに……」
「セレスティア負けるなぁぁ、頑張るんだぁぁ」




