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021 五人目の仲間

「アニメ……。まさかそんなプロジェクトがあったなんて。アニマ・メドゥスはわたしも知っていたけどそんな使い方があるなんて考えもしなかったわ」


 セレスはリディアをオスカーのアトリエに連れて行く。

 レオンの許可ももらったのでアニメの全容をリディアに話したのだ。


「しかも侯爵様に伯爵令息……そしてレオンハルト皇子殿下までおられるとは思いませんでした」

「リディア・ノイマン。君の力を知りたい。即興でやれるか?」


 レオンはリディアに何かの脚本を渡す。あれはジュリアンと一緒に初めて演じた別れを題材にした脚本だった。

 リディアはさらっとその脚本を眺める。


「ソノーラ魔法でこの脚本に合わせてBGMバックグランド・ミュージックを流すということですね」

「リディアさん、いけそうですか?」

「ええ」


 リディアは脚本を閉じた。


「この程度、造作もないことよ」


 レオンがアニマ・メドゥスを使い、イラストの中のキャラクター達が動き始めた。

 それに合わせてリディアはソノーラ魔法を使う。

 リディアの周囲に各色、各楽器に応じた色の魔法陣が生まれて、リディアの指揮の下、音が流れる。

 あの話は結婚で遠くの国へ行く令嬢とその令嬢に恋をしていた年下令息との儚い恋愛シーンだ。

 リディアはジュリアンとセレスの演技に合わせて、様々な楽器を選択していく。

 そんなシーンにセレスは目を瞑り、音を聞くため耳に集中をした。


(ヴァイオリンが主旋律を奏で始めたわ。柔らかく、温かい音色。まるで二人の幼い頃の思い出を語るようにチェロが低音で支えてる。 深く、優しく。二人の絆の深さを表現するような響きだわ。ピアノの伴奏が規則的でも少しずつテンポが揺れる。心の動揺を表すような素晴らしい音楽)


 要所にハープやホルンなども使い、シチュエーションを深掘りしていく。

 そして5分のアニメは終わった。リディアもまたソノーラ魔法を停止、魔法陣が消えていく。


「即興の割に上手くやれたんじゃないかしら。今回はBGMだけど効果音もやれるからブラッシュアップできると思います。どうかしら」


 そのリディアの声に最初に反応したのはジュリアンだった。


「凄いよ! 音楽を得てアニメがさらに進化したように思う。たった一人でこれだけの楽器を使えるなんて……びっくりした」

「リディアさん、どんな音楽にも対応できるんですか?」

「ええ、ソノーラ魔法を学ぶにあたってあらゆる楽器に触れて、音色を保存したから。一つ一つじゃ楽器には叶わないけど、組み合わせや人の手では出せない音域を表現できるのがソノーラ魔法の良い所ね」


「想像以上だな。リディア・ノイマン。アニメプロジェクトに参加してもらえないか」


 レオンはリディアに手を差し出し、リディアはその手を握り返す。


「わたしのソノーラ魔法が役に立つならお手伝いさせて頂きます。最高のBGMをイラストに吹き込んで見せますわ」

「セレスも逸材をよく見つけてくれた。本当にどうしようか悩んでいたからな」

「たまたまですよ。宜しくお願いしますね、リディアさん」


 こうして最後の一人が仲間になり、アニメプロジェクトは一気に進むことになる。


「リディア。音楽で進行管理などもできるか? どうしてもイラストと演者のセリフが合わない時がある。音でタイミングを合わせることができれば演者も演技しやすいだろう」


 レオンの問いにリディアは考える。


「大丈夫だと思います。セリフの時に特定の音を出すもしくはBGMの音量を下げるなどすれば可能かと」


 レオンとリディアは脚本を見ながら話をしていた。

 鉄血の獅子と噂されるレオンに対してリディアはまったく物怖じせず、対等に話をしている。

 元々貴族が治安の良くない区民会館でコンサートをするくらいだ。リディアも音楽院を卒業してから苦難の毎日だったのだろう。


(お似合いの二人ですよね)


 レオンとリディアの年齢は近く、美男美女としてかなりお似合いな様子を見せていた。

 仕事の話とはいえ、息を合った姿を見せられてセレスはジェラシーを感じていた。


(そもそも私もリディアさんも下級貴族の出。レオン様とどうにかなんておこがましすぎる! でもレオン様がそんな関係ないって言う人なら美人で話の合う人の方が……)


 悪い方向に考えてしまうのがセレスの悪い癖でもあった。

 二人の様子を眺める頃、リディアは急にアトリエに飾ってある時計を見る。


「もう、こんな時間!」

「あの~」


 それは同時だった。オスカーのアトリエで住み込みで働いているエルが部屋に入ってきたのだ。


「リディア様にお客様です。初老の男性と可愛い男の子で」

「ママ!」

「エミリオ!」


 3才くらいの小さな男の子がリディアに抱きついてきた。リディアはその子を持ち上げて庶民会館でチケット売買をしていたロイという初老の男性を見る。


「お嬢様、坊ちゃまがどうしても会いたいと聞かなくて」

「もう、仕方ないわね」

「あのリディアさん、その子はもしかして」

「ええ、わたしの子よ。エミリオって言うの。挨拶して」


 突然現れたリディアの子供。3才らしくやんちゃ盛りらしい。

 いつもであれば可愛がるセレスであったが別のことを考えてしまった。


「ほっ……」

「何がほっなの?」

「っ!」


 ジュリアンに聞かれて、セレスは大きく首を振った。


(リディアさんが既婚者だからって別に私がどうこうあるはずないのに!」


 エミリオはレオンを見て大きな声を上げた。


「王子様みたい!……パパより格好いい」

「皇子だからな。そしてロイ・エレンディーバ。まさか貴公がノイマン家の執事をやっていたとは……父上が聞けば驚くぞ」


 初老の男性はレオンと顔見知りだったようだ。ロイはぺこりと礼をした。


「お久しぶりでございます。ですが今はお嬢様にお仕えいたしておりますので」


(そもそもレオン様はステラに熱中なの! 勘違いしちゃだめ。でも)


「おーい、セレスティア大丈夫? そんなに首を振ったら痛めちゃうよ」


 話の聞いてないセレスは混乱したまま、新しい仲間が増え、いよいよ第一回アニメ放映まであと少しとなる。


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