018 新たな問題
アニメの公開日の言葉にセレスもジュリアンも驚く。
「オスカー卿にも共有したい。アトリエの方で話をしようか」
セレス達はオスカーのいるアトリエの方へ向かうことになった。
馬車で移動し、アトリエに到着する。アトリエの前でお手伝いのエルが掃除をしてた。
「殿下、セレスティア様!」
「エル、オスカー卿と話したい。いけそうか」
「今、休憩されていたので大丈夫ですよ! 声かけてきますので客間へどうぞ!」
セレス達は客間へ入り、ソファに腰をかける。
先ほどのセレスとジュリアンで収録したアニメを見せるため、壁にイラストを貼り付けて準備をする。
ほどなく、作業着姿のオスカーをエルが連れてきて客間の中へと入る。
「オスカー卿、仕事中にすまないな」
「落ち着いた所だったので大丈夫ですよ。セレスティア嬢にそちらは……」
「は、初めまして。ジュリアン・ベルモントといいます。このアニメプロジェクトに参加させて頂きますので宜しくお願いします」
「……」
オスカーはじっとジュリアンを見つめていた。気弱なジュリアンはその眼光に怯えるが。
「あのジュリアン様。オスカー様、良い声をしていると言ってますよ!」
「言ってたかな!?」
エルの声にジュリアンは大層驚く。オスカーが寡黙なのはジュリアン以外分かっているため特に否定することもない。
レオンがイラストが張られたボードに近づく。
「気にいったのなら良かった。では先にヒーローとヒロインの声を収録したアニメをみてくれ」
レオンはアニマ・メドゥスを使い、イラストのキャラクター達を動かし始める。
オスカーとエルはじっくりとアニメを眺めていた。
すごい! かっこいいと口に出して綻ばせるエルと違ってオスカーはセレスとジュリアンの声の演技をじっと無言で見つめていた。
「オスカー様って凄くオーラがあるね……」
「ええ。ドキドキしますね」
5分のアニメが終了し、魔法の効果が消えて再び浮かぬイラストに戻る。
オスカーの感想はいかに。
「良いと思います」
その簡単な言葉にセレスとジュリアンは顔を見合わせて喜ぶ。
「あのあの! セレスティア様のお声、すごく凜々しくてお姉さんみたいで、ジュリアン様もカッコ良くてうっとりしました! オスカー様も大絶賛されてますよ!」
「……」
喜ばれたのはありがたいが、オスカーは無言のまま目を瞑っていたので本当だろうかという気持ちを声優達は思う。
「失礼します」
部屋に入ってきたのはレオンの側近であるディートリヒだった。
「殿下、頼まれていた件確認して参りました」
「ああ、見せてくれ」
ディートリヒに書類を渡されたレオンは軽く確認する。
少し苦い顔をして息を吐いた。
「良い話と悪い話がある。どっちから聞きたい?」
問われ一同見合う。セレスが声を上げた。
「では良い方から」
レオンはディートリヒに視線を向ける。
「はい。では私から説明させて頂きます。アニメプロジェクト企画、来月下旬、騎士団本部のグランドホールで講演となります。対象は帝国騎士団、遠征中隊。任務を終えた慰労会をその時に行いますのでその余興でアニメを放映致します」
「遠征中隊!?」
「セレスティア。どうしたの?」
「な、何でもありません」
ジュリアンに問われセレスは慌てて取り繕った。
(ロデリック様は遠征中隊所属だわ。確か遠征任務があったはず……。慰労会に参加されるのかしら)
セレスは複雑な想いをしながら話を聞いていた。
「遠征中隊は貴族、平民が混在した部隊となります。第一回の放映としてこれほど適した相手はない。……で宜しいですか殿下」
「ああ、進行においては順調に進んでいる。脚本も8割出来ているし、オスカー卿のイラストの進捗も悪くない。セレスやジュリアンの収録もこれから開始していけば問題ないだろう」
「私、いっぱい演技の練習して頑張りますね! ……ジュリアン。どうしてそんなに不安そうな顔をしているんですか」
セレスの指摘通り、ジュリアンの表情は良いものではなかった。
今、上げられた情報に悪いものはなく、セレスは不思議そうに首をかしげる。
「あの……僕が最初に確認したこと。上げた情報に入ってなかったんですが、まさか悪い話って」
「ああ、断られた。代案を考えている」
「え? どういうことですか」
「セレスティア。アニメは帝国楽劇に準ずる興業として考えられているんだ。帝国楽劇にあって、アニメにないものを考えてごらん」
ジュリアンの言葉にセレスは一つずつ考える。
「イラストはアニメ独自のものですよね。脚本があるのは一緒だし、演者もアニメは二人しかいないですが……声の使い分けで多数にもなれる。違いがあるとすれば……あっ!」
セレスは思い出したように頷いた。
「音楽!」
「そう。帝国楽劇は皇立管弦楽団による演奏が大前提になっている。音楽の無いそれは帝国楽劇じゃないんだ。アニメは僕とセレスティアの声は入っているけど音楽は無い。このままじゃ声だけの上映になってしまう」
少人数だけなら。あとアニメの希少性を考えれば声だけでも好評となるだろう。
しかしアニメはいずれ帝国楽劇を超えるものとして作成しようとしている。
音楽の無い上映は作品としてありえない。
一同はレオンを見た。
「皇立管弦楽団にスケジュールを確認したが年単位で埋まっていてNGだった」
「殿下の威光でも難しいのですか?」
「皇立管弦楽団のトップは皇帝だからな。彼らの活動は皇帝の意思と同じ」
それでもレオンが言えば動かせるかもしれないが、楽団の活動は大帝国の国益になっている。それを邪魔することを帝国貴族として良しとは言えない。
「あとは皇立音楽院に頼むくらいか」
「学生ですか……。皇立管弦楽団の卵とはいえ、やはり実力が……」
ジュリアンはため息を吐く。ここに来てアニメ制作の障害が出てしまった。
悪い話としては十分すぎるものだ。
「話はこれだけだ。すでに出来ているイラストと脚本を合わせ次第、収録を開始する。セレスとジュリアンは準備をしておいてくれ」
「はい」「分かりました」
「ジュリアンは伯爵家に帰りづらいだろう。しばらく王城に来るといい。脚本の見直しもしたいしな」
「助かります。父や長兄上に何を言われるか……心配だったので」
レオンは最後にオスカーを見る。
「オスカー卿、イラストから思い浮かぶタイトルを上げてくれ」
帝国騎士団に向けた、第一回アニメの上映。そのタイトルが今、オスカーの口から放たれた。
「【火竜討伐記~復讐の焔とリボンの騎士~】」




