017 言葉
何かがセレスの前に立ちふさがり、シャイセントの腕を払いのけた。
それが何か。金色のなびく髪を見てセレスの表情に笑みが戻った。
「レオン様!」
かけつけたレオンは後ろに倒れこんだシャイセントを見下ろす形に位置する。
「ぐっ、誰だ……いきなり」
「誰だと。伯爵家は俺の顔も知らないのか」
「あ、あなたは……レオンハルト殿下! な、なぜこのような所に」
「シャイセント・ベルモント。ただの兄弟喧嘩であれば大目に見るが、俺のセレスに手を出そうとするとはどういうつもりだ」
(俺の!?)
突然の宣言にセレスは驚き、動揺する。
シャイセントは皇子であるレオンハルトが現れたことも含め混乱していた。
しかし貴族であれば誰だって分かる。皇子を怒らせることはお家騒動に発展する可能性もあるのだ。
シャイセントは強く頭を下げた。
「申し訳ありません! 殿下の寵愛を受けた令嬢とは知らず……」
「セレス、ケガはないか」
「はい! レオン様に庇って頂いたおかげです」
レオンはジュリアンを見て、その後シャイセントに視線を向ける。
「兄弟仲が良くないと聞いていたが……、ジュリアンはしばらく俺が預かる。手出しは許さん」
「ジュリアンをですか!? な、なぜそんなことを」
「答える必要はない。ベルモンド伯爵やアレクサンダーにも同じことを伝えておけ」
「……」
「何をしている。おまえがいては話ができん。出ていけ」
「っ!」
シャイセントは慌てて立ち上がり、去ろうとする。そして出る直前にジュリアンの方を見た。
「ジュリアン……!」
その目はいら立ちと怒りに満ちていた。
先ほどの言動や自分や兄ではなく、ジュリアンが殿下に選ばれたことが気にくわないのだろう。
ジュリアンもそれが分かっているようで何もいえず、視線を外すことしかできなかった。
シャイセントが去り、一同落ち着く。
「申し訳ありません殿下。兄上が失礼なことを……」
慌ててジュリアンはレオンに対して謝罪の言葉を投げる。
レオンは一度息を吐いた。
「兄弟喧嘩にセレスを巻き込むんじゃない。ただ、何を言ったらあそこまで怒らせるんだ。おまえの言動が原因か」
「どうしても許せなくて。兄上のコンプレックスを刺激してしまいました」
「人には言われたくないことがある。おまえだってそうだろ。それでシャイセントから何を言われたんだ」
「はい、セレスティアの声を幼稚な声って……頭の悪そうな声だなんてひどいことを。だからどうしても言って、ひぃ!」
急にジュリアンが情けない声を出してしまったので、セレスも視線を向けるとぎょっとしてしまう。
レオンの表情が鬼のように険しくなっていたからだ。
レオンは振り返り、部屋を出ようとする。
「それなら話は別だ。セレス待っていろ。あの男を地に這い付くばらせる謝罪をさせてやる」
「ま、待ってくださいレオン様!」
セレスは慌ててレオンの腕を掴む。
敵には容赦のない鉄血の獅子のレオンのことだ。シャイセントを無理矢理でも謝罪させてくるだろう。セレスはそんな状況での謝罪など受けたくなかった。
「私はいいんです! 言われ慣れてますし」
「そういうことではない。俺の心に響いた君の声が穢されたんだ。許せるはずないだろう」
「だとしても! レオン様やジュリアンが良いと言ってくれるなら気にしません!」
セレスの嘆願にレオンの足は止まる。
「皆が笑うこの声もアニメを通せば印象が変わる。私はそう信じていいんですよね」
「もちろんだ。俺は君の声がアニメを盛り上げると確信している」
「僕もそう思うよ」
「はい。だから今は制作を進めましょう。止まっている場合じゃないです」
セレスはぐっと力を込めて訴えた。
そんな様子にレオンもジュリアンも笑みを浮かべ、場の空気は和やかになる。
「ところで……その、レオン様。さっき……俺のセレスって言いませんでしたか」
「っ!」
セレスにとっては侮辱より、レオンにそう言われた時の方が動揺していたのだ。
レオンの美麗な頬に軽く赤みが帯びる。自分が大それたことを言ったことに今更気付いたのかもしれない。
「……そんなこと言ったか」
そして全力でごまかす。
「びっくりしましたよ。殿下って女性に興味ないって噂しかなくて、実際もの凄い塩対応ですし。そんな殿下があんなこと言うなんてびっくり」
「そんなこと言ってないよな? ジュリアン」
「……。はい、言ってないですね」
(ジュリアンが圧に負けたわ)
セレスも言ってないということで納得することにした。追求しても結局困るのは自分であることに気付いたこともある。
「ごほん」
場も落ち着き、改めてレオンが二人に声をかける。
「アルタイルの伝令の内容の一つにアニメのことに関してディートリヒから連絡があった。第一回アニメの公開日が決まった」




