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015 ジュリアンの悩み

『私には責任がある。あなたには明るい未来があるわ。素敵な花嫁を見つけて、幸せになりなさい。遠い異国であなたの幸せを祈っているから』

『僕の幸せはあなたといることだったのに……!』

『さようならマイル』


 レイニーは立ち去っていく。


『僕の花嫁はずっとあなただと思っていたのに! もっと早く生まれかった……そうすればあなたと共に歩んでいけたのに!』


 マイルの慟哭と共に魔法は解けて、再びイラストはレイニーとマイル、一つの木が写っているだけとなった。


「ぐすっ……ぐすっ」

「セレスティアさん大丈夫かい? えっとハンカチは」

「セレスは感受性が高いのだな」

「はい……。こういう悲恋ものにとても弱くて」


 三人は収録を終え、椅子に座って出来映えをチェックしていた。

 この前はセレス一人で声を出すアニメだったが、今回はジュリアンを含めた対等な掛け合いのあるアニメとなる。

 それだけ作品の広がりや深みが増していく。

 三人とも出来上がったアニメをじっくりと見ていたのだ。


「ジュリアン様の声が良すぎます! マイルくんの感情がすごく伝わってきて、本当に泣けました」

「セレスティアさんも上手だったよ。マイルがレイニーを想っている気持ちを理解しながら、彼の将来のために気持ちに応えず立ち去った感情が良く伝わった」


 お互いがお互いの演技を褒め合っていた。


「そういう意味ではレオン様の脚本が凄いのですね。わずか五分なのにこれほどの情報量があるなんて」

「確かに。公務で忙しいのによくこれだけの脚本を書けますね」

「これ系統は気晴らしで書いていることも多い。ネタだけはいくらでもあるんだ。戦時中、そればっかり考えていたからな」


(戦いながらこんな切ない物語を考えていたのかしら)


 レオンだから出来るということだろう。物語を書けないセレスにとってはどの作品も賞賛にあたいするものだった。


「ジュリアン。セレスと演じてみてどうだ。アニメに真剣に関わってみないか」

「……」


 ジュリアンは少しだけ思考をする。


「セレスティアさんと演じていて楽しかったのは事実です。でも僕は夢を捨てきれない」

「ジュリアン様は帝国楽劇をやりたいって言ってましたよね」


「【空を目指して鳥は踊る】という作品を知っているかな?」

「知ってます。確かベルモンド伯爵様の出世作ですよね。昔、母様が帝国楽劇場(グローリア・ハレ)で見て感動したと言っていました」

「ああ、姉上が帝国楽劇のスタァを目指したのもあの作品を見てからだったか。確かに良い作品だった」


「父上が主演を譲るまでは定期的に公演をしていたのですが、今はもう……。僕は子供の時に父の演じる姿を見て演者を目指したんだ」

「失礼ながらジュリアン様の容姿や声、さきほどのアニメの演技力から皇立楽劇団に所属できるレベルだと思います。入らない理由はあるのですか」

「それは……」


 迫真をついた理由だからかジュリアンは黙ってしまう。

 セレスもまたまずい質問だったと慌てて、謝罪してしまうことになった。そんな二人の様子にレオンが言葉を挟む。


「隠すほどのことじゃない。ジュリアンは帝国楽劇を演じる力がある。しかし致命的な弱点があった」

「弱点ですか?」


「ジュリアンは極度のあがり症なんだよ。だから能力があっても入団試験に受からない。そして大勢の客の前で演じる以上、それは致命的といっていい」

「その通りなんだ。恥ずかしいよね、あんな偉そうなこと言っておきながらたくさんの人に見られると上がっちゃってまともに演技ができなくなるんだ」


 ジュリアンは悲しそうに肩を下ろした。

 今までも克服するためにいろんなことを試したらしいが上手くいかず、どんどん悪化していくほどだった。

 落ちては兄に叱責されて、自分はダメだと自責の念がさらにあがり症を悪化させていた。


「そうだったんですね。申し訳ありません、失礼なことを……」

「いいんだ。これは僕が克服しなきゃいけないとだから。でも観客の前で失敗したらと思うとどうしても一歩が踏み出せない」

「だったら尚更、アニメをやるべきなんですよ!」


 突然のセレスの言葉にジュリアンはあっけに取られた。


「さっきのアニメの収録は完璧だったじゃないですか。それはなぜですか」

「なぜって……。君と殿下しかいなかったわけだし」

「そうなんです! アニメは収録するもの。つまり観客の前で演技をする必要もないんです」


「っl」

「それに失敗してもいいんです。私が失敗したせいで再収録になりました。でもそれだけです。何度もやり直せるんです。帝国楽劇はミスが許されないと思いますが、アニメはミスが許されるんです」

「ま、アニマ・メドゥスも魔力消費が大きいから何度もやってもらっては困るが、いちかばちかではないのは間違いない」


 レオンもまたセレスの言葉に賛同するように声を上げた。セレスが言葉を続ける。


「空を目指して鳥は踊るもアニメで表現できないものでしょうか」

「あの作品をアニメで!?」

「元は空を目指して鳥は踊るも文学作品だったと聞いています。それを帝国楽劇に落とし込んで伯爵様が主演を演じられたのです。なのでオスカー様にイラストを描いてもらって、レオン様に脚本を書いてもらいましょう。そして主演はジュリアン様です!」


「無茶苦茶だな。だが出来なくはない。原作ありのアニメ化は俺も考えていたからな。さすがにすぐには出来ないが」

「僕が空を目指して鳥は踊るの主演をやれる……」

「伯爵様と同じ形ではありませんが、ジュリアン様ならではの作品になるのはないでしょうか」


 セレスは期待を込めて、笑顔で言葉を吐いた。

 ジュリアンはずっと反復して考えこんでいる。そしてレオンを見た。


「殿下。アニメが帝国楽劇と同じくらい有名になった時、空を目指して鳥は踊るのアニメを検討してもらえないでしょうか」

「良いだろう。と言いたいがオスカー卿次第だな。しかし興業的にやってみる価値はある。検討をしよう」

「ありがとうございます!」

「やりましたね。ジュリアン様!」


 こうしてジュリアンのアニメの参加が確定となり、重要な要素であるヒーローの声の演者を得ることができた。


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