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013 ベルモント伯爵家

「ベルモント伯爵様ですか! 代々帝国楽劇の演者を務めておられるお家ですよね。当主の伯爵様はかつてのトップスタァ。スタァをヨノエル様に渡してからは男性の主演演者(ディーヴォ)として主演を支える活躍を見せてると聞きます」

「セレスは博識だな。説明しなくてすむから助かる」


 王城を出て、レオンとセレスは帝都内を馬車で進む。

 今から行く所は王都の貴族街の上層にある屋敷だ。

 上層に住む貴族は上級貴族かつは帝国の文化に影響の与えた偉人が住む屋敷がある、アニメ楽劇のイラスト担当のオスカーの生家ヴィンターフェルト侯爵家もここにあったりする。

 二人はベルモント伯爵の所有の屋敷へ向かっていた。


「長兄のアレクサンダー様もヨノエル様のお相手を務めることが多いですよね。アニメのヒーローの声優をベルモント家の方が担当されるということでしょうか」

「ああ、俺はそう考えている。ベルモント家は毎年、家族総出で挨拶に来るからな。そいつには目をつけていたんだ。今まで良い返事をもらえなかったがヒロインが決まったんだ。なら、説得するしかない」


「応じてくだされば良いのですが」

「断られても頷かせるだけだが、できれば自分の意思で動いてほしいからな」


(強引だわ。断られたら鉄血の獅子の眼光で頷かせるのかしら)


 セレス相手にはかなり尊重はしてくれたので、言葉だけできっと演者を大切にしてくれるのだろうと考えられる。


(アレクサンダー様には兄弟がいたって聞いたことがある。でも縁者の可能性もあるし、何とも言えないわね)


 そうこう考えてる内に屋敷の方に到着。とてつもない大きさの屋敷であった。

 さっそく執事達が出迎えてくれる。だがレオンの姿を見てしどろもどろしていた。


「レオンハルト殿下!? ご用件は……。当主様はただいま留守にしておりまして」

「伯爵に会いに来たわけでは無い。俺はジュリアンに会いに来た。一応声はかけてたと思うが」

「申し訳ありません! ジュリアン様はご在宅であります。どうぞこちらに」


 大慌ての執事達に迎えられて、ベルモント伯爵家の屋敷へと入る。


「そんなに俺の来訪は気を遣われるのか。君の屋敷の時もそうだったが」

「レオン様はご自分の立ち位置をご理解頂けると助かります」


(しかも戦場で血を浴びまくった鉄血の獅子の異名を持つんだから……。使用人達が怯えるのも無理ないのよね)


 レオンの場合は従者を行かせて準備を整えてから出向くのがセオリーだろう。レオンはそんな面倒なことをしないと直接出向くので皆が大慌てとなるのだ。


「時間は有限なんでな。これから君の家にも直接出向くから気軽に応対してくれ」

(ウチのリーゼ達がぞっとしそうな言葉だわ)


 屋敷の正面扉を開き、ロビーの方へ足を踏み入れる。

 元々、ベルモント伯爵家の屋敷は帝国楽劇場(グローリア・ハレ)から馬車で十分ほどの芸術の香り漂う一画。

 最初に目に飛び込んでくるのは正面の大階段だった。深紅の絨毯が階段を覆い、まるで劇場の舞台へと続く階段のようだった。

 階段の踊り場には、等身大の彫像が立っていた。古代の悲劇役者。片手を高く掲げ、もう片方の手には仮面を持つ。その表情は、喜びと悲しみの両方を湛えているようだった。


 壁一面には肖像画が飾られていた。代々のベルモント家当主たち。いや、当主というより演者たちの姿。

 ある肖像画では初代伯爵が王冠を被り王の衣装をまとっていた。おそらく何かの演目での役柄だろう。


 その隣には貴婦人の衣装をまとった二代目伯爵夫人。手には羽根扇を持ち、優雅に微笑んでいる。

 三代目は道化師の衣装。色とりどりの布地と大きな襟飾り。表情は笑っているが、どこか物悲しげだった。

 それぞれの肖像画の下には、金のプレートが取り付けられている。名前、年代、そして代表作の演目名。


(歴代の帝国楽劇の時代を作った演者ばかりだわ)


 そして今の当主のゼンダー・ベルモントも二十年前に属国の国王を唸らせるほどの俳優であり、次期当主であるアレクサンダー・ベルモンドもスタァのヨノエルに唯一対等に演技のできる俳優と言われている。


「セレス。君はジュリアンを知っているか?」

「いえ、ゼンダー様、アレクサンダー様は知っていましたがその方は……」

「無理もない。ジュリアンは皇立楽劇団のメンバーじゃないからな。だが君ならきっと誰よりもヒーローに相応しいと思えるだろう」


 レオンがそのように推すのだから間違いないのだろう。セレスはそのジュリアンという演者と合うのを楽しみにしていた。

 馬車から出た時にレオンが紙袋を手にしていた。オスカーのイラストなのは間違いない。ジュリアンの私室の前に到着した。


「ジュリアン。俺だ。入るぞ」


 扉を開けようとしたら先には一人の青年が扉のすぐ先にいた。

 恐らく皇子であるレオンに扉を明けさせるとまずいと思ったのか、飛び出してきたが間に合わなかったという所だろう。


 セレスはレオンの後ろからジュリアンの顔をのぞき込む。


 ジュリアンは黒髪でやや顔が隠れてしまうほど自然な形の髪型をしていた。

 前髪からのぞき込める琥珀色の瞳は思わず吸い込まれてしまいそうなほどキラキラしていた。


(レオン様に劣らないほど美形だわ。特に髪の間から覗ける琥珀色の瞳がとってもキレイ。吸い込まれそう)


「……」


 ジュリアンはセレスの方を見る。


「彼女はセレスティア。アニメにおけるヒロインの声の担当をしてもらう」


 名前を呼ばれ、セレスはぺこりと頭を下げた。


「初めましてジュリアン様。ハルモニア子爵家のセレスティア・ハルモニアといいます。宜しくお願い致します」

「っ!」


 ジュリアンは驚いたような仕草を見せた。その理由をセレスは分かっていた。


 自分の声を聞いた時にそのような反応をすること人を何人も見てきたからだ。

 本当なら不快になる所だがレオンやヨノエルによって声を褒められた経験から決してセレスの声に悪い感情を持つ人だけしかいないとわけではない。

 しかしすぐに割り切れるわけでもない。


(ジュリアン様が認めてくださればいいのだけど)


 相手役なら尚更そう思うだろう。


「この前、ヒロインを連れてきたらアニメに手を貸してもいいと言っていたはずだ。約束を果たしてもらうぞ」

「……」


 ジュリアンは琥珀色の瞳を大きく開き、同時に口も開く。


「分かりました。約束を果たします。でも僕は」

「はぅっ!」


 セレスはその声に仰け反るようなリアクションを取った。

 そう、それほどまでにジュリアンの声は衝撃的だったのだ。


「レオン様。まさかジュリアン様のお声がここまでだったなんて……」


 セレスの顔が紅潮していく。その声だけでここまで感情が揺さぶられたのだ。


(耳がここまで幸せなの……初めてかもしれない)


 ジュリアン・ベルモントの声は落ち着いた中低音域で音を持っており、十代後半から二十代までこの声だけ演じられるような深みがあった。

 上品で知的で色気のある。まさしくヒーローに相応しい声である。

 いわゆる【イケボ】という部類の声色だった。


ジュリアンの声は若い頃の緑川光さんをイメージしてます。

マジで良い声ですよね。生まれ変わったらあの素晴らしい声になりたい。

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