Only Mama told me to say HB
story NO.12
下に降りるとお父さんがいつものジーパンにポロシャツ姿で待っていた。
お父さんは真剣な目つきで俺の目を見ながら言った。
「ええか、優。外に同級生の直哉が来とる。直哉からは何も聞かず今は許しちゃれ。直哉を許すんで。わかったな。」
意味のわからない事を言われて俺は反射的に聞き返した。
「何で直哉が来たん?」
お父さんはイライラし始めた。
「優に謝りに来たんじゃようるけぇ直哉が来とんじゃねんか!オメェが一番何があったか分かっとんじゃねんか!?」
俺はおじいちゃんと最後に話した交差点の信号待ちの事を知られてないか不安になった。
「直哉とは何もないよ。遊んでもないし。」
お父さんは俺から目を離さず怒りを握りつぶしたようなトーンで言った。
「嘘だけはつくなよ。」
俺は下を向いて玄関に出ようとした。するとお父さんはまだ話は終わってないと言いだした。
「ガチャ」
俺がドアを開ける前に誰かが開けた。ドアが開くと直哉のお母さんがいた。
「優くん、ちょっと出てきてもらってもいい?」
俺は言われるまま外に出てみるとふてぶてしい直哉とイライラした直哉のお母さんがいた。
「ほら、直ちゃん。何があったか言いなさい。」
「うるせんじゃよ!誰もおらんじゃねぇかよ!」
直哉はそう言うとお母さんに殴りかかろうとした時だった。
「おえっ!直哉!ちゃんと謝れ!」
お父さんが直哉を怒鳴ると直哉は俺の前に睨みつけながら顔を近づけて言った。
「オメェが何か知っとんかよ!?」
俺は緊迫した空気は苦手なのと直哉が怒っていて怖かったから下を向いて黙ってしまった。
「おえっ!何か言えや!」
俺は顔を上げて直哉の顔を見ようとしたけど目が合って横に目をそらした。
視線の先にはブロック塀に隠れて黒髪、黒のサングラス、黒のスーツの男がこっちを見ている事に気づいた。
俺は誰かわからないけど怪しい事には変わらない事は一目見て分かっていた。
チラチラ直哉の顔を見ながら覗き見している男を見ていると直哉が怒鳴った。
「何、チラチラ見よんなよ!?オメェ、何が言いてんなよ!?」
俺は直哉から目をそらして覗き見している男を見ようとしたら反対側の道からゆっくりと走る一台の車が通りかかって来たのが見えた。
車を目で追いかけていると直哉が突然、焦って後ろを振り向いた。すると何かに怯えて表情が青ざめながら俺に謝り始めた。
「ホンマわりぃ。ごめんなさい。」
すると直哉は大声を上げて泣きだしてしまった。
俺もなぜかわからないけど泣きそうになってきて必死に我慢した。
ゆっくり走る車から覗き見している男へ視線を移すと男は車が走っている事に気付いた。
すると慌てて時計を見てポケットからスイッチを出して押した。
「ブォン!!ブォーーン!!」
すぐ近くから車の発進する音が近づいてくる。覗き見している男はゆっくり走っている車の反対へ逃げて行き、ゆっくり走っていた車はアクセルをベタ踏みして急発進を始めた。
すると猛スピードの車がゆっくり走っていた車を追いかけ始めた。
車のタイヤが急ハンドルと急ブレーキでアスファルトと擦れる音が聞こえた。
カーチェイスのような音が遠ざかっていくと直哉のお母さんは我に返ったように社交辞令を済ませると直哉を連れて帰っていってしまった。
お父さんも状況を把握できてないのか口を開けてキョロキョロしている。
急に静かになった玄関の前でお父さんと二人。
2階からゲームの音が微かに聞こえてくる。
誕生日と命日
嘘と真実
善と悪
愛と憎悪
歓喜と恐怖
過去と未来
破壊と再生
創造と行動
現実と妄想
金と夢
子供と大人
社会と家庭
ねじれた心はやがてちぎれた。
「お父さん。家に入ろ!」
何も知らない、何も気づいてない、何も疑ってない。
子供ながらに子供を演じてちぎれた心を隠した。
家に入ったらお父さんの顔も見ずにゲームも消さずに布団の中に包まって泣いた。
気づかないうちにお母さんがやって来て頭を撫でてくれた。
お母さんは小さな優しい声でそっと呟いた。
「誕生日おめでとう。」
俺は涙が止まらなくなってしまって布団から出れなくなってしまった。
この日おめでとうと言ってくれたのはお母さん一人だけだった。




