SADなタッチ
story NO.11
10歳の誕生日の朝だった。お母さんが何度も俺を揺すって起こしている。
俺は目を覚ますとお母さんは悲しそうなのに無理して優しい声で言った。
「優、おはよ。ごめんね。おじいちゃんが死んだんよ。」
俺はお母さんの一言で気分が9.11のテロのように落ちた。最悪だ。誕生日と命日が一緒じゃおめでとうなんて絶対言えないし言ってもらえないしさよならも言いたくない。
あのキャッチボールの日からずっと続いていた不安が現実になった瞬間、現実から目を背けたくなった。
眠りは死のいとこみたいなもの。
もう一度眠ろうとしたけど悲しみがこみ上げて来て俺は泣いて眠れなかった。
精一杯、傷つけないように事実を言ったお母さんも涙を流しながら、
「何でこんな事になるんじゃろうな」
と独り言を言っている。
お父さんが喪服姿で部屋に入って来た。
「優、早よ起きて制服に着替えよ。」
そう言うとすぐに部屋から出て行った。
お父さんのタッチは冷たい雨のように悲しい気持ちにさせる。
夏休みなんかに制服なんて着たくなかった。
半分ふてて、半分泣いて面倒くさそうに着替えた。
鏡で制服姿の自分を見るとおじいちゃんと最後に話した時に見た制服姿の3人を思い出した。そしておじいちゃんの最後の言葉が忘れれなくなっていた。
「わしが行っちゃる」
もう死んだら本当に何があったかわからなくなってしまった。
おじいちゃんがもう一度意識を取り戻したら聞いてみたかった。
なんでおじいちゃんは俺の代わりに駅の方へ向かって行ったのか。
何かありそうで誰かに言ったら色々と聞かれるのも嫌だったから誰にもおじいちゃんとあの日信号待ちした時に会った事は言ってなかった。
俺にとってこの日は葬式も誕生日も重なって気持ちはシリアンルーのようにねじれている。
棺桶に入っているおじいちゃんを見て初めて俺は人の死に対面した。
おばあちゃんが泣きながら手を握ってあげてとゆうから恐る恐るおじいちゃんの手を握った。
冷たいと感じたと同時に何かとても嫌なものを心の奥底で感じた瞬間、嫌な記憶が蘇って急に怖くなった。
俺はすぐにおじいちゃんから手を放した。
人の死を受け入れる事は小学生の俺には出来なかった。かわりに心の何処かがねじれてほどけなくなった。
お坊さんがやって来てお経を唱えている。見たことのないおじいちゃんの親戚や友人が涙を流しながら一緒にお経を唱えている。
俺はなぜか他人事のように感じるほど、見ている現実が冷めてる。
出棺する時に外へ出たら背中に流れた汗を感じて生きてる実感を取り戻した。
なんて日だ。ケーキもプレゼントも笑顔も笑い声もない。子供の俺は一刻も早く葬式が終わって欲しかった。
火葬場へ行きお父さんが火葬するスイッチを押した。数時間後、骨だけになったおじいちゃんが現れた。
お父さんは骨を箸で持つと泣きながらつぶやいていた。
「何が自転車で転んだな。眉間の骨やこ真っ青じゃねえか。」
俺は骨を受け取るのが怖くて仕方がない。
血の滲んだ骨は箸で掴むことが出来ないまま固まってしまった。
もうだめだ。血の気が引いて立ってるのも苦痛に感じる。
フラフラしている俺を見て、お父さんはより複雑で悲しそうな表情で焼かれた最後の骨を骨壷にいれた。
骨壷に眠ったおじいちゃんと家に帰ると葬式も終わりを迎えた。
俺は家に着いた瞬間、部屋に向かって制服を脱いでパンツにTシャツ姿でジュースを飲んだ。
そしてクーラーをかけて、カーテンも閉めてテレビゲームを始めた。
現実よりゲームのほうが楽しかった。
ゲームみたいな現実なら楽しいはずだと思っていた。
子供の頃、好みの興味が出来るとそれを飽きるまでしないと気が済まなかった。
いつもやり始めると夢中になっている。
そんな世界が好きな10歳だった。
いつのまにかゲームに夢中になっているとインターフォンが鳴った。
気にもせず俺はゲームを続けていると部屋のドアが開いた。
「優、制服に着替えて外に出てけぇ。」
お父さんだった。そう言うとお父さんはドアを閉めて出ていった。
今日のお父さんのタッチは冷たい雨のように悲しい気持ちにさせる。
ゲームをつけたまま俺は半分怒って、半分悔しくなってドタバタと音を立てて階段を下りた。




