006.「ベテラン無双、ただし格下に限る-1」
自警団の事務所への道すがら、ふと俺はこの世界での経験値について考えていた。
例えば色んなゲームでも序盤に出てくるモンスターは弱い、そして経験値も低い。だがそれだけを延々と倒したらどうなるだろうか?
いつかLvは上がるが、途中で萎えることだろう。それでもやったことは意味がある。現実ではそうはいかないのだ……。
努力は裏切らない、と言っても雑魚相手でなくても良い。何か1度なら簡単な行為をひたすら続けることは精神的に疲弊する。
様々に考え方はあるだろうが、ネットゲーム的にはこの辺りを越えた所からベテランになるのだと思う。超えすぎると廃人とか呼ばれてしまうのだが。
1度には0.1%も上がらない熟練度であったり、経験であったり。後ろ指を挿されることもあるだろうが、その結果はその人を裏切らない。圧倒的な攻撃力であったり、攻撃を耐え切る体力、風を切る速さ、全てを飲み込む極大魔法。どれだって努力の結果なのだ。
「その遺物を使えばどの鍛冶職人でも、というわけではないのだな?」
「ああ、長く俺に馴染んだからこそだ。試して見るか?」
呼び出された事務所で、副隊長だという彼に問われたことに答え、工房から持ってきたハンマーを遺物だと偽って手渡して見る。当然、何も変化は起きないし、感じるものもないはずだ。ハンマー自体は俺の手持ちの中でも比較的良い性能の物なので品質としては非常にいいはずだが、あくまでもそこまで。俺とハンマーに交互に視線をやりながら、副隊長がため息をつく。
明日からどこかで延々と言われるままに作ってろ!みたいになっても人生面白くないので、遺物によるものだという勘違いをそのまま利用することにしたが上手くいったようだ。とはいえ、目の前でため息をつかれるとなんだか申し訳ないような、呼び出しておいてそれかと怒りたくもなるような、微妙な気分だ。
「そうなると、代理の職人を用意して、君を外に引っ張りだすというわけにはいかないか」
どういうことかと聞いてみた話によれば、今の自警団は戦力が低下しており、その補充が不可欠だということだった。周囲に危険は少ないが、それでも万一を考えると最低でも維持はしたいわけだ。
街の誰に聞いたのかはわからないが、自分が鍛冶職人兼冒険者として旅の途中、ここにたどり着いた、という話が上手く伝わっているようだ。尾ひれがついてるような気がしないでもないが。
結局、依頼としては建て直しに向けて、一時的にだが手伝ってほしいという物になった。戦力的な面か、物資的な面かは時によるようだ。
「何週間も街をあける、ということでなければ大丈夫だと思うが、出来ればフリーな立場でいたいのは確かだな」
そう答え、声がかかった時に余裕があれば同行する、という形で話を収める。外部に頼めるぐらいだから予算はそれなりにあるんだろうか? そういえば、町長のような相手にまだ会ってないな……。そんなことを思いながらの帰り際、訓練中と思わしき集団を眺める。
集団に声をかけているのは随分と迫力ある人物……隊長なのだろうか? 俺の視線に気がついたのか、隊長(?)が振り向いて近寄ってくる。
「君がファクト君か。トモが世話になったようだな。私はグランモール自警団の隊長、シルヴァだ。良い武器を作ってくれた。まるで遺物のマジックアイテムだな」
「運が良かったんですよ。きっと、精霊の祝福です」
握手に答え、そうごまかす。材料さえあればいくらでも作れます、とはさすがに言えないよな。と、シルヴァの動きが止まり、視線が俺の顔をまっすぐと捉える。
「随分と鍛えているようだ。器用そうな手先の中にも、自分以上の強さを感じるよ。こんな街中にいるのが不思議なほどだ。君は一体……」
どきりとした。数値としてのレベルやステータスが見えているわけではないだろうが、体つきや腕の感覚、身のこなしで見破られたのかもしれない。俺ぐらいになると、多分下手な刃物をさそうとしてもまともに刺さらないと思う。それぐらい、俺が一般的な人間や兵士からは相応に強い位置にいる。
「大丈夫ですよ、手の届く範囲はやらせていただきます。色々と」
突然やってきた鍛冶職人、その相手が自分でも相手にならないだろう強さを持っているとなれば、怪しむのは当然か。どう誤魔化していった物かと表に出さないように考えるが、何かの時は頼りにするさ、と背中を叩かれただけですんだ。理由はあるのだろうが、今はありがたい。先ほど、副隊長から受けた依頼の確認をしつつ、その場を離れることにした。
「うーむ、色々あるなあ。遺物を何でもいいから譲ってください? ガラクタを押し付けられたらどうするんだ? ん? これは……」
その足で白兎亭へと向かい、壁に貼られた依頼群を眺めていると1枚の依頼が目に入る。『坑道の落し物探しをお願いします』とあった。
読み進めると、若者らが小遣い稼ぎに鉱石を拾いに街近くの鉱山跡に向かうも、途中でモンスターに遭遇、なんとか逃げ帰るも親の形見を落としたことに気がついた。なんとか取り戻せないか?ということだった。
確かに、モンスターがいたとなっては二度目は無い。特に外に出てくるわけではないようなので、自警団としても退治に向かえないし、冒険者としては実入りが無い、といったところか。少し紙が痛んでいるところから、他の依頼より長くここにあるのだろう。儲けもなく、誰かの尻ぬぐいとなれば進んで受けようという人はまあ確かに、いないだろうな。逆に言うと邪魔は入りにくそうだ。そう、慣れておきたい俺のような存在にとってはちょうどいい。念のため、マスターに確認に行く。
「ああ、あれか。まだ有効だよ。依頼者は市場にいるはずだ。確か、兄妹で野菜を売っているよ」
ほっとした様子からすると、やはり結構な間貼り出されていたんだろう。マスターに礼を言い、市場へと向かうことにする。
どの時間でも賑わう市場。様々な物品が売られるのを眺めながら、目的の店を探す。雑貨屋……こっちは毛皮か? というか野菜を売っている店っていってもかなりあるな。その中でも若い男女ペアとなればすぐにわかった。
「ちょっといいかい?」
「あ、いらっしゃいませ! 何をお求めですか?」
元気良く受け答えをする少女に首を横に振り、兄であろう男性、どちらかというとまだ少年に近いほうへと顔を向ける。こんな若い2人が命の危険がある場所に向かったとは……他人のことを言える身分ではないかもしれないけど、危ないな。
「白兎亭で依頼を見たんだが」
「受けてくださったんですね! ありがとうございます!」
接客向けの笑顔から、演技無しの明るい表情で勢い良く手を取られ、ぶんぶんと上下に揺られる。どれだけ依頼が来なかったのかわかるという物だ。
「カイン兄さんも落ち込み気味だし、誰も来ないし、もう駄目かと!」
「鉱山跡には2人だけで行ったのか?」
妹さんの向けてくる、きらきらとした視線を見る限り、とてもそこまで無謀というか活発そうには見えなかった。むしろ兄1人で忍び込んだ、というのがあってるような背格好だ。さすがに1人、あるいは兄妹だけでということは無かったようで、他にも何名かの男友達と一緒に、ということだった。それでも危ない物は危ない。どうやら元々モンスターはいなかったようだが……。
「襲ってきたモンスターなんですが、特徴からゴブリンじゃないか、ということなんですが。何匹か色が変なのがいたんです。春先までは何もいなかったはずなのに……」
兄―カインが言うには、集団の中に目立つ奴らがいたということだ。それと、住み着いたのは最近ということだ。ゲームと違って移動はある程度自由だろうからそういうこともあるんだろうな。
(それはそれとして、色違い? 亜種か?)
ゲームでも街のそばといえばゴブリンなのだが、強さはかなり差があった。色や武具が違うといったわかりやすいもの以外にも、単純に時折、妙に強い集団がいた覚えがあるのでここでも油断はしないほうがいいだろう。俺が一人なのはゲーム時代と変わらないが、全く同じとはいかないだろう。
「元々そんなに奥に行けなかったので近くにあると思います。よろしくお願いします!」
街と鉱山跡の距離など、手元の紙に位置関係なんかを書き出してもらった。自警団には協力すると言ってすぐに不在になってしまうことを気にしなくは無いのだが……まあ、そのぐらいの関係の方がいざという時に気楽だろう。
街近くとはいっても、相応に距離があるらしい鉱山跡へと足を進める。本来ならば半日はかかる距離にある鉱山跡だが、兄妹に出会ってからそんなに時間はたっていない。その秘密はファストムーブ、速歩だとか呼ぶこともあった移動用魔法だ。熟練により効果時間や、速度上昇の幅が広がる。消費も少ないのでほとんど常用していた魔法だ。だからか、この世界に来てもその熟練度は変わらずほぼMAXだ。
本当ならば競技記録も真っ青の速さなのだけど偶然誰かに遭遇して見られないとも限らないので、街から離れるまでは小走り程度に抑えておいた。それでもそんなに急いでどうするんだぐらいだったとは思う。
「さすがに全力装備だと慣れる慣れないの問題じゃないよな……」
進みながらも、使う装備をアイテムボックスから選びながら街道を進む。アイテムを捨てたり出来ない俺の性分に合うように、MDではアイテムボックスはほぼ無限の容量を持っている。何故かこの世界でも使えるソレのタブ数は数えるのも面倒だ。後ろの方に行くほど何を入れたか覚えていない。
それでも、RPGでは最後まで回復薬は取っておくぜ!な日本人ゲーマーには性に合っていたのだろう。MDでも溜め込む人は多かった。途中の木陰で足を止め、自分が装備できた武器防具を入れるように決めていたタブを選び、無難そうな一式を取り出す。
内訳は
・状態異常用の耐性付きペンダント
・一定時間毎に自動回復する指輪
・腕力要求の低いエルブンチェイン
・素材狩りに良く使っていた電撃付与付きロングソード
である。
俺としてはそこまで良い物ではないが、この世界で売りに出せば遺物……昔のあれこれが掘り出し物として伝わっているような物と同じ扱いかもしれないな。ゲーム時代じゃ1本いくらで投げ売りされていたような奴までが高級品の世界だ。エルフの手の入ったチェインメイルなんか……。
そういえば、MDじゃエルフには遭遇したことが無い。高難易度の森の奥なんかにいるらしく、戦闘プレイヤー達から素材を買い求めたぐらいの存在だ。例に漏れず長寿だというから、今のままでは会えないのは確実ではあるが、もしかしたら……何かわかるかもしれない。
「世界を旅して……それでどうするかねえ? ボスを倒すには自分じゃ足りない。武器をばらまくってわけにもいかないしなあ……」
呟きながら出した装備に着替え、剣を何度か振り回す。恐らくは自分にだけ見えているショートカット群も戦闘用に切り替え、いくつかの攻撃用スキルを発動し、動きを確かめる。記憶にあるよりも実感を持って体が動くことに驚きを隠せない。
「形見は、このぐらいの大きさの金色の丸いもの、か。確かにこれでは受けるやつは少ないよな。曖昧すぎる……まあ、行くか!」
整った街道から離れ、そうであったことがわかる程度の鉱山跡へ続く道を進む。
(高さは俺の2倍ぐらい、横幅もそれなり…、か)
「こっちは依頼人達のか、小さいのがゴブリン、と。多いな」
陽光がまだ届く鉱山の入り口付近、俺は足元を調べていた。入り口まで追ってきたのだろうゴブリンの足跡はかなりの数だ。数匹、では終わらないようだ。もし鉱山跡を住処にしているとすればまだまだいると思うべきだろう。
どこかの1匹見たら30匹、な黒い奴とは違って命が危ない。もしかしたら見えているHPゲージが尽きる様なダメージを負えば目が覚めるのかもしれないが、とても試せない事柄だ。
陽光が届かない部分には暗闇が広がっている。夜目の利くモンスターならともかく、俺では何も見えない。中がどんなふうになってるかがはっきりしない状況ではどう探索するかも決めにくいな。
「何も見えないよりマシか」
灯りを頼りに奇襲されるかもしれないが、目の前に敵がいました、では話にならないので小さくつぶやき、探索用にも使える魔法、ライティングを発動する。何かが燃えているわけでもないし、電気というわけでもない、まさに魔法、な光源。頭の少し上あたりをふよふよと漂い、歩けばついてくる。
ゲームの時には気がつかなかったが、火にしても水にしても、もしかして精霊さんが何かしてくれてるんじゃないだろうか?
冒険者で攻撃用の魔法使いは余りいないと聞くので、資源が減った、という話と無関係ではなさそうではある。今のところ光の中にそれっぽいものは見えないが、いると仮定してよろしく、とつぶやいておく。誰かが見たら変な光景だ。
気を取り直し、いざ、と踏み出した先で金属音。しかも一気に遠ざかっていく。
(! 見張り、か。どうやらカイン達が逃げられたのは偶然のようだ)
野良のゴブリンがたまたま中で暮らしていました、なら見張りなど置くまい。いつ襲われても良い様に姿勢を整え、奥へと向かう。
(なんだったかな、こういう時は……そうそう!)
「さあ、狩の始まりだ!」
……ちょっと違ったかもしれない。
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