番外編 勇者は神に祈らない
番外。
勇者君の名前が明らかに。
その瞬間は時が止まったようだった。
火曜日の朝。いつもの通学路。天気は曇り。
隣には同じ高校に通う2つ下の妹。
他愛もない会話。
周囲にはちらほらと見知った顔。
――そして、落ちてくる鉄柱。
何かを思うより先に、体が動いていた。
「綾!」
妹を突き飛ばす。
「きゃぁ!」
妹の悲鳴。
しかし、悲鳴を上げられるのは、生きている証拠。
自分は……。
何百キロあるか想像もつかないような鉄柱が、すぐ真上にあった。
(まぁ、何とも厳しい人生だった。)
18歳になったばかり。
その年齢で既に家族親族が妹以外いないという彼の波乱に満ちた人生は、鉄柱に押しつぶされて消えた。
……はずだった。
周囲には悲鳴と怒号が飛び交う。
やがて来る救助隊や警察。集まる野次馬たち。
鉄柱が取り除かれた後に残ったのは、死傷者ゼロという奇跡。
ホッとしたのも束の間、しばらくの間、この事故を境に行方不明となった兄妹に世間は騒ぐことになる。
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“目が覚めると、そこは知らない天井だった”
事故や事件に巻き込まれた物語の主人公が知らない場所で目を覚ますときの、もはやお決まりのセリフだ。
そしてまさに自分がそんな状況にあるのを、半分呆然と見るしかなかった。
「目が覚めたぞ!」
知らない言語、単語と文法。
それなのに理解できる現状。
血の気が引いたが、逆に冷静になれた。
辺りを見回す。
周囲は偉そうな人間ばかり。
そして隣には倒れている妹。
――唯一の身内。
そこで思い出す。
……自分は死んだのはないのか。
分からなかった。
妹は助かったのではないのか、それともここは死後の世界なのか、夢なら早く覚めてほしいと、様々なことを瞬時に思ったが、現実逃避をするわけにはいかない。
もしもこれが異世界への召喚とかいう、古代の日本からありふれたものだとしたら、逃げるわけにはいかない。
“現実は非情である”
高梨伊織が18年間生きていて確信した唯一無二の格言は、彼を常に冷静でいさせてくれた。
「……ここはどこで、あなた方は何が起きたのか分かりますか?」
まずは、目の前にいた高貴そうな老人に話しかける。
言葉はたぶん通じるだろう。自分たちが通じたように。
身分とか格式とかの関係でいきなり話すのはマナー違反かもしれないが、そこはご容赦いただこう。
彼らは立派な拉致誘拐犯なのかもしれないのだから。
「ここはオニルミア王国の王城。貴様は魔族と魔王討伐のために喚び出された。貴様は魔王を命を懸けて倒さねばならない。」
そうきたか、と面食らう一方、更に冷静になることが出来た。
――ここはそういう世界。
許容できることではないが、今は怒るときではない。
そして割り切れば、取るべき行動も見えてくる。
「……多少、理解しました。しかし、詳しい状況が分かりません。自分に何が出来るか分かりませんが、やるべきことはやりましょう。」
「ふん、分かっているではないか。貴様は我らに従う他無いのだ。」
「これで我らの宿願も近い!」
「ハッハッハ。頼むぞ勇者殿。」
自分の言葉を聞いて、周囲の脂ぎった老人共が好き勝手を言う。
知っていた。
――蛮人こそが、他人を蛮人と嗤うのだ。
そこで見切りをつける。つけられる。
未だ目覚めぬ妹が運び出される。
声を上げるわけにはいかない。指揮を取る輝かしい金髪の青年騎士に目を向けるが、不思議と悪い感じはしなかった。
目が合った。
今はやたら容姿の整った、金の髪が目立つその騎士に任せるしかない。
自分は一般人。しかし、勇者であるという。
今は何もできない。
しかし、“勇者”であるならば……。
何に願うわけでもない。
彼はただ、最善の行動を考えた。
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「イオリ様~!」
猫の獣人であるルルトが飛びついてくる。
幸いなことに、パーティメンバーとの関係構築はうまく行った。
パーティーメンバーのうち、人間のダン以外は女性のため不安を覚えたが、訓練を通してそれは杞憂であると分かった。
魔法的優位があれば、身体的優位など容易に覆せるのだ。
身長が150㎝に満たないルルトが、簡単に大男を投げ飛ばす光景も、最近では見慣れている。
「あたしと組手しましょうよ~。最近では誰もあたしについてこれなくて。」
このとおり、現代日本で育ったはずの自分が、獣人最強と名高い彼女に早さだけはついて行けるようになった。
もっとも技術はまだまだだが。
「分かったすぐ行くよ。」
「待ちなさい。」
そこへエルフのサリアから待ったがかかる。
エルフに違わぬ美貌を持つ彼女は、魔法のエキスパートであった。
「イオリ様は私との魔法談義が先です。あなたの理論は素晴らしい。」
「理論といっても……。」
自分の持っている科学の知識なんて、所詮大学受験レベルだ。
この世界で火は、魔力という不思議なもので起こすことが出来る。
一方で、元の世界と同じようにも火は起こせる。
そんなような話しただけなのだが、どうにも革新的らしい。
「……待って。刀のヒントをもう少し。」
今度はドワーフのアニルから。
ルルトより更に小さい彼女だが、火魔法と鍛冶のエキスパートである。
自分の世界の、というより自分の国の武器の話をしていたら、見事に食いついてしまった。
詳細なんて分からないので、ヒントと言われも困るのだが。
「その後でいいから俺も相手を頼む。」
今度は男。オニルミア騎士団のダン副団長である。
何でも戦闘狂の彼は、騎士団若手ホープと危うい戦いをしてから、一層訓練に励むようになったらしい。
若手ホープとは、妹を連れ出す指揮を取っていたイケメンだが、聞くところによると外面だけでなく内面も素晴らしいらしい。
今は妹の唯一のパーティーメンバーらしいが、とりあえずは安心である。
――妹と会う許可が下りない現状、彼に任せておくよりないのだが……。
「順番にしよう。まずは訓練から。」
「やった!」
狭い人間関係だが、パーティーメンバーとは信頼関係を勝ち得なければならない。
いずれ命を預け合う仲間。
既に自分は死んでいるのかもしれないが、しかし今は生きて、守るべきものがある。
自身の死へ疑念と、この世界への見切り、そして守るべき者。
諦念と怒り、そして希望。
それが彼を動かしていた。
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「こんなものか。」
この世界には魔法がある。
火、水、土、風、光、闇。
6つの属性。
何となく、聞き慣れた属性だ。
そのうち、人類が主に使うのは、火、水、土、風、光の5属性。
闇属性は人間かエルフのみ、極稀に素養があるらしいが、使い手は歴史上いないそうだ。
「だから……。」
彼らは知らないだろう。
幻影と幻視、影から影へ移動、呪詛と解呪、吸魔と吸精。
これらが全て闇魔法で出来るということを。
普通の人間が使えない闇魔法を使える事実。
やはり半分死人なのだろうかと思うが、だとしたら召喚に感謝しなければならないのかもしれない。
闇魔法を覚えて最初に行ったのは、隷属魔法の解呪である。
この人を人と思わないようなクソ食らえな魔法は、とてもじゃないが許せない。
思わず術者を遡って、精神に作用する闇魔法で攻撃したら、あっさり精神崩壊してしまった。
……まぁ自業自得だ。
ちなみに、闇魔法だけ使えるのではない。
光魔法、特に回復の魔法はかなりのものだし、火と水の魔法も、既にエルフのサリアと同等である。
あとは相手のステータスを見ることが出来るようになったりと、これも中々便利。
現在は魔法に合わせて剣の訓練も行っているが、上達は中々早いのではなかろうか。
そして、妹の居場所も掴みたいが、同じ城にいるはずなのに中々見つからない。
どうやら向こうの輝きの騎士が会わせるよう言っているらしいが、それが逆効果になっているらしい。
人質のつもりだろうが、本当に反吐が出る。
徐々に闇魔法にも慣れてきている。
影移動がスムーズにできれば、城を探索する時間も増えるだろう。
今はまだ、牙を研ぐ時である。
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(綾っ!!!)
召喚されて6週間。
出発を数日後に控え、遂に自分は綾の場所を探し当てた。
(隷属魔法……。)
寝ている綾を起こす前に解呪をする。
パリン、と音を少したて、魔法は解かれた。
「ふぅ……。」
大した手間ではないが、一安心である。
よく見ると、顔色が悪い。
見えるようになったステータス上も、隷属魔法はなくなったが、体力が低下していた。
闇魔法がようやくモノになったこの数日で、綾の周囲を調べたが、やはり負担は相当大きかったようだ。
「ん……。お兄ちゃん?」
「ああ、お互い無事でよかった。」
綾が目覚める。
6週間ぶりの会話だが、日本での会話が遠い昔のように感じる。
そこで近況を話し合った。
自分の状況や周囲の状況、そして数日のうちに出発すること。
綾も様々なことをしゃべった。
隷属魔法が解かれてかなり安心したのだろう。
顔色は悪いが、声に力があるのが分かる。
だが、綾の状況は芳しくない。
発現しない魔法、変わらない体力、頼みはあの騎士のみ。
「……そうか、分かった。この後少しカティさんと話してみる。」
「うん。今まで私が無事だったのもカティさんのおかげだし。」
「ならもう綾はお休み。隷属魔法は砕いたとはいえ、まだ顔色が悪い。」
「……私もそんな魔法とか使えたらなぁ……。いずれ出発しなければいけないみたいだし。」
「その辺りはカティさんと話をしてみる。」
「……また、会えるよね?」
綾は自分が鉄柱に押し潰されたことを見ていないのだろうか。
それとも、それを知って聞いてきているのか。
ふと、疑問に思った。
「会えるさ。お互いに生きていれば。……だから、綾も無事で。」
「うん。」
そして、騎士カティの部屋で待つ。
時間も時間なので、何となく、影に隠れて待つ。
そしていつの間にか寝てしまった。
……朝が早かったから仕方ない。
「誰かいるのか?」
声に驚いて一気に目が覚める。
おかげで答えるのが数瞬遅れ、しかもあまり状況を見ずに出てきてしまった。
「……さすがですね。おはようごうざいますぅ!?……か、カティさんその頭は?」
そんなことだから、想定外の事態には当然焦る。
あの輝いていた髪は、いや、確かに頭部は輝いていたが、それは全く別のものだった。
「これは……気にしないでください。それよりもここにどうやって?……いえ、魔法ですか?しかしすぐに戻られた方が。」
さすが、というべきか。
あっさり見破られた。
闇魔法なんて知らないはずなのに。
「あ、ああ、いや、それは大丈夫です。幻覚と言うか、身代わりを置いてきているので……。それより、あなたが自分と接触を試みているのを知りまして、魔法もようやく使いこなせてきたので……綾を、妹を守っていただきありがとうございます。そのお礼が言いたくて。」
「いや、私は大した力になれていない。……ですが、今後は貴方たちのお力になれると思います。」
そんなことは無い。
綾がここまで無事だったのは紛れもなく彼のおかげだったし、綾自身も感謝していた。
そして……彼のスタータスは狂っていた。
体力や魔力以下、全ての項目が今まで会ってきた誰よりも高かった。
――何より
“代償による神からの力の贈与”
彼の称号。
代償を払い、力を得たのだろう。
「……もしかしてその頭はそのせいですか?」
「その通りです。……私など大した者ではありませんが、それでも、貴方たちの力になることを誓いましょう。せめてこの世界の一員として……許されることではないでしょうが……。」
本当に神か、とも思ったが、代償を払えば力になってくれるという、実利のあることはしてくれるのだろう。。
……その代償の多寡や後遺症は知らないけれど。
どうやら神かもしくはその類はいるらしい。
「ありがとうございます。それだけで自分たちは救われた気がします。……この世界に来て、気が滅入ることばかりで。」
「……いえ、お恥ずかしい限りです。しかし、私などよりアヤ様に会ってきてはいかがでしょうか? 寂しそうにしていましたし。」
「ああ、それなら先ほど会ってきました。随分落ち込んでいたので会えて良かったですが……あと、カティさんには言っておきますが、隷属魔法は外してしまいました。」
カティさんは驚いていたが、まあそうだろう。
他者がかけた隷属魔法を外せるのは、おそらく世界で自分しかいないのだから。
「なんと!しかし、隷属魔法は本来罪人にしか、かけることを許されないもの。私は反対でしたので、良かったと思います。」
「そうですね……それと、お別れの前にもう1つ。私たちは数日後に城を出発する予定です。しばらくは王都周辺にいるでしょうが、カティさんたちの出発も近いはず。……綾を、妹をお願いします。」
これだけは譲れない。
自分の足りない力では、まだ思い通りにならないことが悔しい。
「……逃げてもいいのでは?」
意外なことを勧められるが、それではきっと状況は変わらないのだろう。
「いえ、どのみち帰れないのでしょう。それならこの世界で暮らすしかない。そして自分はこの世界を救う力がある。……幸い、自分のパーティは理解もあり、そして強い。このチャンスを逃さない手はないと思います。」
「……分かりました。私の言葉は忘れてください。アヤ様を戦場に連れ出すことになっても、必ず守って見せます。」
「お願いします。しかし、連れ出すのは良いと思います。……正直自分には魔物とかより、悪意ある人間の方が恐ろしい。」
その言葉を最後に、カティさんと別れた。
気持ちのいい男だった。
だと言うのに。
なぜこいつは俺の前に現れたのだろう。
『やあ、君が勇者君か。初めて会うねえ……うん?おかしいな。分からない。』
「あんたは誰だ?」
輝く髪を持つ、宙に浮いた者。
おそらくカティの髪を奪い、力を与えた者。
これまでで最もファンタジー要素がある者。
これが全ての首謀者だと言われれば、おそらく信じるだろう。
彼は半笑いで、浮いていた。
『やっぱり読めない。君は一体何だい?』
意図は不明だが、問いかけてくる。
今のところ敵意も無いようだ。
「……人に尋ねる前に、自分から名乗りなさいと教えられなかったか?」
敢えて、挑発的に。
なぜならこの浮いている者は、おそらく自分がこの世で最も毛嫌いするモノだからだ。
『面白いことを言うね。これまで人間たちは最低でもぼくに気を使っていたというのに。……まぁいいや。ぼくは神の僕。君達の召喚の手助け……とまではいかないけど、知識を与えていた者さ。』
「……そうか、あんたが元凶なのか。」
『元凶?ひどいことを言うなぁ。確かに知識を与えたのはぼくだけど、それの使い方を決めるのはあくまでこの世界の住人たちなのに。』
確かにその通りだ。
だが、それで分かった。
彼は。いや、彼らは。
きっと自分たち人類に興味が無いのだろう。
そんなものだ。
自分は神なんて信じていないが、このファンタジーの世界で神の僕を名乗る者に会って確信した。
神やその類なんて、存在したとしても、結局人間を見ていないのだ。
祈って見返りがあるとか、救われるとか、許してくれるとか、それはあくまで自分で自分自身を納得させる理由であって、そこに神なんてものは直接的に関わりないのだ。
あるとすれば、何か――例えばカティの髪の毛とか、彼らが余程興味のあるものがなければ無意味だ。
カティは力の代わりに、見事な髪の毛を永遠に喪った。
普通の人間が何を差し出せるのだろうか。
あるいは普通の人間に何かするにしても、彼らの価値観――例えば彼らの善悪と自分たちの善悪が同じなのだろうか。
時代が違えば、同じ人間でも価値観、善悪が変わるのに。
『……君が何を考えているか不思議と読めないけど、きっとひどい言われようをしているんだろうなぁ。』
神の僕は笑みを崩さない。
「自分はあなたの力を借りることはない。」
『ふぅん……。なるほどね。ぼくが気に入らないかい?』
――ああ気に入らない!
幼いころから何度神に祈ったと思っているんだ。
結局、神も、周囲も、大人も、誰も、助けてくれずに、最後は自分の未来は自分で切り拓くしかないのだ。
だから自分にとって、神とか悪魔とか、そんなものは全て押しなべて人を惑わす邪なものに思える。
「俺が貴方に頼むことは何もない。」
そう言って背を向け去る。
『このままじゃ君は魔王を倒せないとしてもかい?』
――やっぱりだ。
きっとカティさんにも似たようなことを言って、髪を奪ったのだろう。
神の類というのは、あまり何にも興味を持たない代わりに、興味を持ったものには手段を選ばず執着するのかもしれない。
『君じゃあ力不足だ。本当に魔王を倒したいのなら僕を頼るしかないのさ。……断言してあげよう。このままでは君は死ぬよ。』
そうかもしれない。
だが神の僕は理解していない。
――何故、俺の心が読めないのか。
「佞言断つべし!」
闇魔法。吸精、そして吸魔。
『おっと。ぼくに魔法は……え、何だこれは!体が、ぼくの体が!』
興味のないものを分かるはずがない。
分からないことを分かろうとすることをしないものに、進歩があるはずがない。
『まさか闇魔法とでも言うのか!……ぼくは……別に…君に何をしようというわけでは……単に暇つぶしにアドバイスの一つでも…と…。』
彼は神の僕。
いわば光属性の塊。
闇魔法はひとたまりもないだろう。
「あいにく俺は神の類には祈らないと決めているんだ。……そして貰い受けてやるよ。その力と魔法を。」
『馬鹿な……たかが!たかが人間如きに!この、ぼくが……。』
神の僕は徐々に体を崩壊させていく。
『なぜだ!……ぼくが何をしたというんだ!?』
「さぁ?……自分でもよく分からないが、もしかしたら単なる八つ当たりかもしれないな。」
『そんなもので……!この……ボク、が……。』
そして神の僕は消滅した。
朝日が眩しかった。
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その後、予定通りに魔王を倒す旅に出る。
パーティーは強い。
魔王城まで大回りで行くため、時間は多少かかるが、特にトラブルなく道を進んでいった。
……唯一の誤算は、カティと綾が想像を幾重にも上回るスピードで魔族を駆逐し、魔王まで倒してしまったことなのだが……。
最後にギリギリのところでカティを救い、綾も怪我らしい怪我を負わず、何とか自分の使命を果たした。
「イオリ殿。魔王の恐怖は無くなった。しかし、今後の世界はどうなっていくのだろう。」
カティは尋ねてくる。
共通の敵が無くなれば、次は内部の争い。
歴史を知っていなくとも容易に想像の付く今後の展開を、カティは心配しているのだろう。
「……逆にこれからが、新しい時代なのだと思います。……魔王も無く、神も無く、あるのは人類のみ。……それが正しい姿なのかは分かりませんが、1つの自然な形なのだと思います。」
「……確かに、そういうものかもしれません。あれから神の僕も姿を見せません。きっとどこかで面白がって見ているのでしょうが。」
「そうかもしれませんね。」
ああ、素晴らしいことだ。
魔王無く、神無く、あるのは人類。
超常の力はなく、あるのは分相応の力のみ。
「……自分たちは、人類にしては力がありすぎます。ひっそりと表舞台から消えるのがいいと思います。」
「……そうかもしれません。……イオリ殿……私はアヤと……。」
「それはカティさんと綾が決めることです。自分が何かを言うことではないでしょう。」
笑って答えた。
魔王の脅威が無くなり、人々は思い出したように人類間で争い出す。
それが一応の落ち着きを見せるまで50年。
8つの国に分かたれた彼らは自らの足で歴史を築いていく。
そこに魔王は無く、信仰はあれど神は無い。
ただ人があった。
終わり。
ありがとうございました。




