光の騎士は征く
開。
カティは自室に戻ると、違和感を覚えた。
誰もいないはずだが、何か異物があるような、不思議な感覚を覚えた。
「誰かいるのか?」
カティは空間に問うた。
「……さすがですね。おはようごうざいますぅ!?……か、カティさんその頭は?」
闇から出てきたのは召喚された勇者だった。
本人は格好よく登場したつもりだったが、カティの頭を見て面食らってしまった。
「これは……気にしないでください。それよりもここにどうやって?……いえ、魔法ですか?しかしすぐに戻られた方が。」
カティも勇者の登場には驚いていた。
下手人とも思えて身構えていたのだが、まさかの勇者。
しかもそれが、口をあんぐり開けてカティの頭を凝視していた。
「あ、ああ、いや、それは大丈夫です。幻覚と言うか、身代わりを置いてきているので……。それより、あなたが自分と接触を試みているのを知りまして、魔法もようやく使いこなせてきたので……綾を、妹を守っていただきありがとうございます。そのお礼が言いたくて。」
「いや、私は大した力になれていない。……ですが、今後は貴方たちのお力になれると思います。」
「……もしかしてその頭はそのせいですか?」
勇者はカティの頭の異変の理由を察した。
「その通りです。……私など大した者ではありませんが、それでも、貴方たちの力になることを誓いましょう。せめてこの世界の一員として……許されることではないでしょうが……。」
「ありがとうございます。それだけで自分たちは救われた気がします。……この世界に来て、気が滅入ることばかりで。」
「……いえ、お恥ずかしい限りです。しかし、私などよりアヤ様に会ってきてはいかがでしょうか? 寂しそうにしていましたし。」
「ああ、それなら先ほど会ってきました。随分落ち込んでいたので会えて良かったですが……あと、カティさんには言っておきますが、隷属魔法は外してしまいました。」
カティは驚いた。
どうやってやったかは分からなかったが、カティは追求する気はなかった。
彼も自身の理外の者。
おそらく、勇者の使う魔法で解除したのだと判断した。
そして、それは1つの懸念が無くなったことを意味した。
「なんと!しかし、隷属魔法は本来罪人にしか、かけることを許されないもの。私は反対でしたので、良かったと思います。」
「そうですね……それと、お別れの前にもう1つ。私たちは数日後に城を出発する予定です。しばらくは王都周辺にいるでしょうが、カティさんたちの出発も近いはず。……綾を、妹をお願いします。」
勇者の必死の願いであった。
妹の無事を願うため短期間で魔法を習熟させ、そしてカティが信頼できる者と分かると託したのだ。
「……逃げてもいいのでは?」
カティは後ろめたさから、そう尋ねた。
しかし、勇者は首を横に振った。
「いえ、どのみち帰れないのでしょう。それならこの世界で暮らすしかない。そして自分はこの世界を救う力がある。……幸い、自分のパーティは理解もあり、そして強い。このチャンスを逃さない手はないと思います。」
「……分かりました。私の言葉は忘れてください。アヤ様を戦場に連れ出すことになっても、必ず守って見せます。」
「お願いします。しかし、連れ出すのは良いと思います。……正直自分には魔物とかより、悪意ある人間の方が恐ろしい。」
見た目が15歳程度の少年が言うセリフではないとカティは思ったが、必ず守ると約束し、別れた。
今生の別れではないと信じて。
カティの目と頭には光るものがあった。
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その日、カティはアヤに魔法の使い方を教えた。
と言っても、神の僕の言っていた「自分の力を相手に注射するイメージ」という言葉を伝えただけだが。
アヤはカティの頭に驚いていたが、カティが事情を説明すると、深く謝った。
「カティさん、私たちのために、ありがとうございます。何といっていいのやら……私もできることをしますので……。」
「それでは本末転倒ですので……とりあえず、その神の僕が言っていたことを私に試してみてください。神の僕は貴女の力を“生かす力”と表現しました。サポート系の魔法だとは思うのですが。」
「分かりました。お願いします。」
アヤはイメージした。
自身の感じていた違和感を、魔力と称するその違和感を。
指先に力を込めて、カティに触れた。
「おお!」
「えっ!?」
アヤには分からなかったが、カティはその変化が分かった。
それはカティにも思いもよらない画期的なことであった。
「……魔力回復の魔法ですか……。」
「魔力回復?」
「ええ、それより変わったことはありますか?」
「……いえ、相変わらず多少違和感がありますが。」
しばらく魔力回復の魔法を続けていると、分かることがあった。
1つは、アヤ自身の魔力を消費しているのではなく、周囲の魔力を吸収し、それを分け与えられるということ。
2つ目は、アヤ自身も魔力を貯められること。
3つ目は、意識すれば物体からも魔力を奪えること。
言わば、魔力タンクのような存在だった。
「素晴らしい!こんな魔法は聞いたことがありません。確かにこれならば、魔術師たちに分からないのも無理はないでしょう。」
頭を輝かせながら、カティは喜んだ。
アヤはその魔力回復の魔法を、カティは増した力の制御を、それぞれ訓練した。
カティは奇異と憐みの目で見られたが、彼は特に気にしなかった。
そして、数日後、遂に出発の命が下った。
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「しかし、盛大な出立式でしたね。」
王都を出て、三日、カティとアヤは馬に乗って魔族領へ向かっていた。
未だ魔族には会っていないが、そろそろ魔族の勢力圏内に入る。
「そうですね。しかし、囮ですからそのようなものでしょう。本物の勇者たちは別ルートで数日前に出発しています。」
カティ達の通るルートは強い魔族のいる場所や、激戦区を通るものだった。
囮は目立てば目立つほど、有効なものだ。
「空気が変わってきましたね。そろそろ敵が来るやもしれません。」
「分かりました。」
カティがアヤに警戒を促す。
しかし、お互いに気負いはない。
ここまで魔物をいくつか倒してきたが、カティは特大剣を片手で振り回し、どれも一撃で葬ってしまった。
アヤには、恐怖よりも安心感が勝っていた。
そして数分後、遂に魔族と出会った。
夕方であり、逆光の中進んでいたため、少し発見が遅れた。
「貴様らが勇者の一行か。二人だけで攻め入るとは我らも舐められたものだ。」
「……お前は?」
「我は魔軍四天王が一人、知のシィバァス。人類の希望とやらもここで終わりよ。」
「えっ!?いきなり四天王!?」
アヤは驚いた。
いきなり最上位に近い魔族が現れたからである。
「ふっ、女。貴様が勇者か。確かに小手調べで小戦力を送ることもある。だが、今回は本物の勇者というではないか。だから私が進言して自ら来たのだ。」
「なっ!」
「……。」
アヤは動揺したが、カティは落ち着いていた。
「しかも、この立ち位置は貴様らには逆光!目の働かぬ中で満足に戦えるかな?」
「ひ、卑怯な!」
「これも戦略と言うものだ。勇者の女よ。さて、覚悟はできたか?」
魔族は剣を抜き、構えた。
「笑止!シィバァスよ!策士策に溺れるとはこのことだ!」
「何っ!?」
カティは一喝すると、兜を取った。
夕日がカティの頭を照らし、輝いた。
「ぐあっ!眩しい!」
シィバァスは思わず目を閉じた。
「行くぞシィバァス!」
「何を!多少目が見え、ず……。」
しかし、知の四天王は永遠に口を閉ざした。
飛びかかったカティによって、反応もできずに真っ二つにされたのだ。
「ふぅ、こんなものか。」
カティは特大剣の血のりを払うと、再び馬に乗る。
カティは過去にも魔族と戦ったことがあったが、そのときは下級の魔族一体対し、騎士団の一隊が総出で対応していた。
その頃には比べることが出来ないほどの力。
かつては片手の、どちらかと言うと、細身の剣を愛用していたが、今は鉄の塊ともいえる特大剣を軽々振り回せるようになっていた。
「行きましょうアヤ様。まだ道のりは遠い。」
「わ、分かりました。」
まだ旅は始まったばかり。
しかし、二人の明るい未来を照らすように、夕日の光とカティの頭は輝いていた。
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「くっ、囲まれていますね。」
「ど、どうしましょう。」
数日後の森の中。
ここまで順調に魔族を倒してきたが、森に差し掛かったところで囲まれていた。
魔物と、それを率いる魔族。
未だ全部の姿は見えずとも、気配は膨大にあった。
「アヤ様は私の後ろに、魔力回復を私にお願いします。」
「はい!」
アヤは魔法をかけ続ける。
しばらくの訓練後、離れた相手でも魔力回復が使えるようになった。
「ぬん!金剛!」
気合と共に、光の防御魔法をカティは2人にかける。
本来なら部隊単位の合同でかける魔法だが、魔力回復のバックアップがある今のカティにとっては、造作もないことだった。
これで生半可の攻撃や魔法は通らなくなる。
「魔法剣!」
光魔法を特大剣にまとわせ、横に振る。
木々と共に多数の魔族と魔物の首が飛んだ。
剣に魔法をまとわせるなど、これも大量の魔力を使う。
魔力回復と、剣を振う膂力、そして光魔法の技量があってできることだった。
その後も特大剣と光魔法を駆使して大量の魔族と魔物を駆逐していく。
戦いは森の中で行われていたはずだが、その場は焦土となっていた。
しばらく屠り続けたころ、巨体の魔族が姿を現した。
「ぐっふっふ。やはり有象無象では無理か。しかし、貴様らの力も尽きたころだろう。我は魔族四天王が一人、力のバルディエレス。行くぞ!」
叩きつけるように、カティに向かって棍棒を振り下ろす。
「カティさん!!!」
「ふんっ!光拳!」
カティは光魔法を右手に集めると、振り下ろされる棍棒を殴り付けた。
拳と棍棒がぶつかる。
そして棍棒は、大きな音を出し、砕けた。
「な、何だと!?」
バルディエレスは狼狽した。
「ふんっ!」
カティは、光魔法を右手に集めたまま、バルディエレスを殴り付けた。
「びゃっ!!!」
バルディエレスは砕け散り、棍棒と同じ運命をたどった。
残っていた魔族や魔物も、それを見て逃げていく。
「さて、何とかりました。アヤ様、お怪我は?」
「私は何もしていないので大丈夫です。」
「ではすぐに出発しましょう。」
カティはアヤに笑顔を向ける。
その笑顔と頭は輝いていた。
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「何か異様に暗いですね……。」
「ええ、妙な雰囲気です。日は落ちましたが、ここは抜けてしまった方がいいかもしれません。」
二人は、廃村を進んでいた。
日が沈んだばかりのはずなのに、辺りは暗い。
満月も出ており、太陽は無くとも月明かりがあるはずなのに、地上は暗かった。
霧が出ているというわけでもない。
異様な雰囲気を感じ、足を速めた。
その時である。
「ぐっ!」
カティは咄嗟に剣を抜いて防御した。
キンッと金属がぶつかる音がした。
「ちっさすがに止めるか。」
「何奴!?」
「我は魔族四天王が一人、速のスエズェ。覚悟!」
その名の通り、スエズェは速さでカティを翻弄した。
「素早い奴!」
「当たらなければいい。そして貴様等の弱点は後ろの勇者だろう。今までの四天王たちは全て特大剣の貴様に敗れている。」
「……。」
「えっ!?私?」
「行くぞ!」
スエズェは素早く近付き、アヤに短剣を振り下ろそうとした。
「へ?はれ?」
しかし、スエズェはアヤに近づいた瞬間、突然力を失い、その場に倒れ込んだ。
「な、何故……?」
「……周囲から無限に魔力を吸収するアヤ様に、魔力の塊である魔族が近づけば、どうなるか分かるだろう。」
「な、なん……!」
カティはそのまま特大剣を振り下ろし、スエズェを叩き斬った。
「アヤ様、お怪我は?」
「大丈夫です。……でも、四天王相手でもこんなことができるのですね。」
「さっきのスエズェも、一度私たちに近づいた後は動きが悪くなっていました。それに加えてアヤ様に近づいたのです。当然でしょう。」
いつの間にか、周囲は明るくなっていた。
月明かりが戻ったのだ。
暗かったのは、奇襲を成功させるためにスエズェがやったのだろう。
「魔王は魔大陸から出て、大陸端の居城にいます。その魔王城もあと少し。頑張りましょう。」
「はい。」
満月の月明かりが二人を照らす。
静かな月光に照らされ、二人は進む。
カティの頭も、静かに輝いていた。




