フォーグレンの神官45
「うわあ。すごいわね。そっくりだわ。ロセちゃんとセンくんが二人づつ。きゃー、センくんってやっぱり男前ねぇ。センくんなら女でもOKそうだわ。アルビーナ。あなた、ずっとセンくんのままでいなさいよ。そのほうがいいわよ」
変化を遂げた二人を見て、キリカは黄色い声をあげ喜んだ。センになったアルビーナはとことん嫌そうな顔をし、ミシノがため息をつく。
「神官ってすごいなあ。僕も神官になれるかな」
「ミン。やめときなさいよ。神殿には変な人がいっぱいいるから、近づいたらだめなんだから」
そうミンに言い聞かせるキリカを見ながら、四人はため息をついた。
考えていることは一緒だった。
「じゃ、アルビーナ。ターヤを頼むな」
「わかってるわよ」
ロセは愛おしそうにターヤの頬を撫でると、センの姿のアルビーナにターヤを渡した。ロセの姿のミシノはすでにキィラを抱え、術が始まるのを待っていた。
「ミシノ、アルビーナを掴んでください」
センの言葉にミシノは肩にキィラを担ぎなおし、アルビーナの腕を掴んだ。アルビーナは両手でターヤを抱えている。
「ミシノちゃん、兄さんをよろしくね。ネスにしっかり言って置いてよね」
「わかってます」
「キリカさん、下がってください。センさん、始めよう」
センはロセに言葉に頷くと『神石』のかけらを手に持った。そして片方の手の平をアルビーナ達に向ける。ロセも同様に手の平を2人に向けた。
「ロセ!」
「センさん!」
二人は声を掛け合うと力を放った。
眩しい光が部屋に溢れる。そしてぽんっと弾ける音がして、光が部屋の四角に分散した。そして光と煙が部屋から消える。
部屋に残されたのは、セン、ロセ、キリカ、そしてミンだけだった。
「ハーヴィン様」
宮殿の中の図書館で本を読んでいたハーヴィンに、ティアナはそう声をかけた。ハーヴィンは本から視線を上げると、ティアナを見つめた。
ティアナは水色のドレスをまとい、その金色の髪を大きなリボンで後ろにまとめていた。動く度にふわりと水色のドレスが舞い、歩いているだけなのに軽やかにステップを踏んでるように見えた。
ハーヴィンはまだ答えを出していなかった。
国のためにはティアナと婚姻を結ぶべきだった。しかし心がそれを拒否していた。
ハーヴィンの心の中にいるのはただ一人、センの姿だけだった。
目の前の美しい姫君は、ハーヴィンの隣に腰掛け、その青い瞳を潤ませていた。頬はピンク色に染まり、深紅の唇は柔らかく閉じられていた。まだ少女といってもいい年齢なのだが、ハーヴィンを見つめるその姿は少女でなく大人の女性だった。体全体から金木犀の花のような甘い香りがした。
触れて、抱いてしまえばいい、本能がハーヴィンにそう語りかけてくる。
『ハーヴィン殿下……』
しかし脳裏にセンの姿が浮かび、その気持ちは一瞬にして消える。
代わりに数日前に抱き寄せ、その時に嗅いだ爽やかな香り、その感触が思い出された。
「ハーヴィン様?」
美しい姫君が首をかしげてハーヴィンを見上げた。
「ティアナ姫、図書館は退屈でしょう。外に出ませんか?」
ハーヴィンはティアナに微笑むとそう言った。




