フォーグレンの神官44
「ラズナン王ねぇ~」
ミンが広場で見た光景を話し終り、キリカは椅子の上で体を伸ばした。
十七年前に死亡したはずの王太子が舞い戻り、第五十二代シュイグレン王として君臨した。
センとアルビーナは十七年前、見習い神官としてすでに入殿していた。しかしフォーグレン側ではその事件は知らされていなかった。当時この事件を知っていた火の神殿の人間は、火の大神官、水の神殿を訪問していたカネリ、タリザだけだった。他の者は事件の詳細を知らされておらず、二人はミンの話に驚きを隠せなかった。
ロセとミシノはその頃シュイグレンにいたが、親元におり神殿にまだ入殿していなかった。シュイグレン国内ではこの事件は、水の神殿から水の『神石』を奪おうとした王太子と神使人が神官と争い、死亡したということで知られていた。
「わたしも兄さんが詳しく話してくれなかったから、よくは知らないんだけど、悲惨な戦いだったみたいだわ。かなりの数の神官が犠牲になったと聞いているわ」
キリカはそうつぶやいてベッドの上にキィラを見つめた。キィラは煎じた薬が効いているのがよく寝ていた。
「とりあえず、私はターヤを連れて戻ります。早く大神官様にこのことを知らせることが先ですし、ターヤのことも心配ですので」
センは椅子から立ち上がると、部屋を出て行こうとした。
一刻も早く、シュイグレンのこと、ターヤ、そして火の『神石』のことを知らせる必要があった。
「センさん。ちょっと待てよ。俺も一緒に行くぜ。うちんとこの大神官もネス様に見せる必要があるし……ターヤのことも気になるしな」
ロセはセンを呼びとめ、そう言った。そして不意に思いついたように目を開く。センはそんなロセを訝しげに見つめた。
「センさん。瞬間移動の術を俺とあんたでできないか?シュイグレンの状況をいち早く知らせる必要もあるし、大神官様の容態もよくない。瞬間移動できればすぐに伝えることができる。移動での負担も減るし」
「……できないことはないと思うのですが…。でもあなたと私が術を使ったら、私たちが移動できません。病人の大神官様とターヤだけを移動させるのは……。状況を伝える必要もありますし……」
「そう。そこが問題だ。でもいい解決方法があるぜ。ミシノ、アルビーナ、フォーグレンに行ってくれないか」
「!?」
アルビーナとミシノは思わぬ言葉にぎょっとしてロセを見た。そしてアルビーナは眉間に皺を寄せて口を開く。
「悪いけど嫌よ。そんなの面倒じゃないの!第一、フォーグレンではあたし達は指名手配なんだから」
そう言うアルビーナを、センとロセはじっと見つめた。アルビーナは二人の表情から彼らが考えていることがわかり、ますます渋い顔をする。
「変化。変化しろってこと?僕はロセみたいな下品な奴になりたくないんだけどなあ」
ミシノがため息まじりにまずそう口にした。
「あたしだって、またセンになるのは嫌よ。だってさあ、つまんないじゃない。いつも澄ましていないといけないし……」
それにアルビーナが続く。
「ミシノ、お前を助けたのは俺だったよな」
「アルビーナ……」
ミシノとセンは二人の視線を受け、口をへの字に曲げた。しかし同時にため息をつくと頷いた。
「わかったよ」
「わかったわよ」
こうしてセンとロセは瞬間移動の術を使い、アルビーナ達をフォーグレンの宮殿に送ることにした。




