2、最悪のキメラ
数日後。第二部隊の訓練場。
「今日こそは先輩の命じゃなくて、ナンバーワンの座をもらいます」
「お前、俺をやる気満々じゃん。お前の家の政略結婚と俺は無関係だから、逆恨みするのはやめろ」
「違いますよ! うっかり口が滑っちゃった。気をつけないと」
「心の声が漏れてるぞ……」
ネストは仕方ないので剣を構えた。レイアは右の掌を上に向けて前に出した。
「いでよ! 最悪のキメラ!」
ネストはそれを聞いて驚愕した。レイアの掌にダークグレーの小さい卵型の石が現れた。
「お前、俺を殺す気か!」
石は光ると、モンスターとなってレイアの右横に立った。最悪のキメラとは複数のモンスターが一緒になったようなモンスターだ。大きさは二メートルぐらいあり、横にもデカイ。
中心にある顔は肌色で、葉っぱのような形の目、横に広がった鼻、腫れあがった赤い唇をしている。顔のパーツ全てが大きくて、子供が描いた落書きのようだ。人間のようにも見える。
他に、キツネ、蛇、鳥、狼の頭がついていて、それぞれの口から、瘴気を吐き出していた。
背中はダチョウ、前足は太い鳥の足、後ろ足はゴリラ、尻尾はワニだ。体全体が黒い毛でおおわれていた。その異様な姿から「最悪のキメラ」と呼ばれていて、闇魔法で作り出されたモンスターではないかと言われていた。
ネストは話には聞いていたが、今日初めてキメラを目にした。
(人間が使われているなら本当に最悪だ。それと、卵が腐ったような臭いがする)
思わず手で鼻と口をふさいだ。瘴気は毒ガスと同じだ。瘴気に当たると人は気分が悪くなったり、死んだりする。キメラから出ている瘴気を直接吸い込むと即死だ。
(レイアが無事なのは、自分の魔力で再生させたモンスターだからというむちゃくちゃな話だが、それ以外は通常のモンスターと変わりがない)
キメラが出たことで、訓練していた他の隊員たちは驚いて避難していた。
「俺の負けだ。そいつとやって勝てるわけないだろ」
ネストはあっさり負けを認めた。
「え~、そんなことないです。先輩は強いです」
「ああ、そう。瘴気で死んじゃうけどな」
「……先輩は大丈夫だと思います」
「今、間があったぞ」
「そんなことないですよ」
慌てて言ったレイアを、ネストは疑いの目で見た。
(この嘘つきが。それとも本当に止まってたのか?)「とにかく、危ないからそいつをさっさとしまえ。どうせならもっとまともなモンスターを出せ」
「え~、超レアで一番のお気に入りなのに~」
そう言われて、ネストは改めてキメラをまじまじと見た。キメラの目はみんな焦点が合っていなかった。
(確かに一体しかいないならレアだ。でも、みんな目がいっちゃってるだろ)
モンスターは魔鉱石と瘴気でできている。魔鉱石は魔力を持った宝石で、自然に出現する。魔鉱石に瘴気が当たるとモンスター化するのだ。
倒したモンスターはモンスター化させないために、魔法で魔鉱石を準魔鉱石化して持ち歩くのが決まりだ。魔剣士は全員、準魔鉱石化できる。
モンスターが人を攻撃するのはエネルギーを吸い取るためだ。結果的に人は死んでしまう。
(なのにこいつは、準魔鉱石からモンスターを再生させて所持しているのだ。魔剣士は準魔鉱石化できてもそれを加工できない。だがこいつは魔法使いの端くれだからそれができる。
こんなことがバレたら、黙っていた俺たちはこいつと一緒に捕まるだろう。多分、第二部隊は解体されて消える)
レイアがモンスターを所持しているのを知ったのは、一か月ぐらい前だった。
「見てください! 超レアなショートドラゴンを捕まえたんですよ」
訓練場にやってきたレイアは意気揚々と、ショートドラゴンを出した。三十センチぐらいの小さいドラゴンなのでそう呼ばれている。
出てきたドラゴンは宙に浮いて欠伸をしていた。頭に小さい角が二本と背中に小さい翼がついている。小さくてもS級モンスターで爪には麻痺毒がある。
モンスターを見て、訓練場にいた隊員たちは全員凍りついた。
レイアは隊に入って仕事に慣れると、個人でモンスター狩りに出かけ、モンスターを集めていたのだった。
隊員が慌てて隊長を呼びに行った。訓練場に来た隊長は、レイアとモンスターを刺激しないように静かに言った。
「レイア、モンスターは他の者に見せてはいけないよ」
「……はい、驚きますもんね。ここだけにします」
隊員たちは思った。
(そうじゃないから)
(俺たちにも見せないで……)
レイアが入隊した当初は、第二部隊の唯一の女性隊員だとみんな喜んでいたが、思った以上にヤバい奴だということを、その時全員が認識した。
この後かん口令が敷かれて、このことは隊の秘密になった。
レイアはおとなしくキメラを石に戻した。第二部隊の訓練場は城の端にあるので、めったに関係者以外が来ることはないが、
(このことがバレるのは時間の問題だろう……)
とネストは思った。




