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アーク・コントラクター  作者: 瑠志彦
第10章:誓導者の試練

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10-5

迷宮『幻砂冥廊』、二十四階層の安全地帯。

砂塵の音すら届かない石造りの小部屋は、外の熱気が嘘のような不気味な静寂に支配されていた。

リィナはアレンとセリスに向き合った。


「……今日が、二十四階層のボス戦ですね」


彼女が精神を集中させると、指先から編み出された魔力の糸が三人の身体を包み込んでいく。

物理、魔術、衝撃──三層の絶対防御が体表わずか一センチの位置に定着する。


──《三重魔導護膜トリプル・アークシェル》。


「頼む」

「お願いしますわ、リィナ。……いつも通り、完璧な守りですわね」


アレンの短い言葉と、セリスの信頼に満ちた返声。

再構築された障壁の淡い光が、三人の決意を静かに照らし出していた。

二人の胸には、恐怖を塗りつぶすほどの強い誓いが宿っている。

主の隣に立つ者として、この未攻略の領域で強くなった自分たちの姿を見てほしい──その純粋な渇望が、彼女たちの魔力を研ぎ澄ませていた。



二十四階層。そこは、果てしなく続く巨大な砂の神殿だった。

雲を突くほどに高い天井からは微細な砂が絶え間なく舞い踊り、視界を黄金色の霞が覆っている。

だが、この広大な空間には異様なまでの「静寂」が満ちていた。

かつて上級魔軌士の探索隊を幾度も退けてきたはずの魔獣が、一匹たりとも姿を見せないのだ。


「……アレン様、魔獣がいませんわ。気配さえも……」

「ここまで来ても、迷宮はアレン様を避けているのですか……?」


「気のせいだろ。ボス部屋へ急ぐぞ」


アレンは平然と答えるが、二人は確信していた。

「理外」の力を宿す男を前に、迷宮の生態系そのものが恐怖し、平伏するように道を譲っているのだと。


やがて、一行は広間の最奥、巨大な砂の門の前に到達した。

その重厚な石扉の向こう側に、未攻略の主が潜んでいる。


「二人だけでやってみろ。危なくなったら助ける」


アレンが壁に背を預け、静かに促した。

二人は迷いなく頷き、戦士の顔で門を押し開いた。


「はいっ!」

「全力で……やってみせますわ!」


扉が開かれた刹那、砂の渦巻く広間が姿を現した。

中央で膨大な砂が集束し、巨大な人型を形成していく。

砂の巨人サンド・コロッサス

身長十メートルを超え、全身に土と闇の属性を帯びた砂の鎧を纏う守護獣が、不気味な咆哮と共に強力な精神干渉の波動を放った。


「っ……! 視界が……!」

「幻が……足元が砂に沈んでいくようですわ……!」


二人の視界が歪み、過去の記憶が濁流となって押し寄せる。

だが、リィナが維持する《三重魔導護膜トリプル・アークシェル》が、その悪意に満ちた波動を外層で「パリン」と弾き飛ばした。


「大丈夫……まだ、いけます……!」

「リィナ、合わせますわ!」


戦闘が開始される。

リィナは光盾の「通し穴」をミリ単位で調整し、セリスの魔術を通す隙間を確保しながら、風属性で周囲の砂の流動を抑え込む。


「──《真空刃ウィンド・スラッシュ》!」


風の刃が巨人の腕を削り、砂の結合を弱めた瞬間、セリスが間髪入れずに追撃を叩き込む。


「──《火槍フレイム・ランス》! 続けて──《氷槍アイス・ランス》!」


急激な加熱と冷却。

熱膨張の物理法則により、巨人の頑強な砂の装甲に目に見える亀裂が走る。


(いい連携だ。属性の特性をよく理解している)


アレンは沈黙したまま、二人の成長を「理外の視界」で見守っていた。


「グォォォォッ!」


巨人が怒り狂い、その巨大な拳をリィナへと振り下ろした。

凄まじい風圧と共にリィナの《三重魔導護膜トリプル・アークシェル》が衝撃を吸収し、空間を揺らす轟音が響き渡る。


「っ……、外層にひびが……! セリス、今のうちに!」

「ええ、任せてください!」


セリスが《閃光砲フラッシュ・キャノン》を放ち、巨人の視界を奪う。

さらに《嵐雷撃ストーム・ブレイク》の紫電が、その巨体を強制的に麻痺させた。


巨人が膝をつく。


「セリス……今です!」

「はいっ!!」


セリスの魔力が、アレンとの循環によって極限まで高まった。

彼女が選択したのは、六属性を連続で切り替え、弱点部位を絶え間なく叩く「高速連撃」。


火、風、雷、光、氷、そして再び火。

属性の奔流が巨人の胸部を穿ち、砂の奥に隠された、不気味に輝く「核」を露出させた。


「これで、終わりですわ! ──《光槍ライト・ジャベリン》!」


セリスの最高純度の光が、巨人の核を真っ向から貫いた。

一瞬の静寂の後、十メートルを超える巨躯は音を立てて崩れ、ただの砂塵となって広間に舞った。


舞い散る砂の中、アレンがゆっくりと二人の元へ歩み寄り、手を叩いた。


「……よくやった。二人とも、本当に強くなったな」


その一言。

上級魔軌士の精鋭さえ敗北した強敵を、自分たちの力だけで討ち取ったことへの、偽りのない賞賛。


「~~~~っ!」

「ア、アレン様……そんな……」


リィナは感極まって瞳を潤ませ、セリスは上気した顔を真っ赤にして俯く。

暗い砂漠の迷宮に、立派な誓導者として歩み始めた二人の、誇らしげな微笑みが美しく咲いた。


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