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アーク・コントラクター  作者: 瑠志彦
第9章: 二人の誓導者

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9-7

女神歴二一九六年、九月下旬。

公都ガルディアスの目抜き通りは、秋の訪れを告げる涼やかな風が水路を渡り、白亜の建築群に柔らかな陰影を落としていた。

石畳を打つ三つの足音が、洗練された都市の喧騒の中に心地よく響く。

身体を揺らし、無造作ながらも理外の威厳を放つアレン。

その右側には、銀髪を秋の日差しに輝かせ、控えめながらも凛とした歩みのリィナ。

そして左側には、一分の隙もない戦闘衣を纏い、公国の至宝たる気品を湛えたセリス。


目的地は、首都大通りに面して誇り高くそびえる、魔術衣装の最高峰『ガルネリア本店』である。

重厚な彫刻が施された自動扉が音もなく左右に開くと、室内の空気は一変した。

外界の喧騒は完璧な防魔結界によって遮断され、代わりに漂うのは、高級な絹糸と魔力安定剤が混じり合った、この店独特の清廉な香り。


「お待ちしておりましたわ。アレン様、リィナ様。……そして、セリス様も」


出迎えたのは、オーナー兼デザイナーのレティシア・ガルネリア子爵夫人だった。

世界的な天才デザイナーである彼女は、三人が並んだその瞬間の「構図」を見ただけで、職業的な歓喜に瞳を激しく燃え上がらせた。


アレンとリィナにとって、ここは二着目のフルオーダーとなる場所。

セリスは現在、公国から支給された一億エルのオーダーメイド軍装を纏っているが、今日は「三人一組」としての統一感カラーコーデを新調する特別な日だった。


「レティシア様。……今度は、三人とも『軍服』に寄せたデザインにしたいと考えているんです」


リィナが、第一誓導者としての自覚と誇りを込めて、真っ直ぐにレティシアを見据えて提案した。


「護衛としての役割もそうですが、何より統一感があった方が、アレン様の格に相応しいと思いますわ。公国の象徴として、誰の目にも明らかな『絆』を形にしたいのです」


セリスもまた、凛とした声を響かせて同意した。

アレンは二人の熱意を不思議そうに眺めていたが、漆黒の瞳を細めて短く応じた。


「……俺は任せる。動きやすければ、何でもいい」


「承知いたしました。……『理の守護者』とその双翼、ですね。最高の一着をお約束しますわ」


レティシアの筆が、型紙の上で迷いなく躍動し始める。

最終的なデザインは、深い紺碧ダークネイビー白銀シルバーを基調とすることに決まった。

ベースはガルディア公国軍の制式軍服だが、レティシアの手によって装飾の重みは削ぎ落とされ、代わりに流動的な魔力伝導ラインが美しく配置されていく。


それは、個々の役割に合わせて最適化されつつも、並び立つことで一つの完成された「ことわり」として機能するデザイン。

「そんな大げさなものか?」と首を傾げるアレンに、リィナとセリスは「大げさではありません!」と一歩も引かずに声を揃えた。



最終的に元が軍服とは思えぬ洗練されたデザインが完成し、採寸の儀へと移る。

レティシアと熟練の職人たちがアレンの身体にメジャーを当て、指先で筋肉のつき方を確認したその瞬間、室内には凍りついたような驚愕が走った。


(……な、何ですの、この感触は……?)


レティシアは自身の指先から伝わってくる、あまりに異常な「滑らかさ」に戦慄した。

アレンの体躯に触れた瞬間、そこには本来あるはずの魔力抵抗や、生体電流のノイズが一切存在しなかった。

魔力が外側まで完璧に整い、細胞の一つ一つが戦闘という現象のために最適化されている。

一九二センチの長躯に宿るのは、現代魔術の理論では到底説明し得ない、理外の異質さそのものだった。


リィナはアレンの隣に立つと、自然に背筋が伸び、アレンの魔力循環と同調するように柔らかな光の気配を纏い始めた。

セリスもまた、アレンを守り抜くという不退転の気迫が、凛とした立ち姿に鋭い輝きを与えていた。


「仕上がりは十月下旬になります。楽しみにしていてくださいな。歴史に名を残す名品になりますわ、これは」


レティシアは三人の背中を見送りながら、確信に近い予感を抱いていた。


アレンが放つ、静寂の中に潜む絶対的な威圧感。

リィナが展開する、すべてを包み込むような防御の燐光。

セリスが纏う、周囲を圧倒する攻撃的なまでの気品。


この三人が、お揃いの衣装を纏って公都に、あるいは戦場に降り立ったとき。

人々はそれを単なる魔軌士と誓導者の集まりではなく、ガルディア公国の未来を担う新たな「伝説」の顕現として語り継ぐことになるだろう。


夕暮れに染まり始めたガルディアスの街を、三人の影が等間隔で歩んでいく。

その背中は、間もなく訪れる激動の時代を予感させるほど、美しく、そして頼もしかった。


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